表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/47

第23発明 汁物と汁物の戦争なのじゃ


親方が叫ぶ。


「今度はカレー派とシチュー派が争っています!!」


カルテが立ち上がる。

「またですか……」


奥の部屋から博士が現れた。

「そいつはいかん。平和がワシを呼んでいるのじゃ」

アルがぼそっと言った。

「……いい話をしてたんだが」


誰も聞いていなかった。


 ◇   ◇   ◇


広場では、すでに争いが最高潮に達していた。


カレー派が叫ぶ。


「スパイスの複雑な香りと深いコク!温かい食べ物の王はカレーだ!」


するとシチュー派が言い返す。


「クリームの優しい甘さと具材の旨み!体に染み渡る温かさはシチューに決まっている!」


ついにはカレーが投げられ、

シチューが飛び交い、

広場が黄色と白に染まっていった。


博士は争う人々を見渡し、静かに言った。

「みんながこれ以上争う姿を、ワシは見たくないのじゃ……」

拳を握る。

「ワシが……ワシがこの国を平和にしてみせるのじゃ!!」

カルテがつぶやく。

「博士……今回こそ発明で解決ですよ」


こうして博士とカルテは、来る日も来る日も研究に研究を重ねた。

そしてある日。

巨大な装置の前に立つと、博士は大量のカレーとシチューを投入した。

装置は唸りを上げる。

ゴゴゴゴゴ……

そして――

一つの料理が誕生した。

その名も、


カチュー。


カレーのスパイスとシチューのクリームを合わせた、辛くてまろやかな奇跡のスープである。


カルテが目を輝かせる。

「博士、ついにやりましたね!」

博士は静かにうなずく。

「あぁ。これで平和を取り戻すのじゃ」


カレー派が言う。


「スパイスの香りはそのままに、クリームのまろやかさが加わって……これは新しい!」


シチュー派も言う。


「クリームの優しさにスパイスの深みが重なって……体の芯から温まる!」


国民たちはカチューを頬張り、笑い合った。

こうして世界には――

まろやかな平和が訪れた。


――かに見えた。


その平和を乱す者が現れたのである。

それが――


豚汁派だった。


豚汁派は腕を組んで言った。


「カレー?シチュー?西洋かぶれが」

「根菜の旨みと味噌の香り、豚の脂が溶け込んだあの深さの前では霞んで見える」

「倭の国の魂を知らない者に、汁物を語る資格はない」


国中に豚汁がばらまかれ、

たけきのこの国は再び大混乱に陥った。


博士は静かに言う。

 

「落ち着くのじゃ。争う必要はないのじゃ」

 

しかし豚汁派は聞く耳を持たない。

 

「豚汁最強!」

「洋食は時代遅れ!」

 

広場は騒然となった。


沈黙が流れる。

博士はゆっくりと立ち上がった。

そして――

白衣の袖をまくった。

 

カルテが小声でアルに言う。

 

「……来ますよ」

 

アルが小声で返す。

 

「……ああ」

 

カロがカップを持ったまま小声で言う。

 

「……今度こそ普通に終わるかしら」

 

博士の拳が空気を引き裂く――


はずだった。

その時。

広場の端から、ゆっくりと歩いてくる人物がいた。


長い外套。

深くかぶったフード。

体格からして女性だった。


豚汁派の一人が叫んだ。

「来たぞ!俺たちの用心棒だ!」

 

人物はフードを外した。


長い銀髪。

切れ長の目。

指先に、赤い魔法陣。


観衆がざわつく。


「西の魔法使いだ……」

「凄腕の用心棒らしい」

「一体どんな魔法を……」


カロの口が開く。


「ふーん、今回はなかなか厳しそうな相手じゃない。あの子、西じゃちょっとした有名人よ」


カルテが驚く。

 

「カロさんの知り合いですか?どんな人なんですか」

 

カロが指先を口元にあて、記憶を飛び起こそうとした。

 

「なかのいい知り合いってわけではないんだけど、西の王室に顔を出したときにちょっとね」

 

王宮で会った頃の銀髪の自信家の顔をぼんやりと思い出す。

 

「そのころは確か宮廷魔術師やっていたはず、今じゃやめて武者修行にでもきてるのかしら。

確か、4属性の魔法を扱えるっていう触れ込みのーーー」


キセルを吹かした老婆が後を続ける。


「西の国家認定魔術師ーーー四天のタキ・タテ」


タキは静かに博士を見た。

そして――

魔法陣を展開しようとした。

その瞬間。


パキンッ。


魔法使いの足元から、音もなく氷が広がった。

瞬く間に全身を包み込む。

魔法使いは綺麗に氷漬けになった。

広場が静まり返った。


カルテが息をのむ。

 

「……氷?」

 

アルが素早くカロに振り替える。 

 

「カロっ、不意打ちなんてかわいそうじゃねぇか」

 

振り返った先、カロは驚いて固まっている。

 

「違うっ、私じゃない」


その時。

広場の上空から、声が降ってきた。

低く、静かな声だった。

しかし広場全体に響いた。


「カロよ」


空気が重く、冷たいものげと変わった。

カロの体が、固まる。

カルテが空を見上げる。


「……誰?」


カロは動かなかった。

ただ静かに、空を見上げた。


その目に——


驚愕とわずかな恐怖が浮かんでいた。



挿絵(By みてみん)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
とても面白かったです!たくさん笑わせていただきました。 たけのこ派ときのこ派という有名な題材を物語として描いている点が新鮮で、世の中には他にもさまざまな派閥があるのだと改めて実感しました。 最終的には…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ