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第15発明 炒め物と少年の夢なのじゃ

夜だった。

研究室の片隅で、アル・デンテは眠っていた。

いつものソファに横になり、パオを羽織って。

そして――夢を見ていた。


________________________________________


古い道場だった。

木造の壁。

土の床。

差し込む夕日。

二人の少年が向かい合っていた。

一人は赤いパオをまとった少年。

短く刈り上げた黒髪。

鋭い目。

もう一人は黄色いパオをまとった少年。

同じく短い黒髪。

真剣な目。

二人は汗だくだった。

何度も打ち合い、何度も倒れ、何度も立ち上がった跡が土の上に残っていた。

赤いパオの少年が息を整えながら言った。

「……今日も引き分けか」

黄色いパオの少年が笑った。

「そうだな」

「でもいつかは俺が勝つ」

赤いパオの少年が鼻を鳴らした。

「言ってろ。勝つのは俺だ」

二人はしばらく黙って、沈む夕日を見ていた。

黄色いパオの少年が静かに言った。

「なあ、アル」

「なんだ、ハリガネ」

「俺たちで東の国一番の拳士になろうぜ」

アルは少し間を置いた。

「東の国一番じゃ足りない」

黄色いパオの少年——カタメ・ハリガネが振り返る。

「じゃあ」

「この世界で一番だ」

アルは言った。

「俺とお前で」

カタメは笑った。

それは、アルが今まで見た中で一番まっすぐな笑顔だった。

「……決まりだな」

二人は拳を合わせた。

夕日が、二人の影を長く伸ばした。


________________________________________



「アル君」

誰かの声がする。

「アル君、起きてください」

アルはゆっくりと目を開ける。

視界に入ったのは‐――研究室の天井。

カルテが顔を覗き込んでいた。

「……ああ」

アルは体を起こした。

「寝てたか」

「ぐっすりでしたよ」

カルテがクスッと笑い、湯呑みを差し出す。

「夢でも見てたんですか?なんか...笑ってましたよ」

アルは湯呑みを受け取った。

「……昔の夢だ」

カロがソファの向こうから言った。

「珍しい。あんたが笑って寝てるなんて」

「うるさい」

アルはお茶を一口飲んだ。

しばらく黙っていた。

そして静かに言った。

「……昔、ライバルがいた」

カルテが振り返る。

「ライバル?」

「ああ」

アルは遠い目をした。

「最初の武術大会、俺は2連覇した」

「その時まではそいつがいた」

「毎回決勝で当たって、毎回俺が勝ったが……」

アルは手の中の湯呑みを見つめた。

「本当の意味で勝った気がしたことは一度もなかった」

カロが静かに聞いた。

「次からはいなかったの?」

「ああ」

「3連覇目からは姿を消したんだ」

アルは言った。

「おかげでつまらない大会だった」

カルテが小声で言った。

「……それでも大会に出続けたんですね」

アルは少し笑った。

「そいつがいつか戻ってくると思っていたからな」

「戻ってきたら、その時こそ本当の決着をつけようと」

「……ずっとそれだけを楽しみにしてきた」

研究室に静かな空気が流れた。


アルはふっと息をついた。

「今では俺も7連覇だぜ」

おどけるように言った。

「剣にされた経験がまた俺を新たな武の極致へと導いた」

胸を張る。

「その名も――剣狼拳」

カルテが頬に手を当てた。

「……アル君って本当にどんな経験も無駄にしないんですね」

カロが静かに言った。

「剣にされたことを糧にするやつなんて初めて見たわ」

アルが苦笑いをする。

少し間が空き、カロが何か言おうとした。


その時。

「博士ーーー!!大変です!」

扉が勢いよく開いた。

近所の親方だった。

「今度はチャーハンとピラフが争っています!!」

カルテが立ち上がる。

「またですか……」

奥の部屋からミケランジェロを持った博士が現れた。

「そいつはいかん。平和がワシを呼んでいるのじゃ」

アルがぼそっと言った。

「……珍しくいい話をしてたんだが」

誰も聞いていなかった。



広場では、すでに争いが最高潮に達していた。

チャーハン派が叫ぶ。

「パラパラの炒め具合と香ばしい醤油の香り!米料理の頂点はチャーハンだ!」

するとピラフ派が言い返す。

「バターで炒めた米の芳醇な香りと上品な味わい!洗練された米料理といえばピラフに決まっている!」

ついにはチャーハンが投げられ、


ピラフが飛び交い、

広場が香ばしい香りに包まれた。

博士は争う人々を見渡し、静かに言った。

「みんながこれ以上争う姿を、ワシは見たくないのじゃ……」

拳を握る。

「ワシが……ワシがこの国を平和にしてみせるのじゃ!!」

カルテがつぶやく。

「博士……今回こそ発明で解決ですよ」

こうして博士とカルテは、来る日も来る日も研究に研究を重ねた。

そしてある日。

巨大な装置の前に立つと、博士は大量のチャーハンとピラフを投入した。

装置は唸りを上げる。

ゴゴゴゴゴ……


そして――

一つの料理が誕生した。

その名も、

ピーハン。



挿絵(By みてみん)



バターで炒めた米に醤油の香ばしさを加え、チャーハンのパラパラ感とピラフの芳醇な風味を両立させた奇跡の炒め飯である。

カルテが目を輝かせる。

「博士、ついにやりましたね!」

博士は静かにうなずく。

「あぁ。これで平和を取り戻すのじゃ」

チャーハン派が言う。

「パラパラ感はそのままに、バターの風味が加わって……これは新しい!」

ピラフ派も言う。

「醤油の香ばしさがバターと合わさって……毎日食べたい!」

国民たちはピーハンを頬張り、笑い合った。

こうして世界には――

香ばしい平和が訪れた。

――かに見えた。


その平和を乱す者が現れたのである。

それが――

麻婆豆腐派だった。

麻婆豆腐派は舌を鳴らした。

「チャーハン?ピラフ?ぬるすぎる」

「この痺れるような辛さと旨みの前では、どちらも霞んで見える」

「花椒の香りを知らない者に、中華を語る資格はない」

国中に麻婆豆腐がばらまかれ、

たけきのこの国は再び大混乱に陥った。

博士は静かに言う。

「落ち着くのじゃ。争う必要はないのじゃ」

しかし麻婆豆腐派は聞く耳を持たない。

「麻婆豆腐最強!」

「辛くないものは時代遅れ!」

広場は騒然となった。

沈黙が流れる。

博士はゆっくりと立ち上がった。

そして――

白衣の袖をまくった。

カルテが小声でアルに言う。

「……来ますよ」

アルが小声で返す。

「……ああ」

カロがカップを持ったまま小声で言う。

「……今度は何かしら」

博士の拳が空気を引き裂く。

はずだった。


スッ。

音もなく。

博士の拳が止まっていた。

いや、違う。

誰かに、手首を掴まれていた。

ローブをまとった人物だった。

フードが深くかぶられていて、顔が見えない。

広場が静まり返った。

カルテが息をのむ。

「……誰?」

アルの目が細くなった。


ローブの人物は何も言わなかった。

ただ静かに、博士の手首を掴んだまま立っていた。



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