第33発明 フォン・ダシ&シャン・ターン登場なのじゃ
広場では、すでに争いが最高潮に達していた。
おにぎり派が叫ぶ。
「手で食べる文化の頂点はおにぎりだ!」
「海苔の香りと米の旨みが一体となった完成形を前に、まだ言い張るか!」
するとサンドイッチ派が言い返す。
「パンに何でも挟める自由度こそ正義!」
「おにぎりに具のバリエーションで勝てるか!」
ついにはおにぎりが投げられ、
サンドイッチが飛び交い、
広場が白と茶色に染まっていった。
博士は争う人々を見渡し、静かに言った。
「みんながこれ以上争う姿を、ワシは見たくないのじゃ……」
拳を握る。
「ワシが……ワシがこの国を平和にしてみせるのじゃ!!」
カルテがつぶやく。
「博士……今回こそ発明で解決ですよ」
こうして博士とカルテは、来る日も来る日も研究に研究を重ねた。
そしてある日。
巨大な装置の前に立つと、博士は大量のおにぎりとサンドイッチを投入した。
装置は唸りを上げる。
ゴゴゴゴゴ……
そして――
一つの食べ物が誕生した。
その名も、
オニサンド。
海苔の風味をまとったもちもちのパン生地に、
おにぎりの具とサンドイッチの具を両方詰め込んだ、
和洋折衷の奇跡の一品である。
カルテが目を輝かせる。
「博士、ついにやりましたね!」
博士は静かにうなずく。
「あぁ。これで平和を取り戻すのじゃ」
おにぎり派が言う。
「海苔の香りはそのままに、パンのふわふわ感が加わって……これは反則だ!」
サンドイッチ派も言う。
「具のバリエーションが無限大……しかももちもちしてる!毎日食べたい!」
国民たちはオニサンドを頬張り、笑い合った。
こうして世界には――
もちもちとした平和が訪れた。
――かに見えた。
その平和を乱す者が現れたのである。
それが――
ハンバーガー派だった。
かつて敗れ去ったハンバーガー派、しかしその顔には自信が満ちていた。
「おにぎり?サンドイッチ?まだやってんのか」
「この前も言ったよな」
「ボリュームとジャンクな旨み!食べ応えこそ正義だ!」
「前回は運が悪かっただけだ!今度こそ俺たちの時代だ!」
国中にハンバーガーがばらまかれ、
たけきのこの国は再び大混乱に陥った。
博士は静かに言う。
「落ち着くのじゃ。争う必要はないのじゃ」
「みんな違って、みんなよい」
しかしハンバーガー派は聞く耳を持たない。
「ハンバーガー最強!」
「火を通さないものは全部時代遅れ!」
広場は騒然となった。
沈黙が流れる。
博士はゆっくりと立ち上がった。
そして――
白衣の袖をまくった。
カルテが小声でアルに言う。
「……来ますよ」
アルが小声で返す。
「……ああ」
カロがカップを持ったまま小声で言う。
「……今回こそ普通に終わるかしら」
博士の拳が空気を引き裂く。
はずだった。
「待て」
声がした。
低く、静かな声が広場全体に届く。
ハンバーガー派の中から、二人の人物がゆっくりと前に出てきた。
ローブをまとい、
フードを深くかぶっている。
体格は対照的だった。
一人は細身で長身。
もう一人は小柄でずんぐりとしている。
ハンバーガー派の一人が歓声を上げた。
「来たぞ!」
細身の人物がフードをわずかに下げた。
切れ長の目。
整った顔立ち。
薄く笑っている。
「先日はうちのものが世話になったな、博士」
博士の目が細くなった。
細めた目の奥で、警戒が鋭く光る。
小柄な人物はフードを外さなかった。
静かに立っている。
ただ立っている——それだけのはずなのに、妙に目に引っかかる。
力みのない姿勢なのに、隙があるとも言い切れない。
重心がどこにあるのか、ひどく曖昧だ。
カルテが小声でカロに聞いた。
「……知ってるんですか、博士のこと」
カロは首を振った。
「わからない」
「でも——」
カロの目に警戒の色が浮かぶ。
「あの二人、普通じゃないわ」
アルが一歩前に出た。
「お前たち、何者だ」
細身の人物は答えなかった。
ただ——
ローブの胸元が、わずかに開いた。
刺繍が見える。
二匹の蛇。
互いの尾を噛み、
円を描くように絡み合っている。
カルテの体が、固まった。
「……あの紋章」
アルが拳を握った。
「ウロボロス……」
細身の人物は薄く笑った。
「察しがいいな」
そしてハンバーガー派を一瞥した。
「お前たちは——用済みだ」
ハンバーガー派が固まった。
「え?」
「俺たちが呼んだのに?」
細身の人物は振り返らなかった。
「我々は味などどうでもいい」
小柄な人物が静かに続けた。
「争いが起きれば——それでいいのだ」
ハンバーガー派がざわつく。
「ど、どういうことだ……」
「俺たちは利用されてたのか……」
ハンバーガー派は静かに後退した。
広場に、ざわめきが広がった。
囁き声が重なり、形を持たないまま膨らんでいく。
足音が止まり、代わりに布の擦れる音や、息を呑む気配が増えていく。
カルテは二人を見つめていた。
「……目的は何ですか」
細身の人物がカルテを見た。
その目が——
ゆっくりと細くなった。
「お前だよ」
カルテを指さしながら男は言う。
「カルテ・バレンタイン」
「女神ベラトリクシア降臨の器——」
「大人しくついてこい」
ざわめいていた広場が静まり返った。
細身の人物は薄く笑った。
「改めて名乗ろう」
「私の名はフォン。――万写鏡のフォン・ダシ」
小柄な人物も静かに言った。
「俺の名はシャン。――時縫いのシャン・ターン」
二人が同時に言った。
「「教団ウロボロスの――枢機卿だ」」




