第9話{凪沙と7人のサリギア①}
{胎罪キャラクター資料}
─────大罪{サリギア。凪沙の脳内に潜伏している大罪たち。それぞれが自分の本能のままに生きているのでケンカが絶えない。}
────────S.E.I.D本部 センターD
「珍しい。楚楚からのオファー。光栄だ」
「それデ? 例の装置は用意デキた?」
「もう準備出来てるよ。案内するわ」
白い壁紙が広がる大きな施設。軍服や白衣を着た人物たちが廊下を行ったり来たりしている。その他には様々な装置や武器なども保管されている。
ここは静岡の某所に存在している【特定事象研究部:S.E.I.D】のセンターDと呼ばれる施設。主に異能力と特定事象の因果関係について研究している場所だ。
「それが例の少年?」
「えぇ。今は私の能力で眠ッテルけど、丁重に扱ってネ」
「了解したわ。それにしても、大罪の異能力者……興味深いわね」
彼女の名前は六波羅魅月。
「機械」という異能力を所有している元女性陸軍軍人。かつては多くの紛争地帯で名を馳せる最強の傭兵だったが、最後の紛争地帯で右腕を失っている。
だが彼女は希望を失わず、自らに走る幻肢痛を義手と接続した結果、戦闘に流用できることを発見した。そして、後天的な異能力者として舞い戻ったというわけだ。
ちなみに楚楚の先輩、ボスの後輩にあたる人物でもある。
「それじゃあ、今から実験に入るわよ。装置の準備して」
魅月は構成員たちに特殊な箱型の装置を起動させた。
これは楚楚の持つ「精神と肉体を切り離す力」を簡易的に再現したもので、ここではコードネーム・カレイドスコープと呼ばれている。
その仕組みについては異能力が絡んでくるためにほとんどが機密とされている。
「ヘッドギア装着完了」
「出力異常なし。装置点火まで三分前」
「魅月サン……今回の実験、どうなると思イますか?」
「今回の実験は、少年の中にある異能力の発信元と特定事象の関係を調べるもの。少年の中にある異能がどんなものなのか、それを突き止めることが出来れば、こっちの成果も大きいわ。安心して楚楚。何とかするわ」
そして間もなく、カレイドスコープの点火が始まった。
装置に付いている3つのランプが全て青色になったと同時、カレイドスコープの点火スイッチが押された。
「カレイドスコープ……点火!」
スイッチが押されると同時、箱の中から青白い光が鋭さをもって差し込んだ。中にいる凪沙の様子は確認できないが、魅月は眉ひとつ動かさず装置の状態を見ている。
そして数分後、装置から光が消えていき、駆動音もおさまった。
モニターに映っている凪沙の様子を眺めながら、魅月と楚楚は研究に取り掛かり始めた……。
◆◆◆
「{こんな感覚は初めてよ……個々で独立して自我を確立させている……ただただ不快極まりない……苛立つばかりよ……}」
「{怠いなァ。自分の意思を持たなきゃいけないなんて怠いなァ}」
「{まぁまぁ~! ようやく噐ちゃんと対面できるんだもの~! 貴重な経験だと思わない~? 私すっごいビクビクしちゃう♡}」
「{そんなことよりも腹が減った。何か喰わせろ}」
「{黙れ黙れお前ら。ここは俺だけが話すところだ。向上心のないお前らより、この俺の方が望ましい!}」
「{いい御身分だなぁお前らは。俺には自由な発言権すらないというのに}」
「{アレが欲しい……! コレが欲しい……! 世の中にあるもの全て! 私のモノにしてしまいたい!!!}」
(こ……ここはどこだ……?)
万華鏡のような空間が視界一面に広がっている。赤青黄紫白緑などの基本的な色に加えて様々な色がグラデーションを成して旋回している。
そんな微睡むような脳中枢世界の中で目を醒ました凪沙が最初に見たものは、彼の目の前に立ち並んでいる七人の男女の姿だった。
「{あ! やっと起きた~! 危うく姦べちゃうところだった~♡}」
「{喰べるだと!? おい色欲! コイツは俺の獲物だろうが!}」
「{え~? 私のオカズだよぉ~♡ 私よりも弱いのにイキらないで♡ 暴食くんっ♡}」
「{噛み殺すぞクソ女ァ!}」
「{きゃっ♡ こわ~い♡ ここじゃなかったら捻り潰してたぞザコ……♡}」
凪沙の前に立ち並んでいる七人の男女は、どれも人間の姿をしていたものの、何処か人智を越えた空気を身にまとっていた。だがその空気は、どれも「死」に輪郭を持たせたようなものであり、凪沙では敵うものではないと本能で理解出来た。
「{初めまして。㐂堂凪沙。この場で直接対面するのは初めてだったな}」
「あ……あなたたちは誰なんですか……?」
「{俺たちか? 俺たちは大罪。お前の運命の中に最初からいる……言わば……7つの胎罪ってところだな。俺はその中のひとつ、暴食。何度かお前の肉体を借りて特定事象と戦ったことあるんだぜ?}」
暴食と名乗った男が言った。黒からオレンジへとグラデーションのかかったロングヘアをしていて、返り血のようなものが染みついたエプロンを身に着けている。荒々しい口調で話しており、性格も荒くれ者のような雰囲気がある。
「{私は色欲っ♡ 強ちゃんと並ぶ癒し枠~♡}」
「{その呼び名は止せと言っただろう……}」
フレンドリーな雰囲気を持って自己紹介したのは、色欲と名乗る女。
マゼンタカラーの肩出しドレスを身にまとい、黒の長いポニーテールに、金色のチェーンピアスが光っている。身のこなしやセリフなどに、どこか相手を誘惑させる色気を帯びていた。
彼女は自分と同時に、隣で難しい顔をしながら腕を組んでいる強欲という女も紹介した。
「そこのフード被った子が怠惰で~、厳つい黒スーツに紫ネクタイ三白眼の子が、傲慢。その隣が嫉妬で、奥にいる大っきい子が憤怒だよ~♡}」
色欲は一気に残りの仲間たちをまとめて紹介した。
凪沙は目の前にいる大罪のメンバーたちを見ながら、自分はどういう立場にいるのか、そもそもどうして自分自身の中にいるのかについて訊ねた。
その問いに最初に答えたのは傲慢だった。
「{そんなのたった一つだ。お前が俺たちを納める噐としての機能に相応しかったんだよ。その結果、俺たちはお前の肉体に収まり、その力を抑え込んでんだよ}」
「{この世界で起きている特定事象や、人類に付与された異能力……それらの根源的なものは人類の歴史のなかで背負った大罪であり、それから派生して産まれてるってワケなんだよ……こんなこと喋らせんなクソ怠いなァ……}」
「人類の……根源的大罪……」
怠惰からの言葉を聞いた時、凪沙の脳裏には一番最初に四ノ宮に言われた言葉が過った。
──────「人間の罪に起因する! 特定事象や異能力の始まり……! アンタはそれを持っている! 組織が危険視するのも納得よ……!」
「ボクが……その罪を背負ってるってことですか……?」
「{罪を背負ってる……って言い方は語弊があるけどぉ~? ま、そう言ってもおかしくないかな!♡ 君は私たちを背負ったまま死んでいくの!♡}」
色欲が無邪気な笑顔を浮かべながらそう言った。
それを聞いた凪沙から表情が消えた。
「ボクは……やっぱり死刑になるべきだったんじゃ……?」
その言葉を真っ先に否定したのは傲慢だった。
「{それは違う。お前が死んだとて、特定事象や人類の根源的大罪が消え去るわけではない。そこは勘違いするな}」
「じゃあボクはどうすればいいって言うんだ! 異能力者であると知らされてから! ボクの生活はめちゃくちゃだ! 全部! お前らが悪いんだぁ! ボクの中から……出て行け! でていけぇ!」
凪沙のその訴えは、望まずして超能力を手に入れた者が訴える悲痛なものだった。まるで、どこかの誰かと、よく似ているものだった……。
しかし、凪沙のその叫びはひとりの声によって弾き飛ばされた。
「{怠いなァ……大声だすんじゃねェよ……面倒臭えガキだなァ}」
それを聞いた時、凪沙は脳内のどこかが沸騰するような熱を感じた。それは素面でいる時では感じたことのない、今すぐに暴れ出すような激情のようなもの。いつもの自分では、絶対に起こらないであろう状態だった。
その凪沙の様子を見た大罪たちは何かを察し戦闘態勢に入る。
「{何かがヤバい。ここは俺が相手しよう}」
身構える大罪たちの中で前に出たのは暴食だった。
「{俺らに牙向けるたぁ面白いぜ……喰い殺してやる……!}」
「{暴食。殺すな。だがその鼻は折ってやれ}」
傲慢は暴食に向けて言った。
それに対し暴食は振り返らずに答えた。
「{あぁ殺さねぇ。だが、その心は壊しておかねぇとな!!!}」
暴食は凪沙に向かって猛烈なスタートを切った。彼は凪沙には何も出来ない。そう高を括っていた。彼の身体を乗っ取った時のように、思いのままにしてやるだけ。そう思っていた。
だが暴食の勢いは、鮮やかな二コマ漫画のように一瞬で崩されることになった。
─────「 『解錠』! {暴食}!」
なんと凪沙が振るった拳からは、暴食自身の異能と全く攻撃が飛び掛かって来たのだ。その結果、暴食は自身の攻撃を自分で受けることになった。
予想外の出来事に対応できなかった暴食が地面を転がる。
「{ぐおおおおおお……!?}」
「{あれぇ~!? なーんでぇ!?♡}」
「{まさか……暴食の異能を脳に接続したのか……!?}」
「{暴食が肉体を乗っ取ったと同時に異能が脳に染み付いたんだろ……異能ってのは精神と肉体の狭間にあっからなァ……}」
凪沙の瞳と髪はそれを象徴するように、オレンジと黒が混ざり合っていた。
痛みが退いてきた暴食がヨロヨロと立ち上がった。
「{バカな……! 俺の異能が……吸収されたのか……!?}」
理解が追い付かない暴食と驚いている大罪たち。そんな彼らを他所に、凪沙は絞り出すような声で叫んだ。
「もう分かった……! お前らがボクから離れないなら……産まれながらに背負った大罪……消せないのなら、ボクが飼いならしてやる!」
「{いい御身分だなぁお前。お前みたいな軟弱が俺らを飼いならすだとぉ? 寝言言ってんじゃねぇよ}」
「どうせボクは組織からも危険分子扱いなんだ……それなら、お前らを扱いきって、危険じゃないことを証明してやる!」
凪沙は叫んだ。
大罪たちは嘲るようにほくそ笑んだり困惑したりとリアクションは様々だったが、不思議にも異を唱える者はいなかった。
そしてその直後、目の前は神々しい白い光に包まれ、まるで微睡むように視界から大罪たちは見えなくなっていった……。
■続く。
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第10話{}




