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第6話{罪人としての覚悟}

{胎罪裏設定資料}


─────【特定事象研究部:S.E.I.D】は日本と一部アジアに組織を持っています。本部は静岡にあります。特定事象と同じ現象は日本以外でもありますが、組織単位で対処しているのは日本だけです。

────────静岡県 ■■市 S.E.I.D(セイド)地下会議室


エレベーターを降りて行って、地下13階。

壁一面に怪し気に発光しているガラスパイプ。その中で行ったり来たりしている気泡。天井には配線が何本も繋がり、どこかでファンが回る駆動音が聞こえる。


「随分と急な呼び出しですね」

「あぁ。業務が重なっている時によく来てくれた。ボス」

「話とは何でしょう……?」

「前から話題になっているように……そこの㐂しちどう凪沙なぎさに関する話だ」

「……なるほど(こりゃあ嫌な話になりそうだぜ……)」


会議室には凪沙と莉妃斗以外に4人、S.E.I.Dの上層部の人間がいた。全員動物の覆面によって顔が隠されていたが、その声色や態度、そして莉妃斗りひとの「保守派」という発言から察するに、高齢の人間で構成されているのだろう。


「今回来てもらったのは㐂堂凪沙の異能力に関する話だ」


左側に座っているライオンの仮面を被った男の言葉が言った。


「㐂堂凪沙の異能力は人類の根源的大罪に起因している。そして特定事象は人類の罪と負のエネルギーを発生原因としている。特定事象に脅かされている人類にとって危険な存在となるだろう」


隣に座っていたキツネの仮面を被った男が資料を読みながら言った。


「ちょっと待ってください。特定事象とくていじしょうは凪沙君だけが発生要因とは限らないでしょう? それなのに非公開処分はやや早計かと」

「まだ我々の話は終わっていない」


豚の仮面を被った男が莉妃斗の言葉を遮った。彼は高級めいた腕時計やネックレスを着けており、他のメンバーに比べて肥えている様子だった。


「これは我々の科学力で調査済みだ。㐂堂の異能力は特定事象の禍災化かさいかを刺激するものとして結論付けられた。我々は異能力者側としているが、同じ異能力者でも平和に害をもたらすのであればそうもいかない」

「だからと言って! 簡単に組織()()()の都合で命を奪うだなんて出来ませんよ! それに彼はまだ子供でしょうが!」

「黙れ。もしもの場合があったときに責任を取れんだろう?」


莉妃斗は何とか凪沙の処分を回避させようと説得したが、上層部の人間たちは聞く耳を持たなかった。


(このクソジジイども……未来ある若い芽を摘もうとしやがって……! このまま暴動あばれてやろうかコラ……!)


莉妃斗は上層部の意見に怒りが込み上げるも、不利になることを恐れて腹の中に収めることに努めた。握った拳が、ジンジンと熱を帯びていくのが分かる。

凪沙も自分の人生を目の前の知らない大人に決められていることに違和感を覚えていた。このまま、自分は処分されてしまうのか、と……。


「上層部……何とか出来ないんですか……? 何のために科学技術班が組織されているんですか……?」

「あの班か……もちろん研究に携わったさ。だが、あの科学力はダメだ。使い物にならん。資料が痩せている」

「いずれにせよこの少年はこの世に放っていては危険だ。早急に対処しなければいけない。ボス、お前も腹を括れ」

「そうだ。大罪の異能力者だ。()()()だと思って受け入れろ」


その言葉を聞いた直後のことだった。


「あぁ?」


凪沙の心の中の、何かが砕けた。


それに気が付いた莉妃斗や上層部の人間は一斉に凪沙に視線を向けた。

凪沙の表情は先程までのおどおどしていた様子とは打って変わり、豪華の炎の如く深紅に染まった瞳で上層部を睨みつけていた。


「な……凪沙君……?」

「何言ってんだか分かんねぇけどさぁ……大罪だの死刑だのうっせーんだよ」

「ど、どうしたんだ……!?」


予想だにしていない状況に焦りを隠せない莉妃斗。凪沙はジッと上層部のメンバーが座っている席に目線を向けながら、赤黒く禍々《まがまが》しいオーラを身にまといながら彼らに歩み寄って行った。


「そんなに殺したいんならよぉ……今この場で殺してくれよ?」

「な……何を言うんだ㐂堂……!」

「す、すぐにE:SAU(イーサユー)を呼べ……!」


ちなみに「E:SAU」とはSEIDが抱えている特殊部隊「緊急制圧機動部隊」のことを指している。陸上戦に特化した特殊部隊である。


「おっと動くな。動いたらお前ら4人はここで消す。ボクの身体から()()()()()()()()()()()な……」


空気が震えるほどの気迫と殺気。これに完全に怖気づいた上層部は言われた通りにその場に固まった。この時上層部はこう思っていた「逆らったら死ぬ」と。


「凪沙君……! どうしちゃったんだ!? 君は……本当に凪沙君なのか!?」


莉妃斗は必死に凪沙に声をかけ続けた。

その言葉に凪沙は莉妃斗の方に視線を向けると、指と指を絡め合わせて独特な形の印を結び、それを天井に掲げた。

何をしているのかと見ていた莉妃斗。その次の瞬間だった。


─────「 『解錠アンロック』! {憤怒イラ}!」


なんと凪沙は、この地下内で異能力を使おうとしたのだ。

これには莉妃斗も言葉によって止められるものじゃないと反応した。


「凪沙君! それ以上はよせ!」


莉妃斗は腰に手を伸ばすと、瞬時にベルトに着けていたホルスターから拳銃を抜いた。そして今にも異能力を発動しようとしている凪沙のこめかみに照準を定め、躊躇なく発砲した。


「────!?」

「凪沙君! 正気に戻るんだ!」


なお莉妃斗が凪沙に向けて使用した弾丸はゴム弾。警察や法執行機関が暴動鎮圧や対獣用として使用している非致死性兵器ひちしせいへいきである。


「……すみません。莉妃斗さん」

「全く……! ここで暴れたら死刑になっちゃうだろ!」


莉妃斗は声を荒げた。銃口から硝煙が、か細く虚空を彷徨さまよっていた。


「……これで理解した。やはり、死刑にするべきだ!」

「そうだ……! この規模が町中に放たれては壊滅する!」

「死刑だ! 死刑にするべきだ!」


だが莉妃斗が危惧していた通り、上層部はこの一幕で凪沙の処分を確固なものにし、次々に講義の声を上げた。

だがそれに対して意見したのは、なんと凪沙本人だった。


「確かに、ボクの中にある異能力は危険なものです。自分でもよく分かりました。でも、まだ死にたくはない……! この力で、何か出来ることがあると思うんです! 今のことだって、あなたたちを傷つけたくてあぁなったんじゃ……ないんです!」


凪沙の周りから殺気が消えていく。

そして深々と頭を下げると、上層部の人間に対して叫んだ。


「ボクは……! まだ死にたくないんだ! だから……! この異能力で特定事象と戦う! だから……もう少しだけ時間をください!!!」


その叫びは、命乞いと自分の運命を左右する特定事象と異能力そのものに対する悔しさが込められていた。罪人であることの痛み、そして罪人としての覚悟が、そこに強く籠っていた。


「な……凪沙君……」

「ボクはこの罪を背負って! これからの罪と向き合い、闘います!」


凪沙の心からの叫びに、上層部の人間たちは顔を見合わせた。彼らには怯えていた凪沙と、自分たちを攻撃してきた凪沙のギャップに戸惑っている様子だった。

しばしの話し合いの末、上層部の人間たちは凪沙にこう告げた。


「……分かった。その代わり単独行動は禁ずる。そして君には自分の異能力をコントロールするための訓練を受けてもらう」

「は……はい!」

「それからボス。お前には監督責任がある。凪沙による異能力災害で万が一のことがあったら……分かるな?」

「はいはい。最初からそのつもりですよ」


こうして上層部とのやり取りは終わった。


◆◆◆


帰りの道中、莉妃斗は凪沙に謝りながら声をかけた。


「凪沙君……これでよかったのかい?」

「えぇ……これでいいんです。おかげで生きる理由が出来ました」


そう言ってた凪沙の表情は、どこか身軽になったかのように柔らかかった。

莉妃斗は凪沙の横顔を眺めながら、複雑な思いを胸に秘めていた。


(クソが……まだ若い凪沙君に十字架背負わせやがって……絶ッ対許さねぇぞあの上層部クソジジイどもが……! あのジジイどもは……僕が作り変えてやる……!)


夕暮れが終わっていく。夜になっていく。

ポケットの中で震えたスマートフォン。伍代からの着信に応えながら、二人は夜になっていく緋ノ咲街(ひのさきがい)を歩いて行った。




■続く。

次回


第7話{あらまき通り◆前編}

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