第30発明 探検・発見・僕の町なのじゃ
足元にまとわりつくような湿気と、どこか錆びた鉄の匂いが鼻をつく。
暗い地下通路は、まるで生き物の腹の中のように重く、静まり返っていた。
一歩、また一歩と進むたびに、
靴底が濡れた床をわずかに擦る音だけがやけに大きく響く。
天井は低く、水滴が落ち、規則性のない音で沈黙を刻んでいる。
その中で――
遠く闇の奥に、かすかな光がにじんでいるのに気付いた。
「……バウ」
先を行くわん太郎君の耳がピクリと動く。
次の瞬間、迷いのない足取りで速度を上げた。
湿った石床を軽やかに蹴り、
まるで何かに引き寄せられるように、
暗闇の奥へと駆けていく。
「おい、待て――」
呼びかける間も惜しく、その背を追う。
三人の足音が重なり、狭い通路に反響する。
さっきまでまとわりついていた重苦しい闇が、
わずかに薄らいでいくのを感じた。
やがて、空気が変わった。
湿り気の中に、どこか乾いた気配が混じる。
わん太郎君は振り返りもせず、そのまま駆け抜ける。
通路の終わりは、唐突に訪れた。
最後の一歩を踏み出した瞬間、足裏に伝わる感触が変わる。
狭く閉ざされていた圧迫感がほどけ、空気が一気に開けた。
そこは、石造りの広い部屋だった。
高く組まれた天井は闇に溶け込み、その全貌は見えない。
だが、壁面に刻まれた古い石の継ぎ目や、
ところどころに走る亀裂が、長い年月を物語っている。
足元には平らに敷き詰められた石床が広がり、
踏みしめるたびに、乾いた音が遅れて返ってきた。
そして、その中央に――
石床の上に――円があった。
いや、ただの円ではない。
幾重にも重なった線が精緻に絡み合い、見たこともない紋様を形作っている。
巨大な魔法陣が描かれていた。
淡く光を放ち、ゆっくりと脈打つように明滅している。
カロが息をのむ。
「……魔法陣……」
「転送用の……」
その言葉は、途中で止まった。
視線の先に――
人影があったからだ。
魔法陣の中心。
そこに、カルテがいた。
床に座り込み、膝を抱えている。
出かける前と同じ、白衣の上にコートを羽織った姿。
だが――
その体は、半透明の球体に閉じ込められていた。
淡く揺らめく結界。
触れれば弾かれることが、一目でわかる。
カルテがゆっくりと顔を上げる。
「……みんな」
かすれた声だった。
「カルテちゃん!!」
カロが駆け寄る。
迷いなく、結界のすぐ手前まで踏み込んだ。
「大丈夫!?怪我は!?」
カルテは小さく首を振る。
「大丈夫です……」
一度、言葉を切る。
そして、視線を魔法陣へ落とした。
「……でも」
その声には、はっきりとした不安が滲んでいた。
その時――
男の声が、静かに響く。
「まさか……ここまで辿り着くとはな」
低く、冷たい声。
「だが――もう手遅れだ」
カルテが、はっと顔を上げた。
結界の内側から、外を見つめる。
反対側の通路。
闇の奥から――
ゆっくりと、男が姿を現した。
その体は、
半透明の球体に包まれている。
結界。
一歩、また一歩。
足音が、地下通路に鈍く反響する。
鋭い目。
手には、細身の杖。
そして――
この場には似つかわしくないほど、
小綺麗な、緑色のローブ。
そのローブに、
かすかに光る刺繍があった。
二匹の蛇。
互いの尾を噛み、
円を描くように絡み合っている。
終わりなく巡る、
歪んだ象徴。
――共食いの紋章。




