第18発明 暴走?覚醒?いつかの空なのじゃ
その時だった。
男が近寄り、アルとハリガネを蹴り上げる。
「……やれやれ」
フードを整えながら、ため息交じりに言った。
「感動的だったよ」
「役には立たなかったがね」
男が外套の内側に手を入れた。
取り出したのは、手のひらに収まる小さな装置。
ピッ。
乾いた音。
次の瞬間――
ガチャン。ガチャン。ガチャン。
音が広場の四方から響き渡る。
カルテが訝しむ。
「......なんですかこの音」
地面に亀裂が入る。
パキッ。
石畳が割れた。
その下から――
何かがせり上がる。
一体。
二体。
三体。
―――十体。
次々と現れる影。
銀色の装甲。
赤く光る単眼。
関節がきしむ、無機質な動き。
感情はなく、意思もない。
ただ命令に従う存在
―――サイボーグの軍団。
カルテが息をのむ。
「こんなに……」
カロが両手に霜をまとわせる。
「数が多すぎる」
男が静かに言った。
「博士......」
わずかに首を傾け両手を広げる。
「君という存在は邪魔なんだよ」
「君の研究は我々の望む世界には不要だ」
その瞬間だった。
「アル...」
低く、押し殺した声。
博士の空気が―――変わった。
カルテが反射的に振り返った。
そこにいたのは―――今まで見たことのない博士だった。
目が赤い、濁ったような赤ではなく、焼けつくような血の色。
肌はじわりと黒く染まる。
拳が握られる。
ミシリっ
腕が膨れ上がる。
いや―――体中の筋肉が心臓の鼓動に合わせ脈打っていた。
ドクン
ドクン
ドクン
音が空気を震わせる。
白衣の裾が―――風もないのに揺れた。
「……カルテ」
低く押し殺した声だった。
「すぐにここから......離れるんじゃ......」
言葉が歪む。
「ワシに......理性が......ノコッテイルウチニ」
男が眉を上げた。
「ほう」
興味深げに、口元が歪む。
「今まで見せたことのない顔だね、博士」
博士は答えない。
ただ――
踏み込んだ。
ドンッッ!!
地面にクレーターが生まれた。
次の瞬間
博士の姿は―――消えていた。
サイボーグの一体。その眼前に肉薄し――
ドォンッ!!
拳がめり込み、装甲ごとたたき砕く。
空中でねじ切れるように吹き飛んだ。
「っ……!」
男が後退する。
だが―――博士は止まらない。
二体目。
間合いを詰めるより先に拳が届く。
三体目。
振り向きざまに次の標的が砕ける。
爆音。衝撃。破壊。
次々と、サイボーグが宙を舞う。
まるで、ただのおもちゃのように――
カロが目を見開く。
「今までと……違う」
声がわずかに震える。
カルテがぎゅっと拳を握った。
「博士……」
博士は―――すでに男の目の前に立っていた。
逃げ場はない。
男が額に汗がにじむ。
一筋、ゆっくりとほほを伝った。
「……バカな」
その言葉にもはや余裕はなかった。
博士が黒い拳を振り上げる。
黒く染まった腕。脈打つ筋肉。
その一撃は―――
生きとし生けるもの全ての命を奪う断罪の鉄槌
空気が歪む。
男が目を閉じた。
その時。
「博士っ!!」
カルテの声が広場を貫く。
「ダメです」
一歩踏み出す。
「たけきのこの国に―――争いは似合わないって」
「博士が言ってたじゃないですか」
震えている。
それでも―――言い切った。
「たとえ相手が……どんな人でも」
その時だった。
カルテの体が、光った。
淡い緑色の光だった。
やわらかく。
あたたかく。
草原に差し込む朝のような輝き。
静かにカルテから溢れ出た。
その光が博士を包み込み優しく触れる。
ドクン
脈動が揺れる。
荒れ狂う力がほどけていく。
博士の肩から、力が抜け――
拳がわずかに下がった。
広場が静まり返った。
カルテは自分の手を見た。
「……え?」
光はすでに消えていた。
何が起きたか理解が追い付かない。
ただ一人、男だけが、その光を見ていた。
男の目が、ゆっくり大きく見開かれた。
「……まさか」
息をのむ。視線がカルテに縫い付けられる。
そして――
踵を返した。
サイボーグたちが一斉に動きを止め、男の後を追う。
カルテが叫ぶ。
「待って!どこへ――」
男は振り返らなかった。
ただ――去り際に、一言だけ言い残した。
「とうとう見つけたぞ」
「……女神の因子」
その声が、広場に消えていった。
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静寂。
カルテはその場に立ち尽くしていた。
「……女神の、因子?」
カロが静かにカルテの隣に立った。
「カルテちゃん」
「大丈夫?」
カルテは自分の手を見つめたまま答えた。
「……わからないです」
「何が起きたのか」
言葉はそこまでだった。
広場の隅
アルとハリガネが並んで倒れていた。
二人とも、動けないまま空を見上げていた。
しばらくして、ハリガネが静かに口を開く。
「……お前の言葉が聞こえた」
アルは答えなかった。
「頭の中に、直接」
「......うるさいくらいに」
アルがぼそっと言った。
「それがマインドハッカー君だ」
「……変な名前だな」
「俺もそう思っていた」
短い会話。二人はただ、同じ空を見上げた。
やがて、ハリガネが言う。
「……俺の負けだ」
アルは少し間を開けて口を開く。
「違う」
「これは……決着じゃない」
ハリガネが顔を向ける。
アルは空を見たまま続けた。
「ちゃんと決着をつけよう」
「お前が治ったら」
「改造されてない、お前の拳で」
風がわずかに吹いた。
ハリガネはしばらく黙っていた。
そして―――
「……ああ」
短く答える。
見上げた先には、どこまでも澄んだ青空が広がっていた。
―――あの日の東の空のように。
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こうして博士はレシピを改良した。
それ以来、ピーハンにはあるものが加えられ、
名称もほんの少しだけ変えられた。
その名は――
プロテインめし。
こうしてたけきのこの国に、
筋肉を育てる炒め飯
が誕生したのであった。
めでたしめでたし。
今日も伊沢博士は研究室で、
ダ・ヴィンチと名付けたマイクを持ちながらつぶやく。
「発明は世界を救う。
だが筋肉は――
もっと手っ取り早く救う。」
カルテがぼそっと言った。
「……博士、私の体に何かあるんですか」
博士は何も答えなかった。
ただ、静かにマイクを持ち上げた。
戦闘シーンが伝わってるか不安です。オチがない戦闘が慣れなくて。




