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第29発明 連れ去り・監禁・ケルベロスなのじゃ


三人は町へ出る。


息が上がるのも構わず、石畳を蹴るようにして走った。

カルテが向かったはずの方角へ。

目印の薬草の束の絵が描かれた薬屋の看板はすぐに見つかった。


店主が奥の暗がりから顔を出す。

「ああ、カルテちゃんなら来てたよ」

「荷物を届けにな。一時間くらい前かな」

 

アルが身を乗り出す。

自然と声が荒くなる。

「何か気づいたことはないか?」

店主は少し考え、首を振った。

「いや……特には」

  

三人は顔を見合わせた。

胸の奥で焦燥が大きくなる。

それ以上聞けることはなかった。

そして、礼を言って店を後にした。

 

研究室へ戻る道。

その途中で――

アルが、ふと足を止めた。

「……待て」

視線は地面に落ちている。

石畳の上。

溶けかけた雪の中に、はっきりと残る足跡。

小さい。

間違いなく――カルテのものだ。

 

その足跡が、

途中で、途切れていた。

「ここだ」

アルが低く言う。

「足跡が……消えている」

 

カロもしゃがみ込み、目を凝らす。

周囲に意識を集中させる。

「……変ね」

少し離れた場所。

雪の上に、何かが落ちていた。

 

カロはそれを拾い上げる。

髪飾り。

手の中で、わずかに震えた。

(……間違いない)

「カルテちゃんの……」

昨日、確かに自分が渡したものだった。

 

カロの声がかすれる。

「カルテちゃん……」

ゆっくりと首を振る。

「いったい、何が……」

アルが舌打ちした。

「くそっ……!」

「何か手掛かりはないのか!」

 

カロは周囲を見渡す。

だが――

「無理よ……」

「足跡が多すぎる……」

行き交う人々の痕跡が、すべてをかき消していた。

 

沈黙が落ちる。

その時だった。

 

「……ニュートン」

ぽつりと。

博士が、空を見上げてつぶやいた。

空気が、変わる。

 

広場の喧騒が、嘘のように遠のいた。

アルが振り返る。

「……今、なんて言った?」

 

博士は答えない。

ただ、大きく息を吸い込む。

 

そして――

 

「ニューーーーーートーーーーーーーンっ!!!!」

 

空に向かって、叫んだ。

その瞬間。

 

――バキィン!!

遠くで、何かが砕ける音が響いた。

三人は同時に顔を上げる。

音のした方角。

それは――

研究室の方向だった。


次の瞬間――

ヒュゴォォォォォォッ!!!

一つのダンベルが、空を切り裂いた。

亜音速で飛来する銀色の塊が――

上空で、眩く輝き出す。

アルが目を細めた。

「……ダンベルガーZ?」

 

「チェーーーーーーーーンジ」

一拍。

「ダンベル」

もう一拍。

「ケルベロスモーーードッ」

 

沈黙。

 

次の瞬間――

ニュートンが閃光を放ちながら、分解した。

バラバラになったパーツが空中で旋回する。

白く。

眩しく。

そして―― 

変形した。

 

石畳の上に現れたのは、

一匹の銀色の犬だった。

四本足。

ぴんと立った耳。

しっぽが、楽しげに左右に揺れている。

胸には、小さな紫色の水晶が埋め込まれていた。

 

カロが目を丸くする。

「……犬になった」

アルが額に手を当てる。

「なんでもありかよ……」

 

博士が静かに告げる。

「完全無欠犬型追跡装置」

一拍置いて――

「あとつけわん太郎君じゃ」

 

沈黙。

 

わん太郎君は、しっぽを振り続けていた。

カロがぽつりと言う。

「……かわいい」

アルが早口で返す。

「感心してる場合じゃない!」

「早くカルテを――」

 

「そうじゃ」

博士はカロから髪飾りを受け取り、わん太郎君の前に差し出した。

くんくん。

くんくんくん。

わん太郎君が髪飾りに鼻を近づける。

しっぽが、ぴたりと止まった。

鼻が、地面へと向く。

くんくんくんくんくん。

 

ゆっくりと――動き出す。

 

石畳の上を、一歩ずつ。

アルが息をのむ。

「……追ってる」

カロが静かに言った。

「カルテちゃんの匂いを」

 

次の瞬間。

 

わん太郎君は駆け出した。

 

石畳を蹴り、

曲がり角を曲がり、

路地を抜け――

 

森の奥へ。




挿絵(By みてみん)



 

そして――

ぴたりと止まった。

古びた鉄の扉の前で。

わん太郎君は、しっぽを振りながら座り込む。

 

アルが扉を見上げる。

「ここか」

カロが周囲を見渡す。

「……廃棄された地下通路の入口ね」

 

そっと扉に触れる。

その指先に――霜が走った。

 

カロの目が細くなる。

「魔力の残滓……」

「間違いないわ」

 

アルが扉に手をかける。

「行くぞ」

博士が静かに言った。

「急ぐのじゃ」

ギィィ……

 

扉が重く軋みながら開く。

 

中から――

冷たく、不吉な空気が吹き上がってきた。

暗い階段が、地下へと続いている。

わん太郎君が先頭に立つ。

くんくんと鼻を鳴らしながら。

しっぽを振りながら。

 

三人は、その後を追った。

 

ゆっくりと――

地下へと降りていく。




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