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第31発明 不壊のノン・シュガーとシメのラーメンなのじゃ

「もうすぐ、魔法陣が起動する」

男は、わずかに口元を歪めた。

「今さら来たところで――」

 

ガィィィィン!!

 

言葉の途中だった。

アルが踏み込む。

石畳が砕ける。

肘打ち。

全体重を乗せた、渾身の一撃。

 

だが――

半透明の球体が、それを弾いた。

火花が散る。

「なにっ!?」

アルの顔が歪む。

 

男は、ため息混じりに言った。

「人の話は、最後まで聞くことだな」

 

その瞬間。

杖が、淡く光る。


ドンッ!!

 

衝撃波。

アルの体が弾き飛ばされる。

壁に叩きつけられ、石片が崩れ落ちた。

 

「ぐっ……!」

 

その隙に、博士とカロが前に出る。

博士の剛腕がうなる。

踏み込み。

拳が空気を裂く。

 

ガィィィィン!!

 

だが――

アルと同じだった。

拳は結界に弾かれる。

衝撃が逆流し、博士の体がわずかに押し返される。

一瞬の間。

 

カロが、両手を掲げた。

「――氷槍っ!!」

空気が凍りつく。

無数の氷の槍が生成され、

一斉に男へと放たれる。

 

しかし――

すべて、止まった。

結界に触れた瞬間、

氷槍は砕け、弾かれ、軌道を失う。

 

一本たりとも――届かない。

カロの瞳が揺れた。

「……そんな」

唇を噛む。

「魔法も通さないなんて……」

視線を結界へ向ける。

「……ただの結界じゃないわ」


「……さすがは氷の魔女、といったところか」

男は、結界の向こうを見据えながら、にやりと笑った。

「確かにこれは、ただの結界ではない」

ゆっくりと一歩踏み出す。

「私の名はノン」

わずかに間を置いて――

「――不壊のノン・シュガー。結界師だ」

その名に、空気がわずかに張り詰める。

 

男――ノン・シュガーは、両手を広げた。

「そして、これは概念結界」

「ただの結界ではない」

淡々と、だが誇るように言い切る。

「私が“通さない”と決めたものは、一切通らない」

「魔法というより――能力に近いがね」

 

不敵な笑み。

「さあ……転送の時間も、もうすぐだ」

「それまで、せいぜい好きなだけ足掻くといい」

 

アルが地を蹴ろうとした、その瞬間。

「待って」

カロが手を伸ばし、制した。

視線はノンから逸らさない。

内心の焦りを、必死に押し殺しながら。

 

「……何が目的?」

「どうしてカルテちゃんを狙うの?」

 

ノンは肩をすくめる。

まるで、つまらない質問だと言わんばかりに。

 

「女神因子さ」

 

「……え?」

 

「調和と癒しの女神――カルミエラ」

「その因子が、この小娘の中で眠っている」

視線が、結界の中のカルテへ向けられる。

「その因子自体は、我々にとっては目障りな存在だ」

「だが――」

わずかに口角を上げる。

「その“器”は、使える」

 

カロの眉が寄る。

「……どういうこと?」

「それに、“我々”って……」

 

ノンはゆっくりと名を口にした。

 

「――ウロボロス」

 

空気が、さらに重くなる。

 

「争いと統一の女神、ベラトリクシア様を信奉する教団だ」

 

静かに、だが確信を込めて続ける。

「些細なことで争い続ける、この国」

「まさに――ベラトリクシア様が降臨するにふさわしい場所」

くつくつと、低く笑う。

「そう思って来てみれば……」

「くっくっく……まさか“器”まで見つかるとはな」

 

アルが拳を強く握りしめる。

「クソッ……!」

「どうすれば……」

その時。

足元の転送陣が――

強く、眩く、輝き始めた。

 

ゴオォォォ……

 

魔力の奔流が空間を震わせる。

時間は、もう残されていなかった。


博士は結界を見ていた。

静かに。

じっと。

何かを考えるように。

カロが博士に小声で言った。

「博士、もう時間が……」

「……会話が通じる」

「え?」

「ということは——空気は通すのじゃ」

カロの目が見開かれた。

「……まさか」


博士はノン・シュガーに向かって突進する。

杖から衝撃波が放たれるが、それを紙一重でかわし結界に肉薄する。

「無駄だと言っているだろう」

ノンシュガーは結界内で余裕の笑みを見せる。

結界を両手で掴み、博士が静かに言う

「結界内の空気―‐―吸いつくしてやる」

博士が結界に吸い付いた。

ノン・シュガーの顔色が変わった。

「……何?」

ノン・シュガーが慌てた。

(酸欠にさせる気......か......こんな広いところでできるものか)

(いや......でも......まさか......)

「待てっ!!——」

急いで結界のルールを変更する。

『物理攻撃を外から中に通さない』

『魔法攻撃を外から中に通さない』

これにもう一つルールを追加した。


――――『結界内の空気を中から外に通さない』ように。

(――なんとか間に合った。)

安堵してノン・シュガーが笑う。

その刹那


ノン・シュガーの視界が――突如、闇に閉ざされた。

「――――」

叫んだ。

はずだった。

だが、声は聞こえない。

いや――

自分の声が、届かない。

鼓膜が破れていた。

次の瞬間。

瞳から、血が噴き出す。

目の奥で、何かが弾けるような感覚。

急激に高まった気圧に、毛細血管が耐えきれず破裂したのだ。

 

その原因は――博士だった。

 

博士は、結界の外に立ったまま、

内部の空気を吸うことなく――

逆に、吹き込んでいた。

 

「結界内の空気は、中から外へは通らない」

その規則。

完全に密閉された空間。

そこへ――

莫大な空気が押し込まれる。

 

ゴオォォォォォッ!!

 

結界内部で、暴風が荒れ狂う。

逃げ場のない圧力が、すべてを押し潰していく。

 

ノン・シュガーの体が、浮き上がる。

視界は黒く滲み、

音は、完全に消えていた。

 

そして――

 

パリィィンッ!!

 

結界が、悲鳴のような音を立てて砕け散る。

 

空気が一気に解放され、

衝撃が外へと吹き抜けた。

 

ドサリ。

 

ノン・シュガーは、その場に崩れ落ちる。

微動だにしない。

 

――完全に、気絶していた。


囚われていた結界が、ふっと霧のように消えた。

その瞬間――

カルテの体が、外へと飛び出す。

「みんな!!」

「カルテちゃん!!」

カロが駆け寄り、強く抱きしめた。

「怪我は?」

カルテは小さく首を振る。

「ないです……でも」

言葉が、途切れる。

カロの胸に顔を埋めたまま、

その体が、かすかに震えていた。

「……怖かった」

カロは、そっと背中に手を回す。

「もう大丈夫よ」

静かに。

優しく。

「もう、大丈夫だから」

しばらく、二人はそのまま動かなかった。

 

アルが、倒れているノン・シュガーを見下ろす。

「こいつ……」

拳を握る。

「どうしてくれようか」

 

その少し後ろで。

カルテは、自分の手を見つめていた。

女神の因子。

調和の力。

――自分の中に、そんなものがあったなんて。

 

指先が、わずかに震える。

「……でも」

ゆっくりと顔を上げる。

三人を見た。

「今は、それより――」

視線が、すっと動く。

博士へと向けられる。

「博士」

 

「昨日、ニンニク食べましたか」


沈黙。

 

博士が、ゆっくり振り返る。

「お酒のしめは――」

腕を組み、誇らしげに言った。

「家系ラーメンが正義なのじゃ」

 

カロが、額に手を当てた。

「……ああ、もう」


張り詰めていた空気がほどけ、四人の間にいつもの空気が戻りつつあった。



挿絵(By みてみん)

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