第10話{凪沙と7人のサリギア②}
{胎罪キャラクター資料}
─────恵崎幽里{前作『骨の髄まで曖<アイ>してる。』で初登場。組織内で〝奇跡の4人衆〟に数えられている。組織能力研究班の班長を務めている。組織随一の防御力を誇り、その耐久度から〝不沈艦〟の異名を持っている。}
「それで? 結局凪沙はS.E.I.Dに認められたってことでいいんですか?」
「一応ね。楚楚先輩が言うには『上層部が焦るほどの深刻な危険性はない。凪沙本人の力で管理されているうちは危険性は認められない』とのことだね」
「なるほど……そうなると、上層部がどうして凪沙君をそこまで危険視するのかが、少し分からなくなりますね……」
緋ノ咲高校パソコン室に集まった伍代、四ノ宮、莉妃斗。
凪沙の今後の状況について莉妃斗から伝えられたのち、緋ノ咲支部でどう扱っていくかについての会議が行われていた。
「ちなみに凪沙は今どこにいるんです?」
「今はセンターFで適切な戦闘訓練を受けてるよ。順調にいけば一週間で戻って来るんじゃないかな?」
「ありがとうございますボス。何から何まで」
「いいんだよぉ伍代君。それよりシノちゃ~ん! この後空いてる~? 一緒にお夕飯でもどうかな~?」
「主文後回し。無期懲役」
「ひぃーん……」
そんな風に会議を進めていた時の事だった。
奥から数人の女性の話し声が聞こえたかと思うと、ドアが開かれた。
ドアの奥には白衣を着た黄色いツインテールの女と紺色のツインテールをした女が立っていた。その雰囲気は、先に来たことのある氷室すずや楚楚などとは違った強者のオーラをまとっていた。
その2人の顔を見た莉妃斗が真っ先に反応した。
「お前は……! セッターとラーク!」
「久しぶりね~ボス! 元気してた~?」
「何しに来たんだよお前ら? 僕たちに何の用なんだ?」
「忠告に来たのよ。ね? ラーク」
「はい。これは次世代派の私たちからの忠告です」
「次世代……?」
四ノ宮が首を傾げると、セッターの指示でラークがタブレット端末を取り出し、現在の組織体制について話し始めた。
「現在S.E.I.D本部では、組織を取り仕切っている〝旧世代〟と、新しい組織体制を唱える〝次世代〟による内部抗争が勃発しています」
「内部抗争……!? そんなの聞いてないわよ!」
「当然です。上層部はひた隠しにしていますからね」
「どうしてそのようなことに……?」
「キッカケはやはり……例の大罪の異能力者でした」
「……凪沙君のことか」
「はい。彼を抹殺するか否かを巡ってS.E.I.D最高司令官・ビッグヴォイスと、次世代派の中級構成員・マリカが衝突したんです」
「マリカ……」
「ボス、知ってる人なんですか?」
「僕の後輩だよ。生意気だけど、組織を発展させようと尽力してた可愛い子だよ。まさかビッグヴォイスと直談判してたなんてな……」
ビッグヴォイス。
現在【特定事象研究部:S.E.I.D】を率いている最高司令官で、政界、財界、芸能界、果ては裏社会まで様々な人間と関りを持っている超のつくフィクサー。黒い噂も付きまとっている人物だが、彼の人物像や能力などは謎に包まれている。
そんなビッグヴォイスに直談判を申し込んだのが、マリカという中級構成員。莉妃斗とはコードネームが与えられる前からの関係であり、互いに波長が合い、切磋琢磨していたという。
「それで……彼女はどうなったんだ……?」
莉妃斗はラークに訊ねた。するとラークとセッターは悲し気な表情を浮かべ、莉妃斗に一言挟んだうえで彼女の消息を答えた。
「マリカさんは……|もうこの世にはいないん《非公開処刑された》です」
「…………は?」
「え……?」
「嘘だろ……処刑したのか……!?」
それを聞いた瞬間、3人の表情は凍り付いた。
「……それは、本当の話か?」
「ここに来て冗談を言いに来るわけないでしょ」
「上層部はこの一件を単なる離反行動と処理した上で、今後は大罪の異能力者を含めた次世代派、あるいは上層部の思想と相反する構成員を非公開に粛清対象にするかもしれません」
「あのオッサンたち、若い子の考え嫌いだもんね─────。マジムカツク~」
セッターとラークは苦い顔をしてそう言った。
その話を聞いた3人も、同じように怒りに満ちた顔をしていた。特に莉妃斗が浮かべていた怒りの表情は、思わず伍代たちも戦慄するほどだった。
「あの老耄どもが……あんだけビビり散らかして処刑を見送ったかと思っていたのに結局殺すんじゃねぇか……! しかも関係ない若い構成員まで殺しやがったのか……! 絶対許さねぇ……臓物引き摺り出してグチャグチャにしてそいつらの顔面に積み上げてやる……!」
その呪詛は、大事にしている凪沙を含めた若い世代を迫害した上層部に対する全身全霊の憎悪が込められていた。
「セッター……ラーク……お前らは味方か?」
「えぇ。敵だったらその場で殺してるしね」
「そうか。君たちが見方で居てくれるなら心強い。僕は若い世代が苦しむのだけは見ていられないんだ。そのジジイどもが手ェ出すなら……僕が殺るわ」
「私たちの異能であれば、多少の混乱は起こせるかと思います」
「でもさ────ぁ、まずは大罪の異能力者を先に保護する方が大事くね? 彼の異能によるエネルギー転用は凄いよ。国動かしちゃうもん」
セッターとラークは莉妃斗たちに協力する姿勢を見せた。それを聞いた莉妃斗は安心したように表情を和らげると、そっと手を出し握手を求めた。ラークがそれに対応し、緋ノ咲支部も次世代派に加わった。
「そう言えば、お2人はどのような能力をお持ちなのでしょうか?」
伍代が2人の異能について訊ねると、2人は自分の能力について説明した。
セッターの異能力は「傀儡」。自身の指定した他の人間の意識を一時的に支配し、意のままに操るというもの。
ラークの異能は「錯綜」で、高出力の怪電波を発生させることで施設やその設備に大ダメージを与えることに特化している。セッターが洗脳特化なのに対し、ラークの異能は設備破壊特化の異能である。
「それで? セッター、ラーク。僕たちは何をすればいい?」
「私たちから言えることは、大罪の異能力者にはこの事実はまだ伝えないで下さい」
「保護の準備が整ってからってのと、情報漏洩防止だよ~」
「凪沙君の護衛には僕がつこう。僕も責任があるからね」
「ボス……大丈夫なの?」
「大丈夫っしょ。僕がアイツかに負けるかっての……」
その時の莉妃斗の目は、これまで見たことのないような気迫を帯びたものだった。
◆◆◆
────────S.E.I.D本部 センターF
その頃凪沙は、S.E.I.D本部にある訓練施設・センターFに来ていた。そこには訓練相手としてS.E.I.Dの幹部にして〝奇跡の4人衆〟の一人であり〝不沈艦〟の異名を持っている・恵崎幽里もいた。
「今日から君をみっちり鍛えてやる指導員の恵崎だ。よろしくな」
「よろしくお願いします! 㐂堂凪沙です!」
「聞いてるよ。君、大罪の異能力者なんだって?」
「え、えぇ……まぁそんな風に言われてます……」
「上層部が恐れてるとか何とか、幹部陣じゃ有名だよ。どれ、君の強さ、見せてもらおうかな」
「そう言っても……ボク単体ではクソザコですよ……」
「そうりゃあそうだよ。だから、今回はこれをさずけよう」
そう言って恵崎が凪沙に差し出したのは、黒い鞘に収められた日本刀だった。
生れてはじめて日本刀を手にした重みもあり、凪沙は狼狽の声を上げた。
「え……? こ、これって本物ですか……?」
「うんホンモノだよ」
「か、刀なんてそんな! それに、ボクは武器持ってて、恵崎さんは素手じゃないですか! そんなのフェアじゃないですよ……!」
そんな凪沙の声を聞いた恵崎は……なんと豪快に笑っていた。
さらに戸惑う凪沙。恵崎は両手を広げて構えると、笑みを浮かべて自信高らかにこう言い放った。
「安心しな。俺は〝不沈艦〟だぜ? 100%死なないから、殺すつもりでかかってきな」
「そ、そんなこと言われても……」
「大丈夫だって。さぁ、俺を喰ってみろ。凪沙」
恵崎が含み笑いを浮かべて言い放った「喰ってみろ」という言葉。その言葉を聞いた瞬間、凪沙の脳内はまるで燃え上るような熱を帯びていく。そしてこれまで特定事象との戦いで感じていた、あの内側から何かが噛み付いてくるような刺激に、凪沙は一変し、気が付いたら施設が揺さぶられるような凄まじい踏み込みで恵崎にスタートを切っていた。
「{コイツ俺を舐めてるな……嚙み殺してやる……!}」
頭の中で、そう聞こえた。
そして次の瞬間、誰に教わることなく凪沙が刀を振るった。
─────「 『解錠』! {暴食}!」
そして何の躊躇もなく異能を解放した。
恵崎は初めて見る凪沙の気迫にバチバチとした刺激を感じていた。
「いいじゃんいいじゃん……! これが大罪の異能力者……!」
そして恵崎も、それに呼応するように異能発動の構えを作った。
─────「 『解錠』! {防御}!」
刃と異能の盾が激しくぶつかり合い、嫌な音を立てていた。
凪沙の目はまるで獲物を捕らえた獣のように鋭かった。一方恵崎の方は余裕の表情で盾を展開している。
「センターFは頑丈に作られている。多少の爆破くらいの攻撃じゃあ無傷だ。好きなだけ暴れな」
「{お前を……喰らい尽くす!!!}」
暴食の異能による影響で、凪沙の振るう刃の速度はまるで竜巻。その飢えた銀閃を次々に弾いていく恵崎。さすが〝不沈艦〟の異名なだけあり、何度刃を受けても眉ひとつ動かす素振りはない。
そして何度か刃を振るっていた時だった……。
「はっ……!?」
「ん?」
突然凪沙の振るう刃が勢いを落とした。そして目の色もいつもの凪沙に戻り、その場に膝をついた。息切れのように呼吸を荒げながら、瞳孔がカッと開いている。
それを見て恵崎は冷静に凪沙の状況を分析していた。
(何の前触れもない体力のブースト……そして彼のものではない声……そうか)
恵崎は凪沙の元に水筒を持って歩み寄った。
「ほら。これで息整えな。大丈夫か?」
「す……すみません。まだ異能力を飼い慣らせてなくて……」
「仕方ねぇさ。脳回路不調が起きてーら」
「脳回路不調……?」
「異能力が開花したばかりの人間や、身体と釣り合ってない出力を出した時に起きる一時的なエラーだ。酸欠とか貧血みたいなもんだ。心配すんな」
「そうですか……まだまだですね……」
「いや。使い方次第では充分化ける。こっから慣らしてこう」
「は……はい!」
「さて……今日はこの辺で終わりだ」
「え? あ……はい」
「見たいものは見れた。それに合わせて訓練メニューを組んでくな。今日はゆっくり休め。特に、脳をな」
そう言って、恵崎は訓練施設を後にした。
「あ、その刀はあげるよ。何かあったら使って」
◆◆◆
────────S.E.I.D本部 廊下
「凪沙の異能力は危険だが力になるなぁ……どうすっかーぁな……」
恵崎は廊下を歩きながら訓練メニューを歩いていた。途中にある自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながら、隣にあるセンターGに向かう所だった。
その道中、彼の背後に一人の男がやって来た。
「恵崎ぃ……あの少年の話を聞かしてくれやァ」
「誰かと思ったら染谷さんですか……少年って凪沙君のことですか?」
「そやァ……金ならナンボでもある。ナンボで売ってくれるン?」
現れたのは茶色いワイシャツに血塗られたような真っ赤な羽織を着て、顔の左半分が焼け爛れてケロイド状になっている痛々しい出で立ちの老いた男。
「ナンボ出されても売りませんよ。てか何食ったんですか? 口臭ぇぞ」
「口の利き方がなっとらんなァ……それが先人に対する接し方なんか? 研修員時代に何学んでン?」
この男の名前は染谷雪乃丞。
S.E.I.D上層部に所属する旧世代派の人間で、傷だらけの長ドスを得物に戦う組織内でも五指に入る強さを持つ男である。
元関西支部から推薦で関東本部に入った人間であり、播磨弁を使っている。
「恵崎ィ……ワシらに恩義を感じとんのならぁ……組織のために情報ォ入れてくれてもええやろ?」
「嫌ですね。これは我々が扱ってる問題なので」
「若ェ奴らの問題はワシらの問題でもあるんちゃうんか? そうやろ? ワレもワシになんべんも教えてもろたやんけェ……」
「それとこれとは無関係です。それに染谷さん、聞きましたよ? ビッグヴォイスの件を……」
「あのお方の選択は英断やろがい……ワシはあのお方には忠誠を誓うとるんや……あのお方に盾つけが、ワシも敵に回すことになるど……?」
「いいっすよ。世代交代ですね。その代わり今日が寿命になりますよ……?」
「へッ……若造が気取りくさって……まぁええ受けて立と。その鼻っ面、へし折っちゃるで……」
■続く。
次回
第11話{滑稽な話だ}




