87 臨時世界魔法会議1ハーマイル宰相デビュー
臨時の世界魔法会議が始まろうとしていた。
次回の開催国がヨーリアン帝国に決まっていたため、予定されていた日程を前倒ししての開催となった。
臨時の世界魔法会議には、各国の国王が必ず出席することが義務付けられている。
国王と王太子、もしくは王子を一名帯同させること。そして、関係者を含めて一国につき五名までの参加と定められていた。
朝九時からの開会という、これまでにはなかった早い時間帯での開催だったが、今回は緊急を要する案件ということで、大会議場も通常より早く開場された。
東西南北、四大陸にあるそれぞれ五つの国。
二十ヶ国の国王と随行する関係者、合わせて百名が順番に入場し、それぞれの席へと着いていく。
会場へ入る際には、毎回行われている警護検査と、本人が身につけている魔道具の取り外しが行われた。
会議中に使用を許可されるのは、会議側が用意した同時通訳の魔道具と、安全確保のための個人認証用の腕輪だけだ。
さらに、議決の際に使用する挙手装置を装着してから着席する。
世界魔法会議では、議案に対する賛否を挙手によって示し、その場で判断を下していく。
議決には全体の七割以上の賛成が必要とされているため、正当な理由のない欠席は、その国が議決権を放棄したものとして扱われていた。
また、魔術協会の長は、各国で発生するスタンピードへの対応や、魔石の調達依頼など、世界規模に関わる数多くの権限を持っている。
そのため、接待や私的な接触は禁止されており、魔術協会の長の氏名も公開されていない。
世界魔法会議は、面会を申請すれば必ず会うことのできる唯一の機会でもある。
そのため、各国とも可能な限り出席するのが慣例となっていた。
魔塔は世界各地に存在し、各大陸に二塔ずつ、合計八塔が置かれている。
八塔の塔長と職員は、魔術協会の会員でもあった。
そして竜皇国には、その中でも世界最大規模を誇る魔塔が存在している。
ただし、竜皇国はあらゆる国際的な事柄に対して不干渉を貫いているため、世界魔法会議への参加の有無を事前に伝えられることはない。
それでも大会議場の中央、会場全体を見下ろせる最も格式の高い場所には、常に一席だけ用意されていた。
高位の椅子と簾によって隠されたその席。
そこが竜皇国の席だった。
誰が座るのか、そもそも本当に誰かが来るのかさえ分からない。
それでも各国の国王たちは、その席の前を通る際には必ず一礼し、それぞれの席へと向かっていった。
「ヴァリアードとは、魔鳥便で連絡がついたか?」
カーナリアン王国の国王が尋ねる。
「はい。会議前はいつも予定が詰まっているため、会議終了後にお会いしたいとのことです」
ハーマイル宰相が答えた。
今回は、ハーマイルにとって宰相として初めて参加する世界魔法会議だった。
事前に前宰相へ書簡を送り、会議について相談もしていた。
前宰相からの返事には、こう書かれていた。
『各国との会談が可能なのだから、主催国であるヨーリアン帝国と陸続きの近隣国は最低限として、できる限り多くの国と会談しておいた方がいい。
国王同士の会談だけでなく、可能であれば宰相だけでも全員と顔を合わせておくべきだ』
その助言に従い、ハーマイルは全世界の国王と短い時間ながらも会談を重ねた。
会談、情報交換、挨拶、そして次の会談。
気がつけば、毎日がその繰り返しだった。
正直なところ、ハーマイルは日々、自分がとんでもない荷物を引き受けてしまったものだと、疲労困憊していた。
それでも――。
娘が王太子妃としてこの国を背負う立場になるのなら、自分にできることは、できる限りやっておこう。
そう決めていた。
疲れ切った身体を奮い立たせながら、ハーマイルは目の前の大会議場を見渡した。
これから始まる臨時の世界魔法会議。
一体、何が告げられるのか。
その答えを待つように、大会議場の空気が静かに張り詰めていった。




