永瀬さんの記憶
「相沢さ―ん!」
永瀬さんが、手を振った。
待ち合わせの八坂神社の前。
人通りは多いけど、私の永瀬さんレーダーで、すぐに見つかった。
永瀬さんと、祇園を歩く。
それだけで、ウキウキなはずだけど、
今日はそれどころじゃない。
朝から、何をしても落ち着かず、観光どころではなかった。
心を落ち着かせようと、禅寺を探してみた。
坐禅に興味があったけど、今の私には、雑念が多すぎて無理そうだった。
諦めて、抹茶パフェを食べて心を落ち着かせることにした。
食べている間は、忘れていたけど、すぐに、心ここにあらずになる。
ようやく18時を迎える頃には、私はだいぶ疲れていた。
――永瀬さんが、案内してくれたのは、料亭だった。
入口のメニュー表に、湯豆腐と湯葉が載っている。
どちらも、私の大好物。
さすが永瀬さん、わかっていらっしゃる。
そして、個室に案内される。
ん、――こ、個室!?
これは、やっぱり二人きり?
もう、誰も邪魔は入らない。
――私は、覚悟を決めた。
――――――――――――
「かんぱーい」
永瀬さんと、小さな食前酒をコンっと合わせた。
それだけで、ちょっと楽しい気分になってしまう。
「今日の会議、どうでしたか?」
たしか、今日の会議は、数年ぶりの大切な会議だったはず。
「はい。相沢さんが資料を届けてくれたおかげて、成功しましたよ。」
「担当の方は、以前と同じ方でしたので、久しぶりにお話できて良かったです。」
ニコニコ笑顔の永瀬さん。
それは、とても良かったです。
つられて、私も笑顔になった。
でも――
――ん、久しぶりに??
何かひっかかりを覚えて、永瀬さんを見る。
永瀬さんは、穏やかな笑顔で言った。
「相沢さん。実は、私の記憶、戻ってきていたんです。」




