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第37発明 不死身のアルデンテここにあり!なのじゃ


「待ちなっ」


掠れているが、どこか飄々とした声。

フォンの動きが止まる。


「なあ」

 

「俺の通り名、知ってるか」


フォンが振り返った。


「不死身の——アルデンテだぜ」


そこに——

アルが立っていた。

いつの間に岩から抜け出したのか。

全身が傷だらけ。

赤いパオは破れ、土と埃にまみれていた。


それでも——立っている。


フォンは目の前の立てているだけの男をみて鼻を鳴らす。

「ふん……何を言う。生きているのもやっとじゃないか」

「下っ端風情が……最後まで邪魔なやつだ」


フォンがアルに向かって駆け出す。

アルは答えなかった。

ただ——フォンを正面から見据えた。


広場に、静かな風が吹いた。

カルテが息をのむ。

カロが微笑む。

博士は静かに立っていた。


フォンがさらに速度を上げる。

その時。

アルの体力に限界が来たのか

足元が揺れだした。

右に。

左に。

ふらついた。

倒れる——

と思った。

瞬間。

アルの右足が——

一歩、踏み込んだ。


トンッ。


静かな音だった。

しかし——

その拳が——

フォンの腹に、めり込む。


ドォォォンッ!!!!


爆発的な衝撃。

フォンの体が——

吹き飛んだ。

「な——」

フォンの口から、声が漏れた。

「なんだ——今のは——」



アルは拳を前に出したままうつむく。

——しかし、その口角は上がり、ニヤリと笑う。


「ジェット亭で編み出した——新しい俺の武の境地」

「完全な脱力状態から生み出す——破壊力」


「名付けて―――――泥酔拳!」


一陣の風が吹く。

「まだ......博士にも見せたことがない技だ......ぜ......」


アルは——

拳を前に突き出したまま崩れ落ちる。

倒れながら口を開く。

かすれた声だった。


「後は......頼んだ......」


ドサリ。


石畳に、体が落ちる。



フォンが飛ばされた先に——

博士がいた。

すでに準備はできている。


目を閉じ、呼吸を整える。

その直後、博士が大きく息を吸い込んだ。

大胸筋が膨らむ。爆発しそうなほどに。

そして——それを一気に吐き出した。


「ごふぉおおおおおおぉぉぉぉーーーーーーーーっ!!!」


空気が震え、闘気が——立ち上がる。

東の国の練気術。

体内の気を特殊な呼吸と共に全身に張り巡らせる。

達人のそれは闘気の強さに応じ周囲に獣の幻影を見せる――


カルテがカロの袖をぐいぐい引っ張る。

「カロさん、またアレが見れますよ」

カロが訝しむ。

「アレってなによ」

カルテの目が輝く。

「動物園です」


博士の闘気が形を徐々に成してくる。


光り輝く黄金の獅子の顔

――――の後に続くゴリラの体、ワシの羽、羽の間にヤギの頭が生えて、腕はツキノワグマで足はペンギン、そしてその尻にはヤマタノオロチ。

そして、以前とは一つ異なる箇所が......


黄金の獅子の鬣から大きなウサギの耳が生えていた。

 

 

挿絵(By みてみん)


 

「うさ耳だぁ~♪」

カロが額に手を当てる。

「......バケモノじゃない、カルテちゃん」



フォンの目に初めて、恐怖が宿った。

「な——なんだあれは」

「あんな闘気——見たことが」


博士は静かに一歩踏み出し、

右拳を——静かに引いた。

闘気がその拳に集まっていく。

ウサギの耳が、ぴょこんと揺れた。


博士は踏み込む。

重く。

しかし——鋭く。

飛ばされてきたフォンの目の前に——

博士の拳が現れた。

拳がフォンに触れた瞬間、博士のバケモノじみた闘気が流れ込む。

そして―――フォンの中で暴れだした。


獅子とゴリラとワシとヤギとツキノワグマとペンギンとヤマタノオロチ......

そして、ウサギのパワーが―――

 

「あがっ、がぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱっ」

 

フォンの体が内側から弾き飛ばされた。

ドォォォォンッ!!!!

衝撃波が広場を揺らした。

フォンは遠くに吹き飛び——

地面を転がり——

そして——

動かなくなった。



広場に、風が吹いた。

破れた白衣の裾が、静かに揺れる。

 

カルテが駆け出した。

「博士!!」

博士の元に駆け寄る。

「大丈夫ですか、怪我は——」

「もうダメなのじゃ」

博士は静かに嘆く。

「……眼鏡が割れておる」

カルテが苦笑いをした。


カロが静かにアルの元に歩み寄った。

地面に倒れたまま動かないアルの隣に、そっとしゃがみ込む。

「……アル」

 

返事がない。

カロは静かにアルの額に触れた。

冷たい冷気が、そっと広がる。


しばらくして——

 

「……冷てぇ」

 

アルが小さく呻いた。

「起きてるじゃないですか」

カルテがぼそっと言った。

「……倒れてた方がかっこいいだろ」

アルは地面に寝転んだまま言った。

カロが小さく笑う。

「......バカね」

アルは答えなかった。

ただ——

 

空を見上げたまま、静かにきいた。

「……泥酔拳、どうだった」

カロは少し間を置いた。

「......かっこ......悪くなかったわ」

アルは目を閉じた。

「……そうか」

それだけ言った。

カルテが空を見上げた。

夕暮れが近づいていた。

オレンジ色の光が、広場を染めていた。


カルテが振り返った。

 

「フォンダシとシャンタンは……」

 

「国に引き渡すのじゃ」

「次は——もっと強い者が来るかもしれんのじゃ」

 

広場に、重い空気が流れる。


カロが立ち上がった。

「来たら——また追い返すだけよ」

アルが地面から言った。

「俺はもうしばらく動けないけどな」

「情けないですね」

カルテがぼそっと言った。

「うるさい」


こうして博士はレシピを改良した。

それ以来、オニサンドにはあるものが加えられ、

名称もほんの少しだけ変えられた。

その名は——


にぎりプロテイン。


こうしてたけきのこの国に、

筋肉を育てるにぎり飯

が誕生したのであった。


めでたしめでたし。


今日も伊沢博士は研究室で、

ダ・ヴィンチと名付けたマイクを持ちながらつぶやく。


「発明は世界を救う。

だが筋肉は——


もっと手っ取り早く救う。」


カルテがぼそっと言った。

 

「……眼鏡、直りましたか」

 

博士は何も答えなかった。

ただ、静かにひびの入った眼鏡を撫でた。



挿絵(By みてみん)


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