第22発明 スカウト・チップス・共同開発なのじゃ
翌朝。
8つの争いを乗り越え、たけきのこの国に久しぶりの平和が訪れていた。
国民は、アミノ酸スコア96のプロテインプリンを味わっている。
研究室は、いつも通りの朝だった。
カルテがお茶を用意している。
カロがソファで果実酒の小瓶を眺めている。
アルが椅子に座って腕を回している。
奥からは博士の歌声が聞こえる。
「浮気したらあかんぞい♪」
「ワシがそばにいるのに♪」
アルが耳をふさぐ。
「まだ歌ってるぜ……」
カルテがお茶を配りながら言った。
「昨日から止まらないんです」
カロが静かに言った。
「あの歌、誰への歌なのかしら」
三人は顔を見合わせた。
その時。
扉が開いた。
「やあ、お邪魔するよ」
涼しい声だった。
白衣に眼鏡。
整えられた黒髪。
手には分厚いノート。
カルテが目を見開いた。
「インス・タントさん?!」
インス・タントは微笑んだ。
「久しぶりだね」
アルが立ち上がった。
「……何しに来た」
インスは両手を上げた。
「落ち着いて。今日は戦いに来たわけじゃない」
「じゃあなんだ」
インスはノートを開いた。
「北の国では今、空前の健康ブームでね」
「私もすっかりプロテインチップスの愛用者になってしまって」
カルテが目を丸くする。
「プロテインチップスを?」
「あぁ、毎日食べてるよ」
インスは少し照れたように笑った。
「あれは本当に良い発明だ。博士に感謝している」
カロが眉をひそめる。
「それだけのために来たの?」
「いや」
インスはノートを閉じた。
「北の国では今、健康器具の開発に力を入れていてね」
「ぜひ博士の研究室と共同研究がしたいと思って来たんだ」
カルテが少し考えた。
「共同研究……」
「もちろん報酬は弾む」
インスはカルテに目を向けた。
「それと」
少し間を置いた。
「カルテ君」
「はい?」
「良ければ北の研究所に来ないかい」
カルテが首をかしげる。
「お手伝いということですか?」
「いや」
インスは真剣な目で言った。
「君の優秀さは以前から分かっていた」
「北の研究所で一緒に働いてほしい」
「そして——」
インスは一拍置いた。
「私と結婚を前提にお付き合いしてほしい」
沈黙。
カルテが固まった。
「……え?」
次の瞬間。
カロが立ち上がり、カルテを引き寄せ、後ろから抱きしめる。
「ダメッ!」
「僕はカルテ君に聞いているんだが」
「関係ないわ、カルテちゃんはここにいるのっ」
「カルテちゃんはずーーっと私と一緒にいるの、そう決まってるのっ」
アルがインスの前に立った。
「いいや、お・れ・た・ちだ。さっさと消えな、ぶっとばされんうちにな」
カロの指先に霜が集まる。
「あら、珍しく気が合うわね。」
インスは苦笑いをした。
「相変わらず手厳しいね」
カルテがおろおろしながら言った。
「あの、インスさん、お気持ちはありがたいんですが」
「私はここを離れるつもりはないので」
「……そうですか」
インスは少し残念そうに言った。
「でも気が変わったらいつでも来てください」
「変わりませんよ、私、ここのみんなが好きですから」
カルテは静かに、しかしはっきりと言った。
インスはしばらくカルテを見ていた。
そして小さく笑った。
「……君はやっぱり面白い人だ」
インスは踵を返した。
「共同研究の件は博士に改めて話す」
「またくるよ」
扉が閉まった。
しばらくの沈黙の後。
アルが腕を組んだ。
「……あいつ、改心したのか」
カロが紅茶を一口飲んだ。
「プロテインチップスにそんな効果でもあるのかしら」
カルテがぼそっと言った。
「博士の発明、また世界を救いましたね」
三人は顔を見合わせて、小さく笑った。
カルテが静かに言った。
「それにしても」
「結婚かぁ……」
アルが眉をひそめる。
「なんだ急に」
「いやぁ、今まで考えたこともなかったなぁって」
カロはカップを置いた。
「あんたは結婚とか考えるの」
少しうつむき、アルは考え込む。
「……一回も無かった」
「強くなることと飯のことしか考えてなかった」
カロが静かに続けた。
「私は」
少し間を置く。
「ずっと一人でいるものだと思っていた」
カルテが振り返る。
「カロさん……」
「西にいた頃はそれでよかったんだけどね......」
カロは窓の外を見た。
「でも」
そこで止まった。
アルがカロを見た。
カルテも黙って待った。
カロは続けなかった。
ただ、カップを持ち直し、窓から見える季節外れの雪景色を見た。
研究室に静かな空気が流れた。
カルテが小さく言った。
「私は」
二人が振り返る。
「誰かのそばで、役に立てたらそれでいいです」
「将来のことはわからないけど」
「みんなが笑ってたら、それが一番嬉しい」
沈黙。
アルが頭をかいた。
「……お前が一番まともだな」
カロが静かに言った。
「そうね」
カルテが照れた。
「そんなことないですよ」
その時。
「博士ーーー!!大変です!」
扉が勢いよく開いた。
近所の親方だった。




