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第43話発明 争いの女神・ベラトリクシア登場なのじゃ

粉雪舞う雪原、その中央で対峙する二つの存在。

 

ひとつは、四本の腕を持ち、下半身が巨大な蛇となった女神――ベラトリクシア。

鱗は鈍く光り、四つの手にはそれぞれが異なる構えを見せていた。

一本は空を裂くように掲げられ、一本は胸元で印を結び、残る二本は蛇のようにしなやかに揺れている。

静かに佇むその姿は、恐ろしくも神々しい。

 

対するは、全身を重装甲で覆った白銀の魔神。

関節が駆動するたびに金属音が響き、胸部のコアが金色に脈動する。

 

博士がレバーを押し込み咆哮する。

 

「もう一発じゃあぁぁぁぁ!!」

 

両肩のスピーカーが再度低く振動し始める。

低い唸りが空気を震わせる。

次の瞬間、指向性の不可視の衝撃が空間を歪めながら放たれた。

瓦礫が砕け、地面が波打つ。

通常の生命体であれば、その瞬間に内側から破壊されているはずだった。

だが――

女神は微動だにしない。

四本の腕のうち、二本がゆっくりと前に掲げられる。

空間そのものが歪み、音波が彼女の目前でねじ曲がる。

まるで見えない壁に阻まれたかのように、振動は霧散していく。

カルテの目が見開かれる。

「無効化......された」

女神の瞳が笑ったかのように細められた。

 

ベラトリクシアは静かに、もう二本の腕を前へと掲げた。


その動きはあまりに滑らかで、まるで重力すら彼女を縛れていないかのようだった。

指先がわずかに湾曲する。


水面に触れる直前のように、虚空をすくい上げる仕草。

そこには何もない――はずだった。

だが次の瞬間、彼女はその、何もないはずの空間に向かって、ゆっくりと息を吹きかける。


――空気が破裂した。

音は遅れてやってくる。


先に世界が歪み、視界そのものが叩きつけられたかのように揺らぐ。

一点に押し込められていた大気が、限界を超えた瞬間、解き放たれる。


圧縮された見えない質量が、怒号のような衝撃へと変わり、爆ぜた。

ドン――ではない。


それは爆音ですら足りない、空間そのものが裂けるような咆哮。

衝撃波が円を描いて広がる。


何もないはずの空間に、確かな壁が生まれ、それが逆巻く力となって押し返してくる。

衝撃波は容赦なく直撃し、白銀の巨体を軽々と吹き飛ばした。

二人の声がこだまする。


「ぬわあああぁぁぁ」「きゃああぁぁぁぁ」


グレートダンベルガーZの体が宙を舞い、数十メートル先の地面に叩きつけられた。

装甲がひしゃげ、大地に深い亀裂が走る。

衝突の瞬間、内部フレームが悲鳴のような金属音を上げ、各所で火花が弾けた。

耐えきれずひび割れた装甲の隙間から白い光が漏れ出す。

その光が脈動するようにグレートダンベルガーZの全身を包み込み、

眩い閃光の中で、巨体の輪郭が崩れていく。

次の瞬間

パリィィィン

甲高い破砕音が空間を切り裂いた。

一筋だった輝きが、まるで硝子細工のようにひび割れ、


次の瞬間、三つへと弾け飛ぶ。

残光が収まるとそこには、

亀裂の入った二つのダンベルとマイクが無造作に転がっていた。

ダンベルとマイクの転がるその傍ら――

二つの影が、力なく崩れ落ちていた。

博士は仰向けに、カルテはうつ伏せに。

二人の間に、雪だけが静かに積もっていく。



操縦服に染み込んだ雪の冷たさが、皮膚を刺すように意識へと食い込んだ。

カルテは、はっと息を呑み、瞼を開く。

 

「……くっ……みんなは――」

 

声は掠れ、空気に溶ける。

震える手を押さえつけるように拳を握り、ゆっくりと顔を上げた。

白い世界が、軋んでいる。

そこには――倒れた人影が、いくつもあった。

 

衝撃の余波に吹き飛ばされ、雪原に叩きつけられた者たち。

膝をつき、それでも立ち上がろうともがく親方。

誰かに肩を預け、辛うじて意識を繋ぐキセルの老婆。

そして、動くことすら叶わず、雪に沈んだままの者もいる。

 

――すべて、自分のために来てくれた人たちだ。

カルテの喉が、わずかに鳴る。

アルとカロが足を引きずりながらこちらへ近づく姿が見える。

博士は倒れたまま目を閉じピクリとも動かない。

カルテは唇を強く噛んだ。

見上げると、女神ベラトリクシアが見下ろしていた。

その瞳は、底がない。

光を映さず、意思すら感じさせず、ただ――すべてを呑み込むような深淵。

逃げ場などないと、理解させるためだけに存在しているかのように。


カルテは、ゆっくりと両手を胸の前で重ねた。

指先が震えている。けれど、その震えは恐怖ではなく――決意だった。

 

――もし、私の中に女神カルミエラがいるなら......

 

瞼を閉じる。

世界から音が消える。

代わりに、胸の奥で何かが脈打ち始める。

 

――お願い、力を貸して。

――みんなを......助けて。

 

祈りであり、懇願である願いが、静かにカルテの内側へと沈んでいく。

自分を差し出してでも叶えたい、たった一つの願い。


次の瞬間。

ふ、と。

彼女の体が、淡く光を帯びる。

それは緑だった。

だが、宝石のように冷たい輝きではない。

春に芽吹く若葉のような、やわらかく、命を孕んだ光。

光は脈打つ。

心臓の鼓動に合わせるように、ゆっくりと。

やがてそれは、彼女の輪郭を越え、外へと溢れ出す。

雪の白を、優しく塗り替えながら。

倒れ伏す人々へと、そっと触れるように広がっていく。

地に倒れていた人々の身体に、その光が触れた瞬間――

止まっていたはずの指先が、わずかに震えた。

荒く乱れていた呼吸が整い、苦痛に歪んでいた表情がほどけていく。

傷口は、時間を巻き戻すように閉じ、

何事もなかったかのように元に戻っていく。

光は人だけでは止まらない。

転がっていた二つのダンベルとマイクにも、やさしく触れる。

ひしゃげた金属がきしみを上げながら形を戻し、

ひびの入った箇所は継ぎ目もなく修復されだした。

 

調和と癒しの女神カルミエラの加護。

その翡翠の輝きが奇跡を生みだした。

 

やがて――


誰かが息を吸い込む音がした。

ゆっくりと身体を起こす。

 

「むぅ」

 

たけきのこの国の伝説が再び立ち上がろうとしていた。 


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