表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/47

第26発明 ハッピーバレンタインなのじゃ


9つの争いを乗り越え、たけきのこの国に久しぶりの平和が訪れていた。

国民は、アミノ酸スコア97のプロテイン汁を味わっている。


ある日の朝。

研究室は、いつも通りだった。


カルテがお茶を用意している。

博士が奥でダンベルを持ち上げている。

アルがソファで腕を回している。

カロが窓の外を見ながら果実酒の小瓶を眺めている。

何も変わらない、いつもの朝だった。

 

カルテ・バレンタインはお茶を配りながら、ふと思った。

今日は2月14日。

自分の誕生日だということを、誰も知らない。

言い出せないまま、今日になってしまった。

まあいいか、とカルテは思う。

いつも通りの一日でも、十分嬉しい。

 

「カルテちゃん」

 

カロがカルテの顔を両手で挟む。

 

「な~んか怪しいわね」

 

カルテが顔を挟まれたまま首をかしげた。

 

「そうですか?」

「なんか……嬉しそう」

「そう……かもしれないです」

 

カロが眉をひそめる。

 

「何かいいことでもあった?」

 

カルテは少し迷った。

 

「実は……その……今日、私の誕生日なんです」

 

沈黙。


カロが固まった。

アルが顔を上げた。

奥から博士が出てきた。

三人がカルテを見た。

カルテが照れた。

 

「なんか、言い出せなくて……」

 

アルがソファから飛びあがった。

 

「なんで早く言わないんだ!!」

「なんとなく言いそびれちゃって」

 

カロが腕を組んだ。

 

「何歳になったの?」

「二十歳です」

「二十歳!!」

 

アルが叫んだ。

 

「それは祝わないと絶っ対ダメだろ!!」

 

博士が言葉も出ずにプルプルしている。

カルテが苦笑いをした。

 

「すみません」

  

  

挿絵(By みてみん)


 

その時。

扉が開いた。

近所の親方が顔を覗かせた。

 

「よう、みんないるか——おっ、カルテちゃん今日誕生日じゃないか!」

 

全員が振り返った。

 

「知ってたんですか」

「当たり前だろ、二月十四日だろ!毎年覚えてるぞ!」

 

親方は胸を張った。

 

「よし、じゃあ今夜は祝いに行こう!」

 

「どこへですか」

 

親方はにやりと笑った。

「最近流行りのボンバー亭の姉妹店よ」

 

「スーパーウルトラマッハカミソリジェット亭——」

「通称ジェット亭だ!」

 

カルテが目を丸くした。

 

「なんですかそれ」

「切れ味のあるお酒を揃えた名店よ」

「カルテちゃんも二十歳になったんだから、初めての一杯を飲まないといかんだろ!」

 

カルテは少し考えた。

そして——


「……はい!!」

 

不安と期待が入り混じった返事だった。


 ◇   ◇   ◇


夜。

ジェット亭は賑わっていた。

カウンターに並んだ色とりどりの酒瓶。

切れ味のある香りが漂う店内。

 

四人は奥の席に座った。

カロがメニューを開く。

 

「麦酒に、ワイン、蒸留酒、おっ果実酒もいっぱいあるじゃない。合格、合格♪」

「詳しいんですね、カロさん」

「嗜む程度よ」

 

カロはメニューを流れるように読んだ。

 

「雷電葡萄のワイン、焦がしイチジクの20年物の熟成酒、雪花梨のスパークリング——」

「全部知ってるんですか?」

「んー、まぁ大体飲んだことがあるわ」

 

アルが眉をひそめる。

 

「どれだけ飲んでるんだよ」

「西ではこれが普通なの」

 

カロは涼しい顔で言った。

 

「子供の頃から食卓に並んでいたもの」

 

親方が麦酒のページから目を離し、豪快に笑った。

 

「がっはっは、さすがは肝臓の魔女だ」

 

カルテがメニューから目を離す。

 

「......肝臓の......魔女?」

 

カロがメニューで顔を隠す。

 

「……その名前で呼ばないでくれる」

「なんなんです、その名前?」

 

親方が続ける。

 

「ここいらじゃ有名なのよ、国中の酒が飲み干されちまうってな」

 

アルがぼそっと言った。

 

「お前、そんなことしてたのかよ」

 

カロは肩をすくめた。

 

「大袈裟なのよ、全く」

 

 ◇   ◇   ◇


注文が来た。

 

カロの前に、深い琥珀色の液体が入ったグラスが置かれる。

精霊果実の蒸留酒だった。


アルの前に、黒々とした液体が入った大きなジョッキが置かれた。

「一番強いやつをくれ」と頼んだ結果である。

メニューでドクロマークがついていた酒だ。

 

博士の前に、透明な液体が入ったグラスが置かれた。

 

そしてカルテの前に——

小さなグラスに、淡いピンク色の液体が置かれた。

果実系の甘いお酒。

 

 

挿絵(By みてみん) 


 

カルテはグラスを両手で持った。

 

「……これが、お酒」

「飲んでみなさい」

 

カロがにっこりして言った。

カルテはグラスをそっと口に運ぶ。

一口。

 

「……あ」

「どう?」

「あまい……でも、なんか……ふわってする」

 

カルテは目を丸くした。

 

「これがお酒なんですね」

「気に入った?」

「はい……なんか、いいですね」

 

カルテはもう一口飲んだ。

ほんのり頬が赤くなる。

 

アルがジョッキを持ち上げた。

 

「じゃあ、カルテの二十歳に」


「「「――乾杯!!」」」

 

―――カンっ!!


バレンタインの夜にグラスが合わさった。

  

 

挿絵(By みてみん)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ