番外編 七夕の夜に
笹の葉さらさら〜
のきばに揺れる……。
頭の中に、そんなメロディが流れてきた。
明日は七夕だ。
天の川を毎年期待するけど、なぜか、七夕の日は空模様が良くない日が多い。
織姫と彦星は、一年に一度しか会えないのに、空はなぜ、こんな意地悪をするのだろう。
私だったら、一年に一度のチャンスで会えないなんて、想像しただけで辛い。
永瀬さん……。
永瀬さんは、先月末から出張に行ってしまった。
出張の多い部署にいるので、それは仕方ない。
でも……、
七夕は、私の誕生日なんだよね。
そう。私は、7月7日の誕生日だった。
「将来、好きな人と、離れて暮らすことにならないといいわねえ。」
母が、よく私に言っていた。
冗談ではない。
私は、いろんな手段を使って、そんなことにならないようにしたい。
子ども心に、そう思っていた。
なのに、恋人になって初めての誕生日に、出張が重なるなんて……。
うらめしく、空を見上げた。
七夕前日の今日は、例年と同じように、曇り空だ。
――織姫、頑張って。
私も、寂しさに負けないよ。
なんて、曇り空に向かって無言でエールを送った。
――――――――
はるかへ。
お誕生日おめでとう!!
今日、一緒にお祝いできないのが、とても残念です。
帰ったら、はるかの好きな物でも食べに行きましょう。なるべく、早く帰れるように、仕事を頑張ります。
永瀬さんからだ――!
嬉しい、誕生日LINEを送ってくれた!
そうだね、帰ってきたら一緒にご飯食べに行こうね。
単純な私は、ニコニコになってしまった。
そんな様子を、茜に見られた。
「はーるーかー、顔がニヤけているよ!さては、永瀬さんから愛のラインが届いたな!?」
早速、突っ込まれてしまった。
「ま、まあ、私、誕生日だしね?」
意識して顔を引き締めると、茜を見た。
「そうだった!今日は、7日だね。はるか、誕生日、おめでとう〜!」
茜がお祝いしてくれた。
「まあ、永瀬さんがいないのは残念だけど、帰ってきたら盛大にお祝いしてくれるよ!」
盛大じゃなくていいけど、お祝いはしてくれるかな?
やっぱり、顔がゆるんでしまったところに、佐藤さんが通りかかった。
「茜、帰ろうよ。」
佐藤さんが、茜に声をかけた。
「あ!じゃあ、私帰るね。はるか、またねー!」
いいなあ。
佐藤さんと茜は、つい先日から付き合っている。
――私も、永瀬さんに会いたいよ。
茜に手を振りながら、やっぱり、さみしく思った。
会社を出ると、外は雨だった。
織姫様、残念。
私と同じだね。
傘をさして、駅までの道を急ぐ。
前に、永瀬さんと入った、カフェが目に入ってきた。
あのカフェ、永瀬さんと一緒に入ったな……。
あの時は、永瀬さんは、記憶を失っていた。
記憶を失った永瀬さんは、妙に距離が近かったっけ。
思い出したら、顔が熱くなってきた。
ああ、蒸し暑いのに、更に熱くなっちゃったよ!
私は、パタパタと、手で顔をあおいだ。
ん?
カフェの前に、見慣れた人がいる。
なんで……?
見間違うはずがない。
それは、永瀬さんだった。
「はるか!」
私に気づき、駆け寄る永瀬さん。
「どうして、ここに?」
来るという連絡もなかった。
突然のことに、声が震えてしまう。
「少し、空き時間ができたんです……。」
「連絡する時間も惜しくて。ここで待っていたら、はるかに会えると思って、来てしまいました。」
にっこり笑う永瀬さん。
その笑顔、ずっと見たかった。
誕生日に会えるなんて、なんて幸せなんだろう。
「あらためて、誕生日おめでとう、はるか。」
そして、星のモチーフのついた、ネックレスを取り出すと、私につけてくれた。
「ささやかだけど、プレゼントです。」
「……次は、指輪を用意してもいいですか?」
赤くなりながら、永瀬さんが言った。
そ、それって……。
「もちろん、お願いします!」
私は、永瀬さんに抱きついていた。
気がつくと、私たちの周りに、人が集まっていた。
おめでとう!
良かったね!お二人さん!
知らない人たちから声をかけられた。
しまった、周りが見えてなかった……!!
顔を見合わせて、二人で照れ笑いする。
カフェでお茶していきたかったけど、恥ずかしくて、とても中に入れなかった。
――いつの間にか、雨は止んで、青空が広がっていた――
一年後。
『永瀬はるか』になった私は、旦那さんと、再びあのカフェを訪れていた。
窓の外には、笹の葉が揺れている。
「去年を思い出しますね。」
「はい。今年は中に入れました。」
旦那さんが、くすっと笑った。
そして、パンケーキを頼むと、二人で分け合いながら食べるのだった。
パンケーキには、七夕用に、天の川と星が描かれていた。
――今年も、織姫と彦星が会えますように。
――終――
急に季節物が書いてみたくなり、永瀬さんと、はるかのその後の話として作ってみました。
はるかの母のセリフは、知り合いの実話で、そこから話を膨らませてみました(^^ゞ。Nさん、使わせてくれてありがとう。
お話、楽しんでいただけたら幸いです。




