「灰色と青」
米津玄師の「灰色と青」からイメージした短編小説。
子供から成長した二人は、再びあの場所へ。
僕の父親は、まるでサーカス団のように転勤族だった。
本人曰く、「全国の社員を教育して回っている立場だ」と言っていた。
小学生の頃は、マニュアルでどうにか出来るだろと思っていたけど、二十歳になって父親がやっていたことがなんとなく分かるようになった。
僕が小学校六年生で転校をしたのは、岩手県だった。
もう転校は三回目だったけど、転校初日に馴染むことは難しい。
いつもひどいアウェイ感を感じる。
転校初日に先生は僕を紹介した後、先生が指示した僕の席の後ろに座っていたのが、真莉だった。
真莉は、僕に気遣ったのかわからないが、僕の背中を鉛筆の後ろで突く。
「同じ出身だね」
「え?東京から来たの?」
「いろいろあって今岩手のお婆ちゃんの家に住んでいるの。東京ってさ、今ゴジラいるんでしょ?」
「新宿の歌舞伎町だね」
「歌舞伎町で夜遊びしたことないよ」
「小学生が夜遊びするところじゃないよ?」
「あははは」
すると、教師が言った。
「なんだ?おまえら知り合いか?」
すると真莉は、「ねえ、ラブコメあるある台詞、ゲットしたよ!」
僕は面白い子だと思ったが転校初日で女子に巻き込まれるのは、なんだか他の男子にとって肩身が狭い。
それから僕にはなかなか男友達が出来ず、真莉が気遣っているのか「一緒に帰ろう」といつも誘って来た。
ある日、二人で神社に立ち寄った。
「ねえ、缶蹴りしない?」と真莉。
「それ、昭和の遊びじゃない?しかも二人でするもんだっけ?」
「缶を蹴って、その間に私が隠れるから」
「勝手に僕は鬼?」
そう言いつつ、僕らは缶蹴りをした。
僕がずっと真莉を探していると、「じゃーん」と真莉が現れた。
「缶蹴りなよw」と僕。
「空き缶はリサイクルするもんなんだよ」
「そういう遊びだっけ?w」
そして真莉は空き缶を神社のゴミ箱に捨てた。
缶を捨てると、「来週花火大会だね」と真莉が言った。
「そうだよね」
「一緒にここで見ない?」
初めてのデートの誘いのようで僕は緊張した。
断る理由もなく、僕らは午後六時半にこの神社で待ち合わせした。
花火大会当日。夏休みから一週間ほど経った時だった。
六時十分に着くと彼女は浴衣姿で既に神社にいた。
初めて同じ歳の女子の浴衣姿を見た。
何かドキドキする。
「この神社の高台からも花火見えるんだよ」と彼女。
しかし、夕方の六時半になると、急な夕立と落雷。
夜の七時から始まるはずだった花火大会は中止になったと町内にアナウンスが流れた。
それでも僕らは神社の屋根の下で、雨が止むのを待った。
すると真莉がバッグから花火セットを取り出した。
「今日、ムリだ。ここで花火しようよ」と真莉。
「花火買ってたの?」
「天気予報を見たし」
「火はあるの?」
「お爺ちゃんの仏壇のチャッカマン」
「お爺ちゃんの・・・いいのかな」
そして僕らはいくつかの花火をした。
最後の線香花火の時、真莉が言った。
「私、二学期から東京に転校するんだ」
僕の線香花火の火が落ちた。
「え・・・どうして?」
「お婆ちゃんが入院して、母のいるところに帰るだけ」
あの時は何か事情があると思って子供心に家庭の事は聞かないでおこうと思っていたが、二十歳になった今はなんとなく想像がつく。
あの時、僕は思わず彼女に委ねた。
「これが最後の花火?」
すると、「変な約束しない?」と真莉が聞いた。
「何?変な約束って」
「よくドラマでありそうなやつ。二十歳の花火の日にここで待ち合わて花火見ようよ」
「真莉が忘れてるよ」
「ってことは、そっちは覚えているんだね」
「僕は・・・忘れるかも」
「これがドラマなら、普通『一緒に花火見よう』って誓うの!」
「じゃあ、見よう」
「何よ、じゃあって」
僕は聞いた。
「ねえ、いつ東京に転校するの?」
「もう東京に住んでるよ」
あの時、夏休み中だった。もしかしたら彼女は、約束の花火のために岩手に来たのかもしれない。
「二十歳になる年の花火だよ。覚えておいてね」と真莉は言った。
僕らは少しだけこれまでの思い出話をして「親が心配するから」と夜の九時に帰った。それがクラスメイトの日として最後だった。
彼女は、もう明日には東京に「帰る」と言っていた。
あれから僕は、いろんな人といろいろな場所で花火を見てきた。
それでもいつも思い出すのは、真莉との約束だった。
あの子は、今どんな人生を送っているのだろう。
あれから八年。
二十歳の岩手での花火大会の日。
僕は「まさかな」と東京からあの神社に行っていた。
一人で感傷に浸れる。そういうのも嫌いじゃない。
東京から小学生の時の約束を見守るために岩手にやって来たとは、岩手の男友達には話せなかった。
神社の階段を上がると、足下に触れた空き缶を蹴落としてしまった。
空き缶が神社の階段を落ちていく。
僕は拾いに行く。
今年の花火は晴れ。
僕は一人神社の階段に座る。
あの頃を思い出していた。
物音がして振り返る。
「私、見つかっちゃった?」
そこには浴衣姿の真莉。
「え!なんでいるの?」と僕。
「缶を蹴られたからw」
「真莉!!」と思わず笑顔で名前を呼んだ。
「約束守ってくれたんだね」と彼女。「ねえ、東京に染まったのか、すごく茶髪ロン毛になってるよ!」
「真莉も髪の毛が相当長い」
「願掛けだよ。って言っても途中2回切ったけどw」
まるであの頃のような接し方だ。
あの頃とは見違えるけど・・・。心の中は変わっていない。
「ねえ、そろそろ始まるよ」と真莉。
「え?」
花火の一発目が上がった。
一発目から大きな花火。
花火の音が届くまで二秒ほど掛かった。
「すごーい」と真莉。
真莉は、「やっと見れたね」と僕とハイタッチをした。
これまでの時間を覆うには、とてもとても長い二秒だったけど、花火が開いて消えると、それまでの時間は一瞬で過ぎ去っていった。
前書き
米津玄師の「灰色と青」からイメージした短編小説。
子供から成長した二人は、再びあの場所へ。
後書き
読んでいただきありがとうございます。
次回、このシリーズは3月24日夜を予定しています。
読んでいただきありがとうございます。
次回、このシリーズは3月24日12時を予定しています。




