第23発明 汁物と汁物の戦争なのじゃ
親方が叫ぶ。
「今度はカレー派とシチュー派が争っています!!」
カルテが立ち上がる。
「またですか……」
奥の部屋から博士が現れた。
「そいつはいかん。平和がワシを呼んでいるのじゃ」
アルがぼそっと言った。
「……いい話をしてたんだが」
誰も聞いていなかった。
◇ ◇ ◇
広場では、すでに争いが最高潮に達していた。
カレー派が叫ぶ。
「スパイスの複雑な香りと深いコク!温かい食べ物の王はカレーだ!」
するとシチュー派が言い返す。
「クリームの優しい甘さと具材の旨み!体に染み渡る温かさはシチューに決まっている!」
ついにはカレーが投げられ、
シチューが飛び交い、
広場が黄色と白に染まっていった。
博士は争う人々を見渡し、静かに言った。
「みんながこれ以上争う姿を、ワシは見たくないのじゃ……」
拳を握る。
「ワシが……ワシがこの国を平和にしてみせるのじゃ!!」
カルテがつぶやく。
「博士……今回こそ発明で解決ですよ」
こうして博士とカルテは、来る日も来る日も研究に研究を重ねた。
そしてある日。
巨大な装置の前に立つと、博士は大量のカレーとシチューを投入した。
装置は唸りを上げる。
ゴゴゴゴゴ……
そして――
一つの料理が誕生した。
その名も、
カチュー。
カレーのスパイスとシチューのクリームを合わせた、辛くてまろやかな奇跡のスープである。
カルテが目を輝かせる。
「博士、ついにやりましたね!」
博士は静かにうなずく。
「あぁ。これで平和を取り戻すのじゃ」
カレー派が言う。
「スパイスの香りはそのままに、クリームのまろやかさが加わって……これは新しい!」
シチュー派も言う。
「クリームの優しさにスパイスの深みが重なって……体の芯から温まる!」
国民たちはカチューを頬張り、笑い合った。
こうして世界には――
まろやかな平和が訪れた。
――かに見えた。
その平和を乱す者が現れたのである。
それが――
豚汁派だった。
豚汁派は腕を組んで言った。
「カレー?シチュー?西洋かぶれが」
「根菜の旨みと味噌の香り、豚の脂が溶け込んだあの深さの前では霞んで見える」
「倭の国の魂を知らない者に、汁物を語る資格はない」
国中に豚汁がばらまかれ、
たけきのこの国は再び大混乱に陥った。
博士は静かに言う。
「落ち着くのじゃ。争う必要はないのじゃ」
しかし豚汁派は聞く耳を持たない。
「豚汁最強!」
「洋食は時代遅れ!」
広場は騒然となった。
沈黙が流れる。
博士はゆっくりと立ち上がった。
そして――
白衣の袖をまくった。
カルテが小声でアルに言う。
「……来ますよ」
アルが小声で返す。
「……ああ」
カロがカップを持ったまま小声で言う。
「……今度こそ普通に終わるかしら」
博士の拳が空気を引き裂く――
はずだった。
その時。
広場の端から、ゆっくりと歩いてくる人物がいた。
長い外套。
深くかぶったフード。
体格からして女性だった。
豚汁派の一人が叫んだ。
「来たぞ!俺たちの用心棒だ!」
人物はフードを外した。
長い銀髪。
切れ長の目。
指先に、赤い魔法陣。
観衆がざわつく。
「西の魔法使いだ……」
「凄腕の用心棒らしい」
「一体どんな魔法を……」
カロの口が開く。
「ふーん、今回はなかなか厳しそうな相手じゃない。あの子、西じゃちょっとした有名人よ」
カルテが驚く。
「カロさんの知り合いですか?どんな人なんですか」
カロが指先を口元にあて、記憶を飛び起こそうとした。
「なかのいい知り合いってわけではないんだけど、西の王室に顔を出したときにちょっとね」
王宮で会った頃の銀髪の自信家の顔をぼんやりと思い出す。
「そのころは確か宮廷魔術師やっていたはず、今じゃやめて武者修行にでもきてるのかしら。
確か、4属性の魔法を扱えるっていう触れ込みのーーー」
キセルを吹かした老婆が後を続ける。
「西の国家認定魔術師ーーー四天のタキ・タテ」
タキは静かに博士を見た。
そして――
魔法陣を展開しようとした。
その瞬間。
パキンッ。
魔法使いの足元から、音もなく氷が広がった。
瞬く間に全身を包み込む。
魔法使いは綺麗に氷漬けになった。
広場が静まり返った。
カルテが息をのむ。
「……氷?」
アルが素早くカロに振り替える。
「カロっ、不意打ちなんてかわいそうじゃねぇか」
振り返った先、カロは驚いて固まっている。
「違うっ、私じゃない」
その時。
広場の上空から、声が降ってきた。
低く、静かな声だった。
しかし広場全体に響いた。
「カロよ」
空気が重く、冷たいものげと変わった。
カロの体が、固まる。
カルテが空を見上げる。
「……誰?」
カロは動かなかった。
ただ静かに、空を見上げた。
その目に——
驚愕とわずかな恐怖が浮かんでいた。




