第1話{緊急禍災地区}
本作の世界観をより詳しく知りたいと言う方は、
カクヨムに掲載されている前日譚『骨の髄まで曖<アイ>してる。』
を先に読むことをおススメします。
2035年 7月 静岡県 某所─────────。
「ここから先は我々が対処するので! みなさんは逃げてくださいッス!」
「逃げ遅れている方がいましたら! 速やかに避難を促してください! まもなくここは緊急禍災地区に指定されます!」
恐怖に怯え、逃げ惑う人々を安全な場所へと誘導させる。
街の上空には人型の黒い物体が旋回している。その物体を2人の白衣を着た男たちが、眉をひそめながら眺めていた。
「恵崎さん……事前の情報は〝中級〟って聞いてたッスけど……」
「こりゃあ、通常の3倍デカいなぁ霊遠……」
現場にいるのは、秘密裏に活動している組織【特定事象研究部:S.E.I.D】に所属しているメンバー・恵崎幽里と一ノ瀬霊遠。
「いやどこの赤い彗星ッスか……真中さんに視てもらいましょうよ」
「確かになんかデカいもんな。真中に視て貰うか……真中!」
恵崎は片耳に装着したインカムに向かって大きな声で名前を叫んだ。
その呼び声に反応したのは、真中と呼ばれたすぐ後ろの高層ビル屋上に佇む白衣を着た女。赤い瞳に黒いポニーテールをし、腕には金色の腕輪を着けている。
彼女は腕をクロスさせて全神経を集中させると、口を開いて唱えた。
─────「 『解錠』! {察知}!」
そう叫んだ瞬間、視覚・聴覚・嗅覚・さらに脳内映像が鮮明に機能し始める。目の前に現れている人型の物体をジッと見つめていると、次第にその全貌が彼女の脳内に映り始める。
それと同時に真中の表情は、青冷めた。
「まずい……! 幽里君! 霊遠君! それは中級じゃない!」
真中は緊迫した声色で恵崎たちに叫んだ。
恵崎は真中のただではない声色から瞬時に緊急事態を察する。
「どうした真中! 何があった!?」
「あれは中級じゃないの!」
「何!? 階級は!?」
「階級は……ウソ……み、未登録……?」
「未登録だと!? 階級はついてないのか!?」
「分からない……! 待って……これ以上は頭が……」
「真中!? 真中!」
恵崎は真中に叫んだが、通信は遮断されてしまった。
こんなことになるとは誰も予想していなかった。恵崎は瞬時に考えを回し、霊遠に作戦を共有した。
「霊遠! ここは俺たちが出来ることをするぞ!」
「真中さんのことはどうするッスか!?」
「現場に近い楚楚を救援に回す! 行くぞ!」
「了解ッス……!」
2人は人型に向かって走り出した。
「楚楚! 真中がダウンした! 救援に向かってくれ!」
「恵崎さん……これ俺ら生きて帰れるッスかねぇ……?」
「それを訊くってことは……お前でもヤバいってことか」
「あはは……ちょっと今回は不安ッスね」
現場に到着した恵崎と霊遠。
人型の物体は禍々しい空気をまといながら街を跨いで移動する。身体から広がっている黒い霧状のものが、周りに並ぶ建物を無差別に破壊し続けていた。
「……俺が気を逸らす。お前が〝臓〟を狙って集中砲火。いいな?」
「了解ッス。やってみまッス」
恵崎の作戦の通りに、二手に分かれる。
彼らの動きに気付いた人型の物体はまずは恵崎の方を向いた。そして腕をゆっくりと彼に向けて伸ばすと、赤黒いグロテスクな光を放ち始めた。
─────「 『解錠』! {防御}!」
恵崎の異能が発動される。彼を中心に大きな黄緑色の結界が展開され、人型の物体が放った衝撃波を分散させている。しかしその重みを感じるほど、簡単に防げたものではなかった。
「霊遠! 今だやれ!」
恵崎が叫ぶと、霊遠が上空から両手の指を揃えて現れた。
─────「 『解錠』! {弾丸}!」
霊遠の指先が熱を帯びていく。
そして次の瞬間、街中に響き渡る轟音と共に、彼の指先から勢いよく鉛の雨が人型の物体に向かって降り注いだ。
「あばばばばばばばばァッ!」
その弾丸は人型の物体の後頭部にあるひし形の突起に命中した。
突起がガラスが割れるような鋭い音を立てて破壊される。
破壊された途端、人型の物体の活動は急激に勢いを落とし始めた。そして形容しがたい怪音を響かせた末に、倒れ込みながら消滅していった……。
「はぁ……はぁ……恵崎さん……大丈夫ッスか?」
「あぁ……〝浄化〟完了だな」
2人は人型の物体が倒れ込んだ範囲を警戒しつつ見て回った。周辺は暴れまわったことでほとんどの建物が倒壊してしまっていたが、逃げ遅れた人はいないように思えた。が、しかし……。
「ん……? アレは……」
恵崎はひび割れた交差点の真ん中に、一人誰かが倒れ込んでいるのを見つけた。
「霊遠! 負傷者を見つけた! 救助に向かう!」
恵崎は倒れている人へ向かって走った。
「大丈夫ですか! しっかりして下さい!」
倒れていたのはオレンジのTシャツに黒いパーカーを着た10代とみられる少年。
頬の切り傷以外に大きな外傷は確認できなかったが、反応がない以上見過ごすことは出来ない。
(反応はない……一旦本部に連れ帰って治療させるか……ん……?)
身体の状態を確認していた恵崎は、少年の腕にある妙なものに気が付いた。それは金色の丸い腕輪のようなもの。同じメンバーの真中や楚楚も着けているものと同じものだった。
「これって……まさか、緊虛慈……?」
これを着けている。
それはすなわち、組織関係者《S.E.I.Dメンバー》であることを示唆している……。
「何者なんだ……この子は……」
恵崎は無線機を使い、メンバーと本部ににこのことを報告した。
そして少年をそっと抱き抱えると、瓦礫が転がる現場を後にした。
■続く。
次回
第2話{ボクを死刑にしてください}




