第7話{あらまき通り◆前編}
{胎罪キャラクター資料}
─────伍代諌{S.E.I.Dが認める異能力者の最高傑作。巧みな体術と異能力の併用により多くの実績を持っているが、本人は現体制に不満を持っている。凪沙とは初対面から波長が合ったようで、関係が良好である。}
「お疲れ様です……」
放課後になった頃。緋ノ咲高校パソコン室に凪沙がやって来た。
「お疲れって……アンタか……」
中には四ノ宮ひまわりがいた。パソコンを見つめながら、頬杖をついている。
凪沙は会釈しながら教室に入って行き、適当な席に座った。ただ何か話すということもなく、そのまま沈黙が続いていた。
「……本部とはどうなったの?」
「え?」
「昨日、ボスと本部に行って来たんでしょ? 何か言われたの?」
四ノ宮はパソコンを見つめたまま、昨日の凪沙と莉妃斗がS.E.I.D本部に行って来た時の話を訊ねた。凪沙はその時の話を簡潔に四ノ宮に話した。
「ふーん。つまり、今後は組織の人間って扱いになるのね?」
「そう言うこと……らしいです」
「ふーん……大罪の異能力者が、組織に認められるなんてね……どういう狙いがあるのかしら」
「最初こそ反対してました。死刑にするべきだって……でも、ボクは誰かを助けられる人間になりたいから。ボクの力で、誰かを助けられないかなって……」
この言葉を聞いた時、四ノ宮の目の色が変わった。
「は……?」
そしてキーボードを叩く手を止め、首だけを凪沙の方へ向けた。
彼女の表情を見た凪沙は、鋭い気迫に緊張が走った。
「アンタの力で……人を助ける……?」
「え、え……?」
「冗談でしょ?」
凪沙が言葉を発しようとした瞬間、それを遮るように四ノ宮が右手にガベルを持つと、空間を勢いよく打ち付けた。何もない空を打ったものの、ガンガンガンと大きな音が部室中を走り抜けた。
「ふざけないで!」
「え…………!?」
凪沙は何を言われているのか理解できなかった。
「組織が認めても……私は認めないわよ! この前の任務なんてひどかったじゃない! アンタは記憶にないみたいだけど……多くの建物を壊したのよ! 私たちの目的は被害を最小限に抑えて特定事象を浄化すること! 好き勝手暴れていいわけじゃないのよ!」
「そ、それは分かってるんです! ボクもそんなつもりはないんです!」
「うるさい! 認めない……それで私たちの評判が下がったらどうする気なの? どう責任取るって言うの!?」
「そ……それは……」
四ノ宮の言葉が鋭く凪沙の心を刺してくる。四ノ宮と手を取り合うのは無理なのだろうか。そう思うと凪沙はどうしても自分の力を恨まずにはいられなかった。
「アンタみたいな有罪が……気安く緋ノ咲支部を名乗らないで」
「し……四ノ宮さん……」
今にも泣き出しそうな凪沙。
嫌悪の視線で睨みつける四ノ宮。重い空気が広がっていた。
「四ノ宮君。どうしてそんなに彼をイジメるんだい?」
「ご……伍代君」
「ドアの奥まで聞こえたよ。もう……どうしてそうなっちゃうのかなぁ」
ドアを開けて入って来たのは伍代諫。入るなり凪沙に厳しい表情を向ける四ノ宮を見て溜め息を吐いていた。
また、右手にはなぜか、某ゲームに出てくるようなハンマーを持っていた。
「伍代君、そのハンマー何なの? 軽犯罪法の現行犯よ」
「そうじゃない。これは校内でボスから渡されたんだ。あらまき通りで中級の特定事象が発生したから、現場に向かってくれって」
「はぁ……もしかして凪沙も一緒ぉ?」
「そうだね。凪沙君。ボスが君にこれ持っててって」
伍代は凪沙に持っていたハンマーを手渡した。ハンマーは片手で持つのもやっとな重量で、まだ非力な凪沙ではそこそこ力を要する様子だった。
そんな凪沙を横目に、四ノ宮は伍代に特定事象について訊ねた。
「あらまき通りって……確か今日から3日間は感謝祭で歩行者天国になってるはずでしょ……!? そんな中で特定事象を浄化しろっての!?」
「歩行者天国だからこそ特定事象が発生するんだよ。理由はともあれ、完全顕現したら街中に被害が及ぶ。行こう!」
「はぁ……凪沙! 死んでも骨は拾わないわよ」
「うぅ……そんな……」
「俺が拾うよ。さぁ行こう!」
(そこは『死なないで』って言って欲しいのに……)
そして凪沙たちは、緋ノ咲街にあるあらまき通りへと向かった。
────────緋ノ咲街 あらまき通り
あらまき通りでは、今日から3日間に渡って行われている歩行者天国で大勢の人が賑わっていた。ここは多くの店が立ち並んでいる商店街のようなところで、この時期になると全ての店に感謝を込めた感謝祭が行われる。普段なら車通りも多いこの付近も、この日は人だけが行き交っている。
「ここで特定事象が……? とても起こりそうには見えないんだけど……」
「そう思うかもしれない。だが堂島さんの報告だ。彼女が言うなら何かが起きる」
「こんなに人が多いところで……勘弁してほしいわ」
「たくさん人がいますね」
3人は歩行者天国の入り口の前に立ち、行き交う大勢の人を眺めていた。普通に眺めている限りでは、特定事象が発生するような気配は感じない。だが組織から報告があった以上、何もないとは限らない。
四ノ宮たちは警戒しながら、人混みの中を巡回することに決めた。
(こんな状況下で特定事象との戦闘とか……私はイヤよ!)
(ど……どこにいるんだろう……)
(特定事象……本部からは中級と聞いているからな……警戒しよう)
しかし30分近く見回るものの、何かが起こる気配は微塵もない。
「もしかして……」
「来るの、早すぎたんじゃないの?」
「そうかもしれないね……」
「なーにやってんのよ伍代君!」
「ごめん……! でも何かあってからよりはいいだろう?」
「まぁ、善は急げって言うし? 文句は言わないけど」
「それに、今から作戦を立てるのもいいんじゃないかな……」
伍代がそう言った直後の事だった。
「テメェら全員ぶっ殺してやるよぉぉぉ!」
「何!?」
なんと人混みの中から荒々しい声と共に群衆の悲鳴が街中に響き渡った。
声のする方に3人が向かうと、そこには両手指を複雑に組んで特徴的な印を結んでいる茶髪セミロングの青年がいた。
「呑気に生きやがって……! 死ってのは不意打ちでやって来るんだよ!」
その男の目は、まるで何かが取り憑いているかのように生気のなく、濁った色をしていた。そして男の足元からは、禍々しく光る赤黒い何かが生きているように動き始めている。
その男の表情を見た伍代は、瞬時に判断した。
「まさか……この男が特定事象!?」
「そんなわけないでしょ!? 特定事象が一般人に影響するなんてあり得ない!」
四ノ宮は想定にない出来事に狼狽の声を上げる。
だが伍代は、目の前の光景を冷静に読み取っていた。
「確かにあり得ないことだ……でも目の前で起きている以上、事実として何とかするしかない。取り敢えず浄化に当たろう! 一般人に被害が出る前に!」
伍代は男に向かって全速力でスタートを切った。
「あぁもう! 仕方ないわね!」
四ノ宮も遅れまいと伍代の後に続いた。
「ぼ、ボクは……」
「アンタは邪魔だけはしないで!」
「は……はい……!」
まだ怯えて動けない凪沙に声を上げた四ノ宮は、セーラー服からガベルを取り出し、空中に向けて打ち鳴らした。
─────「 『解錠』! {錯覚}!」
伍代の異能力が発動する。
彼の異能力は、自身及び指定した任意の物体や異能力を相手の認識とことなった形で映し出し、認識を遅らせるというもの。相手の脳の大脳皮質に直接作用させるものなため、効果は期待できる。
「ンぐっ……!? 何だ……目の前が歪んで見える……」
「何フラついてんのよ……? しゃんとしなさいよ」
脳に影響が出て行動が鈍くなったところを、四ノ宮の異能力が刺さる。
─────「 『解錠』! {処罰}!」
四ノ宮の振るったガベルが、男の脳天に向かって真っ直ぐに降ろされた。
─────「{執行}!」
四ノ宮が叫ぶ。彼女の異能発動の合図だった。
だが男は高出力の攻撃を受けてもなお、倒れることはなかった。
そればかりか腰から棒状の何かを引き抜き、四ノ宮に向けて袈裟に振り上げて来た。
「危っ……!」
四ノ宮はすんでのところで攻撃を回避した。
男は四ノ宮を見てニヤリと口角を上げている。
「みんな幸せそうに生きやがってなぁ? 危機感のねぇ凡人共が」
「自分の人生が上手くいかなかったからって、他人を妬んでんじゃないわよ」
「俺は今腹ァ減ってんだよ……成功者が落ちぶれてるところを見ながらたらふく飯が食いてえんだよ……!」
「……他人の不幸は蜜の味、ってことね」
「殺してやる……! 殺してやるよ異能力者ァァァ!」
男は狂ったように叫ぶと、再び棒状のものを四ノ宮に向けて振りかぶった。だが四ノ宮も伊達に戦闘に出ているわけじゃない。冷静に男の振るう軌道を読んでいた。
「死ねぇ!」
「たあっ!」
男の武器と四ノ宮のガベルがぶつかり合い、力の押し合いになる。
四ノ宮はようやく姿を捕らえた男の武器に目を見開いた。
「ちょっ……! それマチェーテ!? どっから持って来たのよ!?」
「準備して……貰ったんだよ!」
男が武器として使っていたものは、マチェーテという中南米などで発展した大型の鉈。本来はサバイバルなどのアウトドア用の刃物だが、無論、街中で振り回したり人に向けるのはアウトだ。
男の腕力に押され始める四ノ宮。切っ先は彼女の眉間に近付いてくる。
だが、四ノ宮も口角を上げた。
「よし。選手交代ね!」
「なにィ……!?」
男は後ろを振り返る。
「おい君……俺を忘れないでくれよ」
「な……っ! しまった!」
男は背後に現れた伍代に慌てふためく。
すぐさまマチェーテを伍代に振りかぶり、伍代の身体を真っ二つに両断した……
つもりだった……。
「何をしているんだい?」
「ヒェッ!?」
「そこに俺はいないよ?」
男は、なす術がなかった。
「四ノ宮君!」
「あいよ!」
四ノ宮がガベルを振り上げる。
─────「{執行}!」
男の脳天に振り下ろされたガベルは、鈍い音を立てた。
そして男は、そのまま力なく膝から崩れ落ちた。
こうして特定事象は無事浄化したように思えた。
だが、倒れた男を見ている2人の表情は険しいまま。
「四ノ宮君……」
「えぇ。そうね……」
2人は顔を見合わせていた。
「普通の特定事象であれば……焦げた匂いと共に、輪郭の瓦解が起きるはずだ」
「それが観測されない。ということは……」
「そういうことになるね……」
戦いは確かに終わった。
だが特定事象は、まだ浄化されていなかったのだった。
■続く。
次回
第8話{あらまき通り◆後編}




