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第27発明 うんちく・泥酔・ジェット亭なのじゃ


ジェット亭の夜は始まったばかりだ。


それから一時間が経ち、

カロは三杯目に入っていた。

表情は全く変わらない。

姿勢も変わらない。

 

ただ——お酒の話になると止まらなかった。

 

「このイチジクの熟成酒はね、西の山奥にある蔵で十年以上寝かせたものなのよ」

「へぇ……」

「お酒って熟成中に精霊を宿すの。100年熟成したお酒には時の精霊が宿るって言われていて——」

「水も大事なんだけどね、実は土地の魔力を吸うお酒ってのがあって——」

「樽の素材によって味が全然変わるんだけど、この蔵はドラゴンオークを使っていて——」

「そうなんですか……」

 

カロの目はすっかりマジだった。

 

アルが四杯目のジョッキを持ち上げながら言った。

 

「……ドラゴンオーク?」

「竜が住み着いた木よ。竜の気が染み込んで独特の風味が出るの」

「……ポチみたいな竜が?」

「そう、だから博士のポチも——」

 

カロはふと博士を見た。

博士は六杯目のジョッキを傾ける。

静かに飲んでいた。

しかし——

目が少し座ってきている。

 

「博士、大丈夫ですか」

 

カルテがぽわぽわした顔で聞いた。

カルテはすでに二杯目に入っている。

頬が赤い。

目がとろんとしている。

 

「大丈夫じゃ」

 

博士は静かに言った。

 

「まだ飲めるのじゃ」

 

七杯目を注文した。

 

 ◇   ◇   ◇


それからさらに一時間が経った。

アルは六杯目に入っていた。

 

「俺はまだ飲めるぞ……」

 

舌が少しもつれていた。

 

「アル君、もう十分では……」

「武術大会八連覇の俺が……酒ごときに……」

「酒ごときって言ったわね」

 

カロが静かに言った。

 

「お酒を舐めると痛い目を見るわよ」

「舐めてなんか……」

 

アルは七杯目を注文した。

カルテはというと。

三杯目のグラスを両手で持ちながら、ほわほわした表情で窓の外を見ていた。

外では雪が降り始めていた。

ジェット亭から漏れる光で雪がキラキラと輝いている。

 

「……きれい」

「カルテちゃん、大丈夫?」

「はい……なんか、ふわふわします」

 

カルテはカロを見た。


「カロさん」

「なに?」

「私……ここにいていいのかな」

 

カロが首をかしげた。

 

「どういうこと?」

「なんか……みんな、すごいじゃないですか」

 

カルテはグラスを見つめた。

 

「博士は発明家で、アル君は武術家で、カロさんは魔法使いで」

「私は……ただの助手で」

「役に立ててるのかなって……たまに思うんです」

 

カロが口を開こうとした。

その時。

カルテの頭に、ぽんと何かが触れた。

博士の手だった。

博士は何も言わない。

ただ静かに、カルテの頭をぽんと叩いた。

それだけだった。

カルテは博士を見上げる。

博士はすでに八杯目のグラスが空になろうとしていた。

カルテは少しの間、博士を見ていた。

そして——

小さく笑った。

 

「……ありがとうございます、博士」

 

博士は何も答えなかった。

ただ静かに、グラスを口に運んだ。

 

 ◇   ◇   ◇


それからさらに三十分が経った。

アルは完全に泥酔していた。

 

「俺は……まだ……」

「もう飲まなくていいです、アル君」

 

カルテがそっとジョッキを遠ざける。

 

「……武術大会……八連覇……」

「それは今関係ないです」

「……いつかは……俺も……15連覇……」

「何ですかそれ」

 

アルはテーブルに突っ伏した。

その時。

博士が立ち上がった。

全員が振り返った。

博士は十二杯目のジョッキを片手に、静かに背筋を伸ばす。

目が完全に据わっていた。

 

「……博士?」

 

カルテが恐る恐る聞いた。

 

博士は深く息を吸い込み、ジョッキを持ち上げる。

そして——

 

「ダダダッ、ダダダッ ダンベルガー♪」

「鉄の拳に 宿りし鋼の魂♪」

 

博士が歌い始めた。ジョッキをマイク代わりに。

店内が静まり返る。

カロが肩をすくめ呆れている。

 

「……また始まった」

 

カルテが苦笑いをした。

 

「ダンベルガーZのテーマですね」

 

アルがテーブルに突っ伏したまま呻いた。

 

「……頭に……直接……来る……マインドハッカー君……なしで……」

 

「ダダダッ、ダダダダッ ダンベルガー♪」

 

「平和のために 白金の城 今ここに♪」

 

博士は熱唱し続けた。

親方が笑いながら言った。

 

「いい誕生日パーティーだなぁ」

 

カルテは笑った。

 

「……そうですね」

 

 

 

挿絵(By みてみん) 

 

 


 ◇   ◇   ◇


帰り道。

 

夜の石畳を、四人が歩いていた。

アルはカロとカルテに支えられていた。

 

「……俺は……まだ歩ける……」

「歩けてないです」

「武術大会……八連覇……」

「それはいいから足を動かしてください」

 

博士は一人ですたすたと歩いていた。

酔っているはずだった。

しかし歩みは乱れない。

ただ——

 

「ダダダッ、ダダダッ ダンベルガー♪」

 

小さく歌い続けていた。

 

カロがため息をついた。

 

「博士、まだ歌ってるの」

 

カルテは夜空を見上げた。

雪が静かに降っていた。

石畳に積もり始めていた。

 

「……きれいですね」

 

アルがふらふらしながら上を向いた。

 

「……雪……」

「二月の雪です」

 

カルテは静かに言った。

 

「私の生まれた日はいつも雪が降るんです」

 

カロが静かに言った。

 

「そうなの」

「はい」

 

カルテは雪を見上げたまま言った。

 

「……いい誕生日でした」

 

「毎年言ってるの?」

 

「毎年は……あまり誰かと過ごしたことなかったので」

 

カロが少し黙った。

 

「……そう」

「来年も一緒に祝うわよ」

 

カルテが振り返った。

 

「カロさん……」

「当たり前でしょ」

 

カロは涼しい顔で言った。

 

「私はカルテちゃんがいないと寂しいんだから」

 

カルテは笑った。

 

「ありがとうございます」

 

アルがふらふらしながら言った。

 

「……俺も……来年……また……」

 

「来てくれるんですね」

 

「……当たり前……だろ……」

 

スタスタ歩いていた博士が三人に振り返った。

カルテと目が合う。

言葉はない。

ただ、カルテはほほ笑んだ。

四人の足音が、雪の石畳に響いた。

 

「ダダダッ、ダダダッ ダンベルガー♪」

 

博士の歌声が、夜の街に消えていった。

 

こうしてたけきのこの国に——


甘くて、少しほろ苦い夜が訪れた。


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