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第2話{ボクを死刑にしてください}

{胎罪裏設定資料}


─────異能力は確実に脳に大きな影響を与えています。なので能力者の趣味嗜好がそのまま異能に影響される場合もあります。

「……こ、ここは……?」


頭の中にあるモヤモヤが晴れないまま、少年は目を醒ました。

冷たい灰色のコンクリ製の壁に囲まれた部屋。天井には換気扇と小さい窓が三つ。そして何台もの監視カメラがこちらを睨むように設置されている。


「はっ……! ここは!?」


身体を動かそうとするも、手足は椅子に鎖で縛られていた。足元を見ると椅子の脚にも重たい鉄球が取りつけられており、自分の意思ではここから出ることは不可能であると瞬時に理解させられた。


「目が醒めたかい?」


ここから出る方法を考えていた時、扉の奥から声が聞こえた。


「だ……誰ですか……?」

「君は今、超常災害対策規定ちょうじょうさいがいたいさくきていに基づき、厳重な管理の元で拘束させてもらった。君に敵意がないことを確認次第、職員のものと面談を行う」


何やら難しいことを話している。

少年の頭の中はさらに「(はてな)」が浮かぶこととなった。

ここはどこなんだ?

一体何をしようとしているんだ?

自分はこれからどうなってしまうんだ?


数分後、警告音のようなものが部屋に鳴り響くとともに扉が開かれ、銃を構えた兵士を連れた1人の白衣を着た男が部屋に入って来た。


「安全確認」

「これより面談を行う。よろしくお願いします。ボス」

「りょーかい。じゃ、さがれ」


男が合図すると、兵士は銃を降ろしながら部屋から下がっていった。そしてゆっくりと扉はしまり、少年は男と二人きりになった。


「やぁ。元気かい? 㐂しちどう凪沙なぎさ君」

「え……? な、何で……」


初対面なのにも関わらず、非常にフレンドリーというか馴れ馴れしい。

いや、そんなことよりもなぜ自分の名前を知っているのか?それが何よりも恐ろしく、今一番の謎だった。


「何で名前を知ってるのか、気になるよね?」

「は……ハイ……」

「そりゃ~だって、君は僕たちS.E.I.D(セイド)にとってに重要な人材であり、同時に危険視している存在でもあるからね」

「危険視……? セイド……?」

「あ~そこからだったねっ。じゃあその説明を兼ねた自己紹介からだなっ」


男は持ってきていたパイプ椅子を開くと、凪沙の前に椅子を置いて座り、自己紹介を始めた。


「初めまして。【特定事象研究部とくていじしょうけんきゅうぶS.E.I.D(セイド)】の職員・ボスだ」

「ボス……ってことは、ここの一番偉い人ですか?」

「あ~違う違う! 紛らわしいよねこのコードネーム。僕は偉くも何ともないよ。それじゃあ君には、本名の〝莉妃斗りひと〟って呼んでもらおっかな」

「あっ……はい。分かりました」


ボスこと・星川ほしかわ莉妃斗りひと

この世界で起きている様々な超常現象や原因不明の破壊現象である『特定事象』に対抗すべく組織された防衛団体【特定事象研究部:S.E.I.D】のメンバー。

黒色に青と黄色のメッシュが入った髪に緑色の瞳、黒のワイシャツと白衣に身を包んだ長身の好青年。


「次にS.E.I.D(ここ)がどんなところなのかについて、説明しよっか」


そういうと莉妃斗は凪沙の片手の拘束を解くと白衣のポケットに入れていたタブレットを手渡して解説を始めた。


「この世の中で起きる、様々な事件・事故などの現象。それらは、全て人智を越えた超常現象〝特定事象とくていじしょう〟が引き金になって引き起こされている。どんなに科学が進歩した現代でさえ、その全ては解明されていない。そんな特定事象に対抗するために、言わば〝毒を以て毒を制す〟って具合で組織されたのが、防衛団体【特定事象研究部:S.E.I.D】ってわけなのさ」

「毒を以て毒を制す……というのは……?」

「超常現象には超常現象で対抗するってこと。この世界には普通の人間にはない超能力を持っている人間が一定数存在している。その力で、特定事象に対抗するってことなのさ」

「なるほどですね……」


凪沙はタブレットを眺めながら説明に耳を傾けていた。資料にはこれまで特定事象が起こしてきた事件事故の概要や被害の報告、その度にS.E.I.Dがどのように対応して来たのか、組織がどのように進んできたのかが書かれていた。


「あの……どうして特定事象って発生するんですか?」


凪沙は気になったことを莉妃斗に訊ねた。


「いいところに目が付いたね。特定事象が発生する理由は、これまでは人間を発生源にして、ごくまれに歴史的資料や架空のモノ、概念とかから生まれると考えられていた。だが現在は、人類の根源的な罪と負のエネルギーによって形成されていることが分かったんだ」

「人類の……根源的な罪……?」

「そう。君も知っているであろう、七つの大罪のことだよ」


人類の歴史の中で積み重ねられた「傲慢ごうまん強欲ごうよく色欲しきよく嫉妬しっと暴食ぼうしょく憤怒ふんぬ怠惰たいだ」の七つの罪。これらを根源として、様々な派生を経ているのが現在の特定事象だと、莉妃斗は説明した。


「そして凪沙君……君がここで拘束されているのも、実は関係しているんだ」

「え……? ど、どういうことですか……?」

「昨日未明、静岡県緋ノ咲街(ひのさきがい)で発生した未登録の特定事象が発生したんだ。幸いにも死傷者は出なかったが、地区の6割が倒壊する大惨事となった。そして発生原因を調査した結果、君が原因であると分かったんだ」

「……え?」

「何が何だかって感じだよね。無理もない。君の中に眠っている根源的大罪の異能力が、今回の特定事象を引き起こしてしまったんだ」


莉妃斗が告げたことは、凪沙には理解し難いものだった。まだこの段階ではほとんど理解出来ていないというのに、まさか大災害の原因が自分自身にあるだなんて、簡単に受け入れられるわけがあるまい。

凪沙は、何も言うことが出来なかった。


「ちょ……ちょっと待ってください……ぼ、ボクがやったってことですか……?」

「そーいうことになるね」


凪沙はショックを受け、目の前が真っ白になった。手足はわなわなと震え、自分が引き起こしたことの重大さに五臓六腑が弾けてしまいそうな気持ちになった。

自分はとんでもないことをしてしまったのだ。まさか自分が原因で多くの人々の生活を脅かしたのだ。そうなれば、ここで拘束されているのも辻褄が合う。

いや、最早こうなる運命だと言うべきか……。


「……ボクの所為せいだ」

「それは違う」

「いや! ボクの所為だ! 僕が直接関わっていなくても! ボクの力でみんなを脅かしたのは紛いもない事実だ!」


莉妃斗は何も言えなかった。

凪沙は自分がどれだけのことをしてしまったかと悲しみ、大粒の涙を零した。


「ボクがいる限り……きっとこの先も特定事象は発生するんだ……ボクがいなくなれば、少しは平和になるのかな……?」

「……君がいなくなっても、特定事象は発生する。引き起こしたって言ったけど、正確には君によって刺激されたって感じだ。君が直接的な原因じゃない」

「それでも……ボクはこの責任に耐えられない……ボクを……殺して下さい……ボクを死刑にしてください!!!」


凪沙は涙ながらに訴えた。胸が張り裂けそうな思いだった。でも、ここで元凶の自分を消してくれるのなら、少しは気分も晴れるかもしれない。

しかし莉妃斗の答えは、凪沙の望むものではなかった。


「……悪いけど、僕の一存で君を死刑にすることは出来ない。でもこれだけは分かる。君が死刑になったとしても、今後も特定事象が発生する運命は変わらない。だからさ、どうだい? 君の力で、一緒に特定事象と戦ってみないかい?」

「特定事象と……戦う……?」

「そう。君の力は凶悪なものだけど、それと同時に、今後の特定事象との戦闘に大きく役立つ可能性もある。一種の罪滅ぼしにはなるんじゃないかな?」


莉妃斗は泣きじゃくる凪沙の前にしゃがみ、目線を合わせてそう言った。


「でも……戦い方なんて分からないし……ボクの所為で誰かが傷つくのは嫌なんです……死なせて下さい……!」

「でもさぁ、それでいいの?」

「え……?」

「仮に君にも罪があったとして、君が()()()()()()()()()()()()()、まだ知ってないでしょ?」

「まぁ……確かに……」

「だかさっ、どうせ死ぬつもりなら、人を助けてから死んでみないか? そして自分の罪を清算して、初めて裁きを受ける。その方がいいと思うな」


莉妃斗の言葉はまだ凪沙には難しかった。だが、凪沙に少しでも生きていける道を差し伸べていることは、彼にも分かった。


「罪を……清算する……?」

「自分自身を裁くのは、そっからでも遅くないと思うな」


凪沙は顔を上げた。莉妃斗は優しく微笑んでいた。

この瞬間、凪沙は少しだけ、生きてみようと希望を持った。




■続く。

次回


第3話{アンタなんか認めない!}

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