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「まずは精霊王に選ばれるところから始めましょう。その次に、わたくしの味方になってくれる殿方を確保し、マリーを失脚させるための証拠を集めればよいのですわね」
エレオノーラは指を一本ずつ折りながら、今後の計画を立てていった。
「簡単ですわね!」
まったく簡単ではなかった。
「まずは脱出が先ですわね……。外には見張りがいて、窓には鍵がかかっている。しかも、ここは三階……。何とか外に出られたとしても、王宮には大勢の警備兵がいるはずですし……。ですが」
エレオノーラは窓辺へと歩み寄った。
三階という高さに安心しているのか、窓の下には見張りの姿がなかった。窓辺のカーテンに手を触れたエレオノーラは、しばらくその生地を確かめると、満足げに頷いた。
「それでも、不可能ではありませんわ!」
目の詰まった丈夫なカーテンは、大人一人の体重くらいなら十分に支えられそうだった。
エレオノーラは迷うことなくカーテンを掴み、思いきり引き裂いた。
「うーん……。結び合わせると、少し長さが足りなくなりそうですわね……」
そこで、エレオノーラはふと自分の服装に目を落とした。
「いえ、いえ。さすがにそれは……」
長いこと、それはもう長いこと迷い続けた末、ついに覚悟を決めたエレオノーラは、ドレスの裾に加えてレースのペチコートまで、びりびりと引き裂いて結びつけた。
「くっ……! お気に入りのドレスでしたのに……! 本当に許しませんわよ、あの女……!!」
半ば涙目になりながらも、どうにか長くつなぎ合わせた布は、少々不格好ではあるものの、即席のロープとして使えそうだった。
エレオノーラはそれをベッドの脚にしっかりと結びつけると、部屋の中を見回した。
丸テーブルの上に置かれていた青銅製の燭台を手に取る。
ずっしりとした重みを感じた彼女は、満足そうに笑った。
「よろしいですわ! 覚悟を決めたのなら、すぐに実行です! 何事も速さが肝心ですもの!」
エレオノーラは燭台を両手でしっかりと握りしめ、力いっぱい窓に向かって投げつけた。
ガシャーン!
鋭い破砕音とともに窓ガラスが粉々に砕け散り、夜風が部屋の中へと吹き込んできた。
「な、何だ?! 今、部屋の中から何か音が――!」
扉の向こうから、警備兵たちの慌てた声が聞こえてくる。続いて、鍵穴に鍵を差し込む音がした。
「ごきげんよう!」
エレオノーラは少しもためらうことなく、裂いた布をつなぎ合わせて作ったロープを窓の外へ放り投げた。窓枠を乗り越え、ドレスの裾を片手で押さえながら、ロープを伝って滑るように降りていく。
掌が熱を持つほど擦れ、地面に着地した瞬間には足に鋭い痛みが走った。それでも、エレオノーラは歯を食いしばった。
「この程度……! この程度、何でもありませんわ……!」
少し足を引きずりながらも、彼女は迷わず走り出した。
幸い、別邸の裏手には庭木や高い生け垣がびっしりと植えられており、身を隠すにはうってつけの場所だった。
もちろん、ドレス姿で走り回るには最悪の場所だったが。
「止まれ! 罪人が逃げたぞ!」
「もう見つかりましたの?! 思ったより対応が早いではありませんか! それに、今はっきりと罪人とおっしゃいましたわね!!」
松明を手にした騎士たちが次々と飛び出し、エレオノーラを追いかけ始めた。
エレオノーラは舌打ちしながら、邪魔なスカートの裾をぎゅっと掴んだ。
「ええい! これでもお受けなさいませ!」
走りながら、彼女は足を締めつける窮屈な靴を勢いよく脱ぎ捨てた。
華やかな装飾の施された靴は、先頭を走っていた警備兵の額に見事命中し、鈍い音を立てて地面に落ちた。
「ぐあっ!」
「あら、ごめんあそばせ! でも、追いかけてきたそちらが悪いのですわ!」
残った片方の靴も脱ぎ捨て、しばらく走り続けた先で、彼女は想像以上に高い塀に行く手を阻まれた。
幸い、庭の管理に使われている小さな門があったものの、そこにはしっかりと錠前がかけられていた。
エレオノーラはしばらく門を見つめた後、ぷくりと唇を尖らせた。
「まったく、こんなところに無駄なお金をかけるものではありませんわ」
彼女は迷うことなく、近くに立てかけてあった庭仕事用のシャベルを手に取り、錠前に叩きつけ始めた。
ガンッ! ガンッ!
「ああ、もう! 時間がないというのに!」
何度か打ちつけると、ついに錠前が悲鳴を上げて地面に落ちた。エレオノーラは満足げに頷き、門を押し開ける。
その向こうには、王都の外れへと続く暗い路地が広がっていた。彼女はためらうことなく、その先へと足を踏み出した。
裸足の裏に冷たい土や小石が触れ、痛みが走る。それでも彼女は顎を高く上げた。ドレスの裾はぼろぼろになり、髪も乱れ放題だったが、その眼差しだけは今にも精霊王の頬を張り飛ばしそうなほど鋭かった。
「ふふふ! ご覧になりましたか?! この完璧かつ迅速な決断力を! 脱出成功ですわ!」
しかし、優雅な勝利宣言も束の間。彼女の目の前には、厳しい現実が待ち受けていた。
太古の森。
精霊王が住まうとされる神秘の領域は、王都から実に数百キロメートルも離れた魔境だった。馬車で休まず走り続けたとしても、何日もかかる距離である。今の姿のまま徒歩で向かうなど、自殺行為に等しかった。
「優雅さとは……試練の中でこそ完成するもの……」
王室による追跡が始まっているのなら、王都へとつながる主要な街道から監視されている可能性が高い。それに、彼女の顔は王宮に出入りする者たちに広く知られている。
となれば、残された手段は一つしかなかった。
「他人の馬車に無断で乗車させていただきますわ!」
正式に馬車を借りるだけの金もなければ、今のような格好で御者に近づいたところで、十中八九、不審者扱いされるに決まっている。
エレオノーラは検問を受けている荷馬車の列に紛れ込み、荷台へと素早く身を隠した。
干し草の山の間に身体を押し込むなど、二度と経験したくないことだった。
埃が鼻を刺激し、藁が肌に刺さるたびに悲鳴を上げそうになったが、エレオノーラは歯を食いしばって耐えた。
優雅さを失った瞬間、すべてが終わる。たとえ見た目が乞食同然になろうとも、その精神だけは誇り高きアルジェント公爵令嬢でなければならないのだ。
馬車を降りてからも、苦難の連続だった。追跡を避けるため、人影のない山道や険しい獣道ばかりを選んで歩かなければならなかった。
「優雅さとは……試練の中でこそ完成するもの……! 今のわたくしは、逆境と苦難の中で咲き誇る一輪の花……!」
今日だけで何度口にしたか分からないその言葉を、おまじないのように繰り返しながら、エレオノーラはよろめく足取りで進んでいった。
正体も分からない木の実や草を口にしながら、ようやく太古の森の近くまでたどり着いた頃、彼女の行く手を塞いだのは、家ほどもある巨大な野生の熊だった。
血の匂いが漂う口を開き、恐ろしい唸り声を上げる熊を前にすれば、普通の令嬢なら悲鳴を上げて気絶していたことだろう。
しかし、今のエレオノーラは、あらゆる意味で追い詰められていた。
つまり、正気ではなかったのである。
「そこのあなた、道をお空けなさいませ。わたくしは今、とてもお腹が空いておりますの。何をするか分かりませんわよ。それに、わたくしは間もなく聖女となる身。わたくしに手を出したりしたら、これからの森での暮らしが恐ろしいことになりますわよ!」
当然ながら、熊にそんな言葉が通じるはずもない。熊はさらに荒々しく吠え、巨大な前脚を高く振り上げた。
「そうですか、あなたまでわたくしの言うことを聞かないのですね……。よろしいですわ! それならば、この場であなたを打ち負かし、今夜の夕食にして差し上げますわ!!」
もはや目の前のものが見えなくなったエレオノーラは、そのまま熊に向かって突進した。
彼女はそこら中に転がっていた木の枝を手に取り、狂ったように振り回した。乱れた髪、泥と草にまみれたぼろぼろのドレス、そして血走った眼差し。
その姿は公爵令嬢などではなく、山奥で百年ほど暮らしてきた狂人そのものといった有様だった。
威嚇して相手を追い払おうとしていた野生の熊は、まるで狂人のように叫びながら棒を振り回す人間の女に気圧され、じりじりと後ずさった。
ついに女が木の枝を高く振り上げ、怒りに任せて絶叫しながら突進してくると、熊は尻尾を巻いて森の奥へと逃げ去ってしまった。
エレオノーラは満足げな顔で木の枝を放り投げた。どうやら、すっかり扱いにも慣れてきたようだったが、あくまでも精霊王に会いに行くための旅であって、山賊や狩人になるつもりはない。
「ふふ……ふふふふ! これぞ、アルジェント公爵家の気品……! さあ、それでは、いよいよ到着ですわね……!」
太古の森。
世界が初めて創られたときから存在しているという伝説の森であり、すべての精霊の故郷、そして精霊王が住まう場所だと伝えられている。
数百年も前から、精霊王に選ばれることを望む大勢の人々がこの森を訪れてきた。しかし、森の中へ足を踏み入れることができた者はごくわずかだった。どうにか中へ入れた者でさえ、そのほとんどが道に迷い、森の外へと追い返されたという。
もちろん、エレオノーラはそんな話など少しも気にしていなかった。
「ふん、誰でも入れるわけではない森ですって? むしろ好都合ですわ。誰でも入れるようでは、精霊王の威厳も大したことがなくなってしまうではありませんか!」
しかし、十分も歩かないうちのことだった。
風一つ吹いていなかった森の中で、木々の葉が一斉に揺れ始めた。目の前に広がっていた景色が陽炎のように歪んだかと思うと、いつの間にかまったく別の場所へと変わっていた。
「……あら?」
エレオノーラは何度か目を瞬かせた。
つい先ほどまで目の前にあった大木は跡形もなく消え、代わりに森の入り口で見たものとそっくりな、苔むした岩が彼女の行く手を塞いでいた。
「妨害工作ですの? ふふ、なかなかやりますわね。ですが、この程度の妨害に屈するわたくしではありませんわ!」
エレオノーラは迷わず真っすぐ進んだ。
しかし、一時間、二時間、三時間と経っても、景色は少しも変わらなかった。どれだけ歩いても、同じ岩、同じ木々、同じ苔むした道。森そのものが彼女を拒み、外へ押し戻そうとしているに違いなかった。
「精霊王! 出ていらっしゃいませ! 一体いつまでわたくしを歩き回らせるおつもりですの?! もう歩く力も残っていないのですよ!」
森全体が大きく揺れた。拒絶の意思を示すかのように、鋭い木の枝が彼女の顔や腕を引っ掻いていく。
「くっ……! いいでしょう! こうなったら、たとえ死ぬことになろうとも、ここで死んで差し上げますわ! 精霊王など、わたくしの死体が腐っていく森の中で、毎晩嫌な気分を味わいながら眠るがよろしいですわ!」
エレオノーラがそう言い終えるや否や、森を満たしていた風がぴたりと止んだ。
木々が左右に分かれ、幾重にも絡み合っていた蔦が自ら道を作り始める。その先には、これまで目にしてきた森とはまるで異なる景色が広がっていた。
巨大な湖があった。
湖の中央には大樹が根を張っており、天高く伸びた枝には、季節など関係ないとでもいうように色とりどりの花が咲き誇っていた。
その周囲を飛び交う小さな光は、間違いなく精霊だろう。
精霊を直接目にするのは、エレオノーラにとっても初めてのことだった。
「騒々しいどころか、不愉快極まりない人間だな」
湖の上に、威厳に満ちた声が響き渡った。
エレオノーラは声のした方へ目を向けた。
周囲を漂っていた光が集まり、やがて一人の男の姿を形作る。
銀色に近い長い髪は、風もない空中で柔らかく揺れていた。透き通るような緑色の瞳には、深い神秘が宿っている。
美しい、とエレオノーラは思った。
「ようやくお出ましになりましたわね!」
「……」
「初めまして。わたくしはエレオノーラ・フォン・アルジェント。アルジェント公爵家の長女にして、この国の王太子殿下の元婚約者ですわ。今は少々事情があり、このようなみすぼらしい格好をしておりますけれど、本来は誰よりも気品ある淑女ですので、どうか誤解なさらないでくださいませ」
「……それで?」
まるで彼女の自己紹介が終わるのを待っていたかのように、精霊王は淡々と尋ねた。
「え?」
「そなたが何者なのかは分かった。それで、私に何の用だ?」
「もちろん、わたくしを選んでいただきたくて参りましたの!」
エレオノーラは両手を腰に当て、堂々と宣言した。
「そなたは、聖女が何であるかを理解しているのか?」
「もちろんですわ。精霊王に選ばれた特別な存在であり、精霊の力を借りて人々を救う者。そして、世界の安寧を守る者。そうではありませんか?」
「ならば、そなたには聖女となる資格がない」
「ど、どうしてですか?!」
思いもよらぬ返答に、むしろ精霊王のほうが呆れたように彼女を見下ろした。
「そもそも、今代の聖女はすでに存在している。同時に二人以上の聖女が存在した歴史はない」
「人手は多いに越したことはありませんわ」
「それ以前に、なぜそなたは聖女になりたいのだ?」
「それはもちろん! あの聖女という女に復讐するためですわ!」
「帰れ」
「きゃあっ! ちょっと! まだ話は終わっておりませんわ!」
精霊王が手を掲げると、エレオノーラの足元で風が渦巻いた。彼女の身体はふわりと浮かび上がり、そのまま森の入り口へ向かって押し流されていく。
「聖女の力は私欲のためにあるのではない。愚かな人間よ」
「それなら! それなら、あの女は何なのですか!」
エレオノーラの叫びに、精霊王はわずかに眉をひそめた。
「その反応! どうやら、あなたもあの女がしたことをご存じなのですね?! 誰よりも私欲を満たしているではありませんか!そもそも、あなたがまともな聖女を選んでいれば、わたくしがここへ来る必要などなかったのですわ! この無能男!」
「無能……?」
彼女を包み込んでいた渦巻く風が止まった。
「そうですわ!無能です!男の尻ばかり追いかけ回し、罪もないこのわたくしを追放した女に、あれほど大きな力を与えておきながら、その後の面倒もろくに見られないのですから、当然の結果ではありませんか!一体どれだけの人々が傷ついたとお思いですの?!」
「……」
精霊王の緑色の瞳が細められた。エレオノーラの身体を包んでいた風は、再び彼女を精霊王のそばへと運んだ。
「……そなたは今、私が聖女を選び間違えたと主張しているのか?」
「主張ではなく、事実を申し上げているのですわ! 精霊王ともあろうお方なら、それくらいご自身で確かめるべきでしたわね!」
「私は聖女の心を見通した。彼女には他者を助けたいという思いがあり、精霊たちもまた彼女に従っていた」
「選んだときには、でしょう?」
エレオノーラは鼻で笑った。
「人の心というものは変わるものですわ。初めは善良だった者であっても、権力と力を手にすれば、いくらでも堕落する可能性があります。だからこそ、聖女を選ぶことと同じくらい、その資格を保ち続けているかどうかを確かめることも重要なのではありませんこと?」
緑色の瞳が、じっとエレオノーラを見つめていた。彼女の言葉がどこまで本心なのか、見極めようとしているかのようだった。
「ならば尋ねよう。そなたは、聖女に必要な資格とは何だと考える?」
「簡単ですわ。力を持つ者としての責任を果たすこと。自らの行いが他者にどのような影響を及ぼすのかを理解すること。そして何より、自分の持つ力を勝手気ままに振るわない自制心ですわね。それこそが、上に立つ者に求められる資質ですもの!」
「聖女は上に立つ者ではない。他の者たちと対等な立場で――」
「不可能ですわ」
エレオノーラは少しもためらわずに答えた。
「力に差が生まれれば、目には見えなくとも、そこには必ず上下関係が生じるものですわ。でしたら、自分の力に酔いしれて義務を放り出したあの平民女などより、このわたくしを選んでみるのも悪くないと思いますけれど?」
傲慢で、無礼で、泥まみれのうえに髪まで乱れ放題の公爵令嬢は、少しも怯むことなく精霊王を見据えていた。
聖女らしい純粋さも、慈愛の心も、どこにも見当たらない。
それでも。
精霊王はしばらくエレオノーラを見つめていたが、やがて小さく笑った。
「まったく、どこまでも傲慢な人間だな」
彼が軽く手を振ると、エレオノーラの全身を覆っていた泥や傷が消え、ぼろぼろになったドレスも新しい衣装へと変わった。
「あら。なかなかセンスがおよろしいのですね。少しは機嫌が直りましたわ」
「……そなたという人間は、本当に……」
精霊王はこめかみを押さえ、深いため息をついた。
これまで数え切れないほどの人間と出会ってきたが、これほど話が通じるようで通じない人間は初めてだった。
呆れるどころか、もはや新鮮ですらある。
「なぜか精霊たちもそなたを気に入っているようだし……よかろう。そなたに力を貸してやろう」
「やりましたわ! 第一目標達成です!」
「ただし、今すぐ聖女の力を与えるわけにはいかない。私が聖女マリーから力を取り上げるまでの間、ひとまず私の権能を分け与えることにする」
「結構ですわ! 精霊王様の権能であれば、あの平民女の薄っぺらな力などより、ずっと強力でしょうから!」
「それから、肝に銘じておくがいい。この力は、あくまでも世界の安定と均衡を保つためだけに使うものだ。個人的な復讐の道具ではない」
「承知しておりますわ。ついでに、その世界の安定とやらも解決して差し上げますから、ご心配には及びませんわ!」
「ついでに……?」
精霊王は眉間に皺を寄せたが、エレオノーラはすでに聞いているのかいないのか、鼻歌を口ずさんでいた。
「それでは、次は第二の目標ですわ!」
エレオノーラは堂々と精霊王を見つめ、宣言した。
「わたくしの味方になってくれる殿方を確保しに参りますわ!」
「……それはまた、どういう意味だ?」
「聖女という女が何人もの殿方を引き寄せ、自分の力を誇示していたように、わたくしにも全面的に支持してくれる、影響力のある男性が必要なのです。王国の次期国王にして、かつてわたくしの婚約者だった、あの間抜けな王太子をこちら側に引き戻してみせますわ!」
「間抜け……」
その言葉に、精霊王は呆れ果てたような表情を浮かべた。
「そなたの話によれば、その王太子とやらは、そなたを陥れて追放した張本人の一人ではないのか? それなのに、再び味方につけるというのは、一体どういうつもりだ?」
「あら、ご存じないのですか? 自分を完全に裏切った男が、再び自分の足元にひれ伏し、謝罪して許しを乞うようになる。それ以上に完璧な復讐があって?」
エレオノーラは堂々と顎を上げ、傲慢な笑みを浮かべた。
「それに、あの間抜けはもともとわたくしの婚約者だったのです。かつてわたくしの思いどおりに動いていた男を、再び従わせるくらい、造作もありませんわ!」
精霊王は、またしても深いため息をついた。
どうやら今回選んだ人間は、相当に厄介な相手らしい。




