8 魔力の大きさ タスワンズ湖
学園でも、どんな魔法であっても、まずは基本の詠唱から習う。
そこから自分なりに工夫し、自由に変換して習得していくのだと、ヴァリアード様が説明してくれた。
「一通り試してみて、私とラルフ殿で、ルノアの周りにどんな変化が起こるのかを見ながら、検証していったほうがいいかもしれないね」
そう言って、いくつかの方法を試していくことになった。
まずは、魔力の塊を小さくする方法。
ルノアは左胸に手を当て、意識を集中させた。
しかし、小さくしようとするたびに、掌から魔力の塊が横へと溢れ出してしまう。
何度試しても小さくすることはできず、二人は一度この方法を断念した。
次に試したのは、魔力を薄い膜で包み込む方法だった。
ところが、こちらも思うようにはいかなかった。
薄い膜は小さくなるどころか、どんどん大きくなっていく。
やがてルノアの身体まで、その膜でできた袋に引きずられるようになり、歩くことさえできなくなってしまった。
「……これは、ちょっと無理かな」
「そうだね……」
二人は顔を見合わせ、苦笑した。
そして最後に、魔空間へ収納する方法を試そうとしたところで、ヴァリアード様が手を上げた。
「待って、ルノア」
ルノアが顔を上げる。
「魔空間っていうと、どうしても引き出しのようなものをイメージしてしまうんだよね。でも、ルノアは魔力量が多いから、その方法だと溢れ出してしまうと思う」
ヴァリアード様は、優しく説明を続けた。
「小さい物を収めるときは、引き出しをイメージしてみるといい。でも、大きな物を収めるなら……マクアリール領にあるタスワンズ湖を思い浮かべてごらん」
「タスワンズ湖……」
「そう。湖なら、とても大きいでしょう?」
ルノアは静かに頷いた。
「そこへ水を流して、必要なときには水を戻す。使わないときは、全部そこに貯めておけば安心だよね。ルノアの魔力なら、そのくらい大きな場所を想像したほうがいいかもしれない」
ヴァリアード様は微笑んだ。
「ほら。楽しんでやってごらん」
「……楽しんで?」
「そう。失敗は、これからもたくさんするんだよ。ラルフ殿も私も、学園では今でも皆に語られているような大失敗を、いくつもしているからね」
ラルフも苦笑しながら頷いた。
「失敗から学ぶことも多い。そこから、また別の閃きが生まれることもある」
ヴァリアード様が、穏やかに続ける。
「だから、とにかく魔法を楽しんでいいんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、ルノアの肩から、ふっと力が抜けた。
目を閉じ、静かに呼吸を整える。
そして、最後にお母様と一緒に訪れたタスワンズ湖を思い浮かべた。
広大な湖。
どこまでも続く水面。
その景色を、ルノアは魔空間の中に作り出した。
そして、身体の中にあったすべての魔力の塊を、水へと変えていく。
流れ出した水は湖へと注がれ、ゆっくりと巡りながら、必要なときには再びルノアのもとへ戻ってくる。
水の流れが、魔力そのものの循環になっていく。
すると、それまで身体の中にあった熱が、少しずつ引いていった。
やがて、静かな鼓動だけが聞こえるようになる。
ヴァリアード様とラルフは、何も言わずにその小さな身体を見つめていた。
その姿に、二人はかつてのエミリアの姿を重ねていた。




