第40発明 包囲・連携・絶体絶命なのじゃ
町はずれの草原に足を踏み入れた瞬間、足音が変わった。
石畳の固い響きから、雪を踏みしめる鈍い音へと。
きし、きし、と三人の歩みが雪の上に刻まれていく。
振り返るまでもなかった。
背後からの金属音が無数に重なっているのがわかる。
油と霜の混じった匂いが鼻を刺す。
草原の中央まで来たところで三人は足を止める。
風が低く吹き抜けた。
一体、また一体と
白一面の世界の中で、無機質な装甲が浮き上がる。
赤い光が灯り、雪の反射で鈍く瞬く。
気づけば、周囲を取り囲まれていた。
◇ ◇ ◇
「......来るぞ」
アルが低く呟き身構えた。
「いけ」
上空にいるラスト・オーダーが短く指示を出す。
その声に応じるように、機械兵達が一斉に動き出した。
最初はゆっくりと
距離を測るように、円を描きながら詰めてくる。
逃げ場を塞ぐ動き。
三人は背を合わせる。
それぞれが違う方向を睨み、突破口を探す。
だが、隙がない。
数が多すぎた。
やがて円はじりじりと縮んでいき、赤い光が近づいてくる。
「すり潰せ」
その声を合図に一斉に圧がかかる。
見えない壁が四方から迫るように、空間そのものが狭まってくる。
雪が踏み荒らされ、白が黒に塗りつぶされていった。
◇ ◇ ◇
「っ!」
アルが機械兵の腕をさばき、返す拳でその顔面、機械の仮面をたたき割る。
その攻撃の隙に、左右から同時に機械兵が迫る。
「連携!まさか!?」
刃のような腕が振るわれようとしたその瞬間。
ドゴっ
突如、せり上がった二本の氷柱が機械兵を弾き飛ばした。
その衝撃で雪が吹き飛び、視界が白く染まる。
アルの背後から声がかかる。
「油断しない」
(――クソ、借りをつくっちまった)
気まずさを隠すよう、飛びかかってきた機械兵の装甲を蹴り飛ばしながら口を開く。
「博士は?」
「あそこよ」
無数の氷の槍を旋回させながら、カロが指をさす。
その指の先には、機械兵をつかみ、それを振り回す博士の姿があった。
機械兵の胴体を蹴り飛ばしながら、アルは視界の端に博士を捉えていた。
博士は前に進んでいた。
止まらない。
サイボーグが行く手を塞ぐ。博士の拳がその顔面に入る。
一体崩れる。また一体来る。
それも薙ぎ払う。その間も足は止まらない。
ラスト・オーダーの方へ。ただ、そこへ向かって。
(……博士)
アルは飛びかかってきた機械兵の腕を取り、地面に叩きつける。
次の瞬間、また視界に博士を探す。
白衣の背中が見えた。
その白に、赤いものが滲んでいた。
小さな染みだった。最初は。
だが、アルが二体、三体と相手をしている間にも、それは少しずつ広がっていく。
気づいているのかいないのか。
博士の歩みは変わらない。
(多すぎる、このままじゃ......)
喉まで出かかった言葉を、アルは飲み込んだ。
代わりに、目の前の機械兵に拳を叩き込む。
その時だった。
博士の足が雪に取られる。
一瞬、ほんの一瞬だったが博士のバランスが崩れた。
機械兵はその隙を見逃さない。
前後左右から、重装甲の機体が飛びかかる。
「どけぇぇぇぇ!」
アルは無理やり一体を殴り飛ばし、その勢いのまま跳び込む。
腕を伸ばす。届かない距離じゃない、でも――
さらに横から別の機械兵が割り込んできた。
視界が、塞がれる。
「邪魔だッ!!」
拳を叩き込む。金属が歪む音。でも、その一瞬で時間が削られる。
「博士っ!!」
叫ぶが、間に合わない。
刃に変形した鋼鉄のアームが博士に襲い掛かろうとした。
その瞬間、
視界の端で白い何かが動いた。
雪とは違う。もっと鈍く、重い白。
次の瞬間、博士の前にそれが割り込んだ。
――巨大な手。
白銀の装甲に覆われた巨大な手が、
空から降ってきたみたいに地面へ叩きつけられる。
白い霧と火花が渦を巻く。
だが、その中心で白銀の手はびくともしない。
雪煙の中から白銀の巨神が姿を現す。
「......ダンベルガー......Z?」
思わず声が漏れる。
ゆっくりとその手が持ち上がる。
その奥には膝をついた博士の姿があった。
「でも、いったい誰が?」
カロが呆然と呟く。
その時、ダンベルガーZからよく見知ったあの声が聞こえてきた。
『みなさん、大丈夫ですか』




