89 臨時世界魔法会議3黒銀の鎖
「次の議題に移る。まずはこちらの書類を確認していただきたい」
大会議場の中央に、書類の内容が鮮明な映像として映し出された。
「南大陸カーナリアン王国の国王印が押された、支払いに関する魔法示談契約書だ。
この契約書からも分かるように、カーナリアン王国の魔塔長ヴァリアードは、自ら契約を解除できるようになるまでの十年間、『黒銀の鎖』という違法魔術によって拘束され、無給で労働させられていた。
さらに、身内の安全を脅かされ、脅迫を受けていた事実も、この書類によって確認できる。
契約解除後、十年間の労働に対する賃金は全額支払われている。
しかし、十年もの長期間にわたって『黒銀の鎖』で拘束され続けたことによる精神的苦痛については、慰謝料の示談が成立していない。
当然だろう。
これは重大な魔術協会規約違反であり、人権侵害である。さらに国際法にも抵触する重大な案件だからだ。
そして、ここ最近、カーナリアン王国の王族が関与した違法魔法の使用・開発などの危険案件は二十件確認されている。
その全てにおいて、国王の指示書が存在し、さらにカーナリアン王国魔塔の職員および第三王子ライド氏の魔力反応も確認されており、関与が立証されている。
一方、カーナリアン王国魔塔長ヴァリアード、および他三名の魔塔職員については、『真実の証明』の魔道具と弁護士ギルドによる調査によって、全ての案件において無実であることが確認されている。
反論があるなら、今ここで聞こう。
ただし、虚偽の発言をした場合、その行為自体が新たな罪として加算されることを理解した上で発言するように」
会議場に緊張が走る。
やがて、カーナリアン王が立ち上がった。
「南大陸カーナリアン王国国王、ハルドだ。
私には全く記憶がない。
私自身、魔力量が少なく、魔塔内で決められたことについては一切関与していない。
二十件全ての案件については、第三王子ライドと魔塔の研究者たちによって行われたものと認識している」
「では、カーナリアン王国第三王子ライド殿。発言を」
ライドが立ち上がる。
「国王から全て指示され、必要な魔法開発を自国の魔塔と協力して行ってきた。
我々は素晴らしい魔術を開発してきたのであり、魔術協会などから内部に干渉される謂れはない。
他国から国を守り、国民の生活を守るために必要なことだったと認識している。
ヴァリアードも喜んで協力していた。
魔力量の多いヴァリアードは、鎖をつけなければ危険だった。
私はまだ未成年であり、親からの指示を断ることもできなかった。
まして、魔力量の多いヴァリアードに命令するなど、私にできるはずがない。
自分自身の安全を確保するためにも、必要な措置だったと認識している」
魔術協会の長は、二人を静かに見つめた。
「では、その主張を証明できるか?
ここで述べたこと全てに証拠が必要になることは、理解しているな?」
「…………」
「…………」
二人から返答はなかった。
「では、魔術協会の長として、こちらから全てを証明しよう。
ただし、全てを公開すれば悪用される恐れのある魔術や魔法も多い。そのため、一部については公開できない。
二十件のうち、今回公開できる案件は限られている。
まず、今回の協力者でもあり、被害者でもある、南大陸カーナリアン王国魔塔長ヴァリアードを入室させる」
扉が開く。
ヴァリアードは大会議場の中央まで進み、一礼した。
その瞬間だった。
ライドの身体から紫色の霧が立ち上り、ヴァリアードに向かって一直線に飛んでいく。
魔道具によって、その魔術の発動から軌道までが鮮明に映し出され、大会議場にいる全員が目視で確認した。
そして――。
「自らの意思で罪を犯したことを認めろ。
カーナリアン王国と、この世界を手中に収めたかったと告白しろ」
大会議場に、ライドの声が響き渡った。
「……はっ?」
ライド自身が呆然と呟く。
魔術協会の長は、冷静な声で告げた。
「魔術協会も、ずいぶんと侮られたものだな。
子供だましの魔術などで、証明を覆せると思ったのか。
……ああ、まだ子供だったな。失礼した」
その言葉と同時に、魔術協会の長が指示を出す。
「現行犯だ。魔力封じの鎖を」
次の瞬間、ライドの首に魔力封じの鎖が巻きつき、両手を後ろに回された状態で拘束された。
さらに口元には口輪が装着される。
大会議場が静まり返った。
魔術協会の長は、ライドを一瞥してから淡々と告げた。
「残念ながら、反省するどころか、さらに罪を重ねるようだ。
ここにいる皆には、これから証明映像を確認していただいた上で、決議を取らせていただく。
異議はないか?」
誰からも声は上がらない。
「では、挙手をお願いする」
一斉に手が上がった。
ただ一人――カーナリアン王ハルドだけが、手を上げなかった。
決議が成立する。
そして、大会議場中央の映像装置に、証明映像が映し出され始めた。




