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「秋の気配」

今回は知る人ぞ知るオフコース(小田和正)の初期の名曲「秋の気配」です。

「秋の気配」

挿絵(By みてみん)


4月から入社した僕に職場指導員として就いたのは、入社4年目の岬さんだった。

初めは大人の女性に見えて言葉を交すのも緊張したが、実はとても力を抜いて仕事をしている人なんだと感じた。


僕の会社は、クライアントの店舗の売上を上げるために経営戦略を提案するコンサルタント会社だ。

今僕はクライアントとの交渉やコミュニケーションの取り方を岬さんを通して学んでいる。


今回の案件は横浜中華街で、ここら辺りではそれほど大きくない中華料理屋だった。

二人でクライアントの中華料理屋のランチを食べた。


「優君は休日とか何してるの?」

岬さんが、餡かけチャーハンを頬張りながら聞く。


「勉強したり、だらだらしたり・・・」と言った矢先、「このチャーハン美味しい!」と岬先輩。

自分から質問しといて僕の話を聞いていない。


「店長、この餡かけチャーハン、凄く美味しいです。ね、優君も美味しいと思うでしょ?」

「はい・・・」

確かに美味しいのだが、食リポのタレントのようにそこまで興奮できるものだろうか。


店長は、「実は餡かけに秘密があり・・・」と独自の餡かけだと自慢げに話した。しかし作り方は企業秘密らしい。


僕らは一通りランチを食べ終えて外に出た。

「餡かけの料理をもっと出した方がいいんじゃないかな」と岬さんは語った。

食べ過ぎたのかお腹をさすっている。


「このまま会社に戻るの、もったいないから公園でまったりしない?」


岬さんが指を差したのは、港の見える丘公園。

沙織とよく来た公園だ。


そういえば、さっき岬さんに休日の話を聞かれた時になんとなく沙織の存在を隠した。


港の見える丘公園の「イングリッシュローズの庭」に行った。

「薔薇は今日も元気に咲いてるねえ」と岬さんが自分が育てたかのように言う。


沙織と春になると毎年来ていた場所だ。ここは四季折々の薔薇が咲く。

そういえば・・・今年は来ていない。


小高い丘から横浜港を眺めがら、岬さんは「そういえば休日も勉強してるの?」と聞いた。


もう1時間も前に発した言葉だ。


「はい。まだ解らないことが多くて」

「まじめー。そのうち追い抜かれて私、優君の部下だわ」

「そんなことあるわけないじゃないですか」

「この仕事さ、優君の初めての仕事にもなるし、一緒に成功させようよ」


優しく心強い先輩が職場指導員でいてくれて僕は幸運だと思った。

僕もこの人の力になりたいと思った。


そして岬さんは、「それでさあ」と付け加える。

「はい」

「豚まん買って帰らない?」

「まだ食べる気なんですか?」と僕は笑った。

「そういう年頃なの」

どんな年頃だ。


その夜、2時間だけ残業して家に今日の仕事を持ち帰った。

持ち帰ったのは仕事だけでなく、店主がくれたチャーハンと餃子もだ。


それを食べながら、パソコンで提案書を練っていると、週末なこともあって沙織がやって来た。


「週末だし、最近会ってないから来ちゃった」


そういえば、沙織とはもう一ヶ月も会っていなかった。


土日に店舗の調査が入ることが多くて、僕は敢えて会う約束をしないでいた。

沙織も一年目で同期との交流などがあり、土日は埋まることが多かったこともある。


「はい、これ。餃子とチャーハン。そこの玉将のやつ」と沙織が差し出す。

「ちょうどチャーハンと餃子、食べてた」

「えーじゃあ・・・いらないか」

「いや、そっちも食べる。こっちのは中華街のやつだけど、食べる?」

「そっちの方が美味しそう!食べる食べる」

「テーブルに並べようか」


テーブルに餃子とチャーハンとスープが並ぶ。


「茶色いものばっかりだな」と僕。

「でもどれも美味しい」と沙織。


沙織は少し時間を置いて「ねえ、優。もうギターやめたの?」と聞いた。


「やめてはないけど・・・もうプロを目指す歳でもないよ」

「あの曲、またいつか歌って欲しいな」

「なんの曲?」

「私の誕生日に作ってくれた曲」

「大学一年の時のね。今思えば恥ずっ」

「私にはずっと大切なプレゼントなのに」

「またいつか歌うよ」

「絶対だよ」


僕は餃子を食べながら言った。

「沙織、今先輩と初めてのコンサルの仕事してんだ。前みたいに毎週のように会えないかもしれない」

「先輩って、女の人?」


普通先輩といえば男の人をイメージするはずだが、沙織は何の脈略もなく「女の人?」と聞いてきた。


「そうだよ」

「きっといい先輩なんだろうね」


沙織は中華街の餃子を見ながら、「またさ、春になったら港が見える丘公園に行こうよ」と言った。


内心、半年以上先の約束など出来ない僕がいたけど、「そうだね」とだけ答えた。


「その時まで付き合えてたらだけど(笑)」とまるで僕に気遣うように沙織が笑って言った。

僕は「何言ってんの?」と言ったが、顔が笑っていないのは自分でも気付いていた。


「これ食べたら帰るね」と沙織。

「泊まっていかないの?」

「優、忙しそうだから。また、いつか会おうね」


僕たちが少し大人になっただけなのに立ち直せない関係性になってしまった気がする。


それは、夏の陰りが二人の間を隔てるような秋の始まりだった。


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