97 臨時世界魔法会議11お伽噺のエルフ
休憩を終え、全員が席に着くと、会議が再開された。
精霊協会の長が会場に入ってくると、参加者たちは一斉にその姿に目を奪われた。
エルフ。
その存在を、実際に目にした者はほとんどいなかった。
魔術協会の長が静かに告げる。
「おそらく、初めて見る者が多いだろう。こちらは精霊協会の長だ。
皆、失礼のないように頼む。
今後、魔術協会と精霊協会は互いに問題を共有し、問題解決に向けて話し合いを行うことになった。
ただし、お互いに不干渉を基本とすることは変わらない。
どちらかが、もう一方に無理な要求をする立場ではないことも理解している。
皆も節度ある距離感を保ってほしい。
では、精霊協会の長。挨拶を頼む」
精霊協会の長は、ゆっくりと前へ進み出た。
「はじめまして。精霊協会の長だ。
魔術協会の長と同じく、私の名前は非公開となっている。
『精霊協会の長』と呼んでくれ。
此度の件が大きな問題となったことを、非常に残念に思っている。
今後、私たち精霊協会も世界魔法会議に参加させてもらうことになった。
先ほどの休憩中に竜皇国とも連絡を取り、竜皇国は不干渉ではあるが、今後、精霊協会と魔術協会の監査を第三者機関として受け入れることが可能かどうか、率直な意見を聞いた。
ここにいる皆の意見も聞きたいと思う。
意見のある者は、挙手を頼む」
すぐに一人の手が上がった。
「お会いできて……本当に……本当に光栄です。
西大陸ランボトル精霊国、国王リヤンガです。
私は幼い頃から、エルフの皆様はエルフの里から出ることはないのだと、お伽噺の絵本で教えられて育ちました。
ですから……精霊協会の長が特別な方なのか、それとも今後、エルフの里が解放され、交流ができるようになるのかも、お聞きしたいと思いました。
不適切な質問であれば、大変失礼いたしました。
ただ……子供の頃からの夢が叶い、感動しています。
本当に存在してくださったことに、心から感謝いたします。
……後で、握手をしていただいてもよろしいでしょうか」
リヤンガは興奮を抑えながらも、続けた。
「それと……魔塔には必要な研究もあります。
魔塔に対しても不干渉であるべきだということは理解しています。
今回はカーナリアン王国の王が関与していたことで問題が明らかになりました。
ですが、もし王が知らないところで問題が起こり、民を守れないまま責任を問われることになったら……それも恐ろしいことだと思いました。
国王として民の命を守ることは当然です。
『対応できません』では、責任を果たせない。
しかし、魔術や精霊魔法に長けた者の多くは魔塔に所属しています。
第三者として監査をお願いできる機関があるのなら……不干渉であることを承知した上でも、竜皇国の皆様にお願いするしかないのではないかと思っています。
……ですが、こんなお願いをすること自体、大変失礼なのではないかとも思っています。
私が分かっていないだけで、失礼な質問であったのなら申し訳ありません。
どうか、お許しください」
精霊協会の長は、しばらく黙ってリヤンガを見つめた。
そして、静かに呟いた。
「ああ……そうか。そうなるのだな……」
少し考えたあと、全員に向き直る。
「私だけが、他のエルフより柔軟な考えを持っている。
私は以前から、全世界の民族や歴史に興味を持ち、学んできた。
だからこそ、ここにいる。
エルフの里は確かに存在する。
だが、解放はない。
そして……エルフの里もまた、竜皇国と同じく不干渉である。
そのことを、皆が忘れているということも、今の発言で初めて知った。
だから、ここで全員に改めて伝えておく。
エルフの里は、竜皇国と同じく不干渉だ。
決して忘れてはならない。
前回のような竜皇国の侵攻や、魔石戦争が再び起きた場合……前回は私たちが事態を収めた。
だが、次は違う。
エルフは精霊と妖精と共に、この世界から去る。
そうなれば、どうなるか……。
竜皇国以外の者たちは、生き残れない。
このことを忘れず、必ず後世へ語り継ぐことだ。
……良いな」
凄まじい圧が会場を覆った。
重く、逃げ場のない空気。
まるで言葉そのものが頭の奥へ刻み込まれていくようで、参加者たちは強い痛みを覚えた。
何人もの顔が苦痛に歪む。
今日は朝早くから、竜皇国王の降臨があった。
その直後には、『黒銀の鎖』についての説明と、実際の体験。
そして今度は、精霊協会の長が放つ精霊魔法の圧。
誰もが疲労困憊していた。
しかし、精霊協会の長も、魔術協会の長も、周囲の関係者も、そのことには気づいていない。
その様子を見ていた者たちは、ただ残念に思った。
精霊協会の長は、さらに言葉を続けた。
「私自身も、同行している関係者も、身体が透けているのが分かるか?」
全員が息を呑んだ。
確かに、エルフたちの身体は完全には実体化していなかった。
「西大陸ランボトル精霊国、国王リヤンガ殿。
握手もできず、申し訳ない。目礼での挨拶とさせてもらう。
今後も精霊と妖精と自然を愛し、誠実に、そして驕ることなく国を導いてほしい」
そう告げたあと、少し距離を取るように促した。
「残念ながら、安全のために私たちは結界を張っている。
一定の距離は保ってほしい。
私たちは、これまでエルフの里から出ていない。
エルフの術についても秘匿とされている。
そのため、研究者や魔塔の職員とは相性が悪い……いや、正直に言えば苦手だ。
それほどまでにエルフという存在は貴重であり、同時に危険な存在として、まるで迷信のように扱われてきたのだと聞いている。
だから、私たちが現実の社会に出てきたのだと考えてほしい。
私たちは実際に存在する。
お伽噺の中の存在でもない。
同じ世界に生きる住人だ。
そして今回、精霊に関する非常に残念な問題が起きた。
そのことに危機感を抱いたからこそ、私は精霊協会の長としてここにいる。
皆、よろしく頼む」




