009 Craft design(工芸家)
工芸家は本来、木工師から始まった。
木工師は魔法力がなくてもできる仕事で、水量が比較的豊富な、干上がらない小川が流れていたら、その横に支柱を建て、水車を取り付け、水車の軸に滑車を付ける。木ろくろや回転旋盤を滑車の正面に置き、滑車に皮のベルトをひっかければ、動力を抽出できる。あとは濡れた木材は加工しにくいばかりでなく木の反りを作ったりするため、作業場と木材の保管場に屋根をかける。それだけで生産拠点となる。
水があればいいのかというとそうでもない。大河では水位が年を通して安定せず、雨季や雪解け時には水量が増えて増水する。そのほかの乾季や冬季は水量が逆に減少し、水位差は数メートルになることもある。水車の位置を年に数回移動させないといけなくなる。それは手間がかかるうえ、作業が水車と大きなものを動かすことになるので危険だ。水が少なければ季節によって水車が回らずに作業場所自体を動かすことにもなる。拠点の見極めはそこだけがポイント。大河に流るる無数の川。その数だけ木工の発展が望める。
樵は、木を植えて育てて、収穫し、乾燥させて、山から搬送するのが仕事。
大工は、加工された木材を使って住居を作るのが仕事。
木工はちょうどその中間を担う仕事とされている。
この世界の木工師というと
雪に閉ざされない春や秋や夏には、木材の切断、丸太を縦に切って板を作り、その板をさらに縦に切り、柱を作る製材作業。
雪に閉ざされた春や秋や冬は、夏の間にストックしておいた木材や、製材で使わなかった端材棒や板を使い、家具や土産物や器や木箱などの木材製品を作る。
冬は樵からの木材は入ってこなくなるので、その期間の副収入を得るために始められた家具や日用品やお土産つくりだった。
ヘルシンクのデザイン家具、アラビンのチェッカー柄の大机、キゾ・バジマの漆塗りの木椀、カムイのワッコイ温泉のしゃけを咥えたクマ、トウカナイの木製の子供の遊び道具、木ではないがトウキの竹で編まれたかご、そういうものがこの世界のものを木工師が作っている。
木工に様々な技法が駆使されて作り出されてくると、芸術性が高くなってきた。そんな木工品を工芸品と区別されて呼ばれるようになり、王都の王族や貴族、大都市のお金持ちの好事家たちに人気が出てきて、売り買いされるようになってきた。
その工芸品も木工主体であったものが、陶芸や貴金属などと組み合わされるようになり、そこにさらに精密機械を組み合わされたり、魔法による加工を施した装飾品を施すというのがトレンドの1つになってきた。
今回はそんな工芸魔法師の話。
薄暗くなり始めた寒々としつつある中、雪原に三筋の後がレリックの街の方に向かっている。彼らは隣国からの魔法師でリリックの工芸工房で働くために旅をし、もうすぐその旅も終わる。
レリックというと最近は高価な工芸品を作り出すことで有名になりつつある街で、工芸魔法使いが集まりつつある。中でも特に有名な工芸品は、王に気に入られたことで有名になった。クリスタルの彫像。
クリスタルには透明や青や紫や淡いピンク色などの色がついたものがある。クリスタルは組成が安定しているため普通に高熱を加えると溶解してしまい、色がまじりあってしまう。クリスタルを柱状に加工し組み合わせ、ある魔法をある方法にて、溶着させる方法が編みだされた。そんなクリスタルの塊を、彫刻家が彫像に仕立て、荒れた表面を違う職人が磨き込み、さらにクリスタル内部で太陽光が反射し浮かび上がるように、魔法でクリスタルを刻み込む。直径30センチはある時計を手などに持たせ、見た目ばかりか時を知らせることができる実用的な置物で、それが主に贈り物として売り買いされている。
有名になったきっかけは、王様が国内巡回の時レリックの街に来て宿泊した時、レリックの街を収める貴族が贈り物として、大きな時計を持つ女性の全身像を贈ったことに由来する。
王様は60歳代の高齢でお世継ぎである王子にもすでに子供がいる。王妃はすでに亡くなっており、跡継ぎ問題が起こらないように側妃らは里下がりさせていて、王は家族こそいるが孤独だった。
贈られた全身像は若き日の王妃に似ており、送られて喜んだ王は最初のうちは執務のため一日のほぼ半分は執務室にこもるため、執務室の窓口において、何かのひょうしにじっと見入ることで喜びを得ていた。王の執務室に入れる家臣どもが、彫像を見て亡き王妃を思い出し、王妃の昔話に花を咲かせることが多々あった。そのため王妃と関係のある来賓と王妃の思い出話を聞くがため、王国の祭典などの時は部屋の片隅に置かれ、陸戦騎士が王妃の彫像を警護するようになった。来賓がその前で立ち止まると、片方の警護騎士が王に合図を送り、王が来賓にすり寄ってくるという、王がおかしな行動をするようになった。王の目論見は達成され、来賓が王妃の昔話を王の前で語り、王も王妃との逸話を話すようになった。そのたびに王の本当の笑顔が見られるようになった。
王女が嫁いでいった隣国の王も自分と同じ境遇で、月に一度の王女からの手紙にもそのことがふれられていた。たびたびそのことがかかれた手紙を見た王は、隣国の王妃に似せた置物を贈り物として送ることにした。しばらくしてから隣国の王から感謝状が届き、同時に王女からの手紙も届いた。王女の手紙には「隣国の王宮内も非常に明るくなった」と。
それからリリックのクリスタル彫像は「王妃の彫像」として遠くの国にまで知られるようになった。知られるようになったころにはその製法はすっかり秘匿されるようになった。
秘匿することでしばらくの間、どこも真似をすることができないため、その間にリリックの特産品として定着させる目的であろうとうわさされた。
でも実際は特産品の定着のためなどではなく、この技術がほかに転用できることを見つけてしまった技術魔法師がいて、その技術アイデアの漏えい防止も兼ねていたからだ。
その転用技術とは6話に登場したオクタビアン技術主任。彼が見つけ出したものは「魔法結晶」、それを収める容器は水晶である。その水晶溶接結合技術を使うと、多種の特性をもち合わせた弾頭が作れる可能性を見つけてしまった。水と炎ならば威力は半減するが、雷と水だと水が乾いた地表を濡らし、地表の水分を伝わって雷が走る。雷は秒ごとに威力が半減していくとはいえ、雷が濡れた地上にいる兵士は雷を浴びて電気ショックで体がマヒし行動不能になる。その範囲は半径数百メートルと威力は絶大。そしてその仮想が実験により現実に転用できると証明してしまった。
他国でもその魔法結晶技術に注力している技術者が王妃の彫像の利用に目を付けるかもしれない。しかしすでに「王妃の彫像」は世界に広まっていて、その名声は留めることなどできない。国外からのそれも王族からの要望もあって生産をとめることができない。それだけでなく無理に生産を止めると、情報分析に長けた技官に悟られるかもしれない。そうなると、その秘匿された魔法技術を暴こうと近隣国の商業ギルドからの魔法師が技術習得のため、リリックの様々な工芸工房に働きに送られるようになるかもしれない。彼らは仕事を稼ぎつつ技術も得ようとする簒奪者になる。
工房のほうでもそんな対策はしており、クリスタルを作る工場には古株の魔法師しか入れないようにしてあり、そのうえ魔法師がひょんなことで口を割らないように、誓いの魔法を掛けていた。
軍はとりあえず、生産は少数にとどめ、警備を厳重とするように求めた。そしてその警備も違和感がないように、工房前と工場入り口に王家の紋と王家御用達の看板をぶら下げるように指示。そうすれば関心は持たれても、無理やり秘密を暴こうなどという不届き者を牽制できる。あとは実力行使をしてでも本当に知ろうと画策している人物に注意を向ければいい。
ちょっとその看板が飛び火をおこした。王家に品物を納品しているほかの商家が王家に同様の王家御用達の看板を掲げる使用許可を求めたという。
先の3人が街で働き始めて2か月後、酒場で3人が酒をあおって仕事話をしている。
年上がグラッド。2番目がグルカン。年下がグルーン。
3人は兄弟なので、何かと会っては酒をあおる。
「工房の成功とわれらの飯の種に!!」
「そして王様と水晶の王妃に!!」
「われら兄弟がそろったことに!!」
「「「乾杯!!!」」」
「そういえば、仕事には慣れたか?グルーン。」
「ああ兄者グラッド、だいぶ慣れた。だがまだ何も任せてもらえない。まあ技術がないんで仕方がない。」
「何かできることはないか?グルーン」
「ありがとう。グルカン兄者。
そうだなあ・・・・・こんな飲み会の時に仕事先とは関係のない魔法をなにか教えてもらえないか?講習っていうのかな?お願いできないか?現場では親方たちが俺を仕込んでくれているが、なんかこう・・・・・・俺バカだから、あんまり考えるとか苦手なんだ。何とかして考える・・・・・これがこうなる・・・・・予測、予測。予測ができるようになれば、仕事でもポカしなくてすんで、効率が上がるんだと思うんだ。」
「兄弟助け合わなければこの世の中渡っていけない。構わないさ、グルーン。」
「グルカンいいことを言う!もちろん俺もグルーンのために手伝うさ!
そういえばグルカン、お前の仕事先の工房はどんな工房なんだ?今まで守秘義務に遠慮して聞かないようにしてたんだが、グルーンのために何かしらの話ができる仕事なのか?守秘義務があるのは知っている。触れない範囲で説明できるか?」
「俺の勤め先は鍛冶だ。まあ昔ながらの炎とハンマーと金床がメインの普通の鍛冶屋なんだが、それだけでなくエンチャント、魔法による強化をほどこしてるんだが、そのエンチャント作業が今のメインの仕事だな。ほらこの商店街の外れにある金物専門の武器・よろいから、鍋まで置いてある、お店があるだろう。そこで包丁や剣を見たことないか?箱に「何でもスパッと切れる!エビ印!」って書いてあるの見たことないか?そのエビ印のところだよ。」
「ああそういえばお前は昔からそういうのが得意だったモンな。」
「なんだい兄貴?そのエンチャントって?」
「エンチャント自体は昔からある魔法技術で・・・・・・・・守秘義務には当たらないな?かまわないか?
付与とかとも言われるものだ。鋼の硬度にさらに魔法で硬度をさらに高める技術で、切れない刃物に付与しても全く切れ味が良くならないが、切れ味がいい刃物に付与すると、切れ味がずっとそのまま、いつまでも刃研ぎに出さなくても良くなる技術と言った方がわかりやすいな。刃先だけに魔法力をいつまでもうっすらと貼り付けると言った方がイメージわきやすいか?そんな技術だ。」
「どうやるんだい?」
「魔法はイメージによって効果が倍増するのは知ってるよな?俺は自分にとってイメージがしやすいよう、呪文をアレンジしている。こうだ。「鍛冶屋が炎と鎚を振るい、金属を曲げ、重ね、そうして重ねられて鍛え上げられた、刃の折り重なりに沿って金属に宿る聖霊よ、いつまでも魔法力をともなって居付いてください。」って唱えるんだ。イメージさえしっかりしてればイメージ通りに魔法が発生するから、エンチャントのばらつきがない。宮廷魔法師のように短時間で唱える必要もないけど、呪文が少し長いのが問題だな。失敗すると刃物に再エンチャントできないから、失敗した刃物は廃棄になってしまう。その歩留まりをしないようになるべく一発で決まるよう、安全確実な方法にしている。あとは普通の魔法の用法と同じだな。」
「ふ-ん面白いな。兄者。」
「俺が務めてるのはさっきの乾杯の時に言った水晶の王妃の店なんだ。もちろんそれに・・・」
「おい待て!まずくないか?王室御用達だろう?」
「大丈夫、兄者。俺がいるところはそんなところじゃないんだ。あの部署とは関係がないんだ。一般の工芸品の水晶加工の部署で、水晶内に魔法で細かな小さなヒビを作る部署なんだ。それを立体の像にように刻んんでいくお土産品の部署なんだ。」
「あれか!俺も一つ購入したぜ。どうなってるんるんだろうと研究のため買ってみたよ。」
「兄貴、お買い上げありがとう。今は花のバラを刻んでるんだが数千もの傷を水晶内に刻む仕事をしてるんだ。それがまた手間がかかるんだ。バラを考え、その縁を立体的に刻んでいくんだが、魔法力の制御を誤ると水晶がパーンと粉々に砕ける。刻み込む魔法を工夫したほうがいいんだな。何となく呪文の改良点が見つかった気がするよ。ありがとう。」
「水晶の王妃に再度カンパイ!!」
(なんか文書構成がおかしいのでまた手直しします。)




