93 臨時世界魔法会議7
「体調の悪い者は挙手し、退場を許可する。無理をしている者はいないか?」
明らかに見栄を張っている者もいるようだったが、挙手する者はいなかった。
「では、今回カーナリアン王国で起こった違法魔術、『黒銀の鎖』の被害者であるヴァリアード殿の告発と、精霊魔法について質問を受ける。
憶測ではなく、確認されている事実について質問のある者は挙手を」
しばらくして、一人の国王が手を挙げた。
「北大陸アザリレール国王、ラザリスだ。
ヴァリアード殿は、世界でも屈指の魔力を持つと聞いている。
それほどの魔力を持つ者でも、『黒銀の鎖』の解呪は難しかったのか?
また、『黒銀の鎖』以上のものが、今後も作られてしまう危険性はないのか。
魔塔についても、現在は不干渉となっているが、どのような魔術や研究が行われているのか外部からは分からず、不安を感じている。
現時点で分かる範囲で答えてほしい」
魔術協会の長が静かに答えた。
「今後、裁判が行われるため、『黒銀の鎖』についての詳細を現時点ですべて明かすことはできない。
魔術は日々進化している。今後、『黒銀の鎖』のような新たな魔術が生み出される可能性を否定することはできない。
ただし、防御や解呪の技術も同じように進歩している。
……やはり、解呪についても、皆にも改めて伝えておかなければならない事がある。
解呪と言えば聖女様に……と一括りにしてはいけない。
聖女様にも、それぞれ得意とする分野がある。
解呪、浄化、護り、癒し、医術、薬草――その力は多岐にわたる。
解呪ができなくとも、
どの力も決して当たり前に存在する力ではない。
今一度、その価値を理解し、聖女様をもっと大切にしてほしい。
近年、聖女様の出現数も減少している。
聖女様の力を皆が当然のものとして扱ってきた結果だと我々は考えている。
魔力が低くても、解呪を得意とする聖女様であれば『黒銀の鎖』の解呪は可能だ。
逆に、どれほど魔力が高くても、得意とする分野が異なれば解呪はできない。
力の大きさだけで判断してはいけないということだ。
なお、魔塔の今後については、この後に説明の場を設けている。
ほかに質問は?」
続いて、一人の国王が手を挙げた。
「東大陸タハナヤ森林国国王、カイリだ。
我が国では、ほとんどの者が魔術も精霊魔法も使えない。
しかし、我が国は陸続きでマーカーハザ王国と隣接している。
今後、今回のような問題による影響が我が国にまで及ぶ可能性はあるのか?
現時点で分かる範囲で答えてほしい」
魔術協会の長は、カイリを見て答えた。
「タハナヤ森林国は、自然を愛し、自然と共に生きる素晴らしい国だと認識している。
これまで通り自然を大切にし、自然と共に生きていくのであれば、今回の件によって直接的な影響を受ける可能性は低いだろう。
ただし、スタンピードや自然災害など、予測できない事態まで防ぐことはできない。
これまで通り、準備と備えを大切にしているタハナヤ森林国であれば、過度に心配する必要はないと考えている。
むしろ、魔術や精霊魔法を使えない国として、他国が参考にすべき国の一つだ。
もしタハナヤ森林国から学びたいと、真摯な態度で訪れる者がいるのであれば、可能な範囲で門戸を開いてほしい。
ただし、横柄な態度を取る者まで受け入れる必要はない。そうした者は追い返して構わない。
そのような事例があれば、魔術協会にも一報を入れてほしい」
「了承した。いつも我が国を気にかけていただき、感謝する」
カイリが頭を下げる。
魔術協会の長は、最後に念を押すように続けた。
「もう一つ伝えておく。
今後、自然崩壊などについて相談を受けたとしても、魔術協会は対応できない。
魔術によって自然崩壊そのものを防ぐことはできないからだ。
自然を守るためには、魔術に頼るだけではなく、その土地で暮らす者たち自身が自然を大切にし、そこに住む精霊様や妖精様を守っていくことが重要だ。
以上だ。ほかに質問はあるか?」




