64 サラの契約
食事を終えると、クロリナラドが不思議そうに尋ねた。
「ノア、ひとつ聞いてもいいか? どうしてサライなんだ? サラはサラじゃないのか? サラは状況によって、一人になったり、何人にも増えたりすると聞いているんだが……」
「えっ? 違うんです。サラには最大数があるんですよ。全員に会えたのは、お母様が光になったときだけでした」
ルノアは少し考えてから、心配そうに続けた。
「私は、皆の負担になっていないか心配だったんです。だから、いつも無理をしちゃ駄目だって話していました。どうしてなのか分からないけれど、皆が苦しそうに見えてしまって……。実際はどうなのかな、サライ?」
「はい。確かに、負担ではありました。今は成長して、以前より多くの姿に分かれることができるようになりましたが、無理は禁物でしたね、ルノア様」
サライの答えに、ルノアは小さく頷いた。
「うん。これからもお願いしますね」
それから、ふと思い出したように首を傾げる。
「サラがお父様のところにいて、サライが私のところにいて、サラさんがヴァリー伯父様のところにいるんだよね? それで、公爵家を守ってくれているのかな?」
「はい。皆、それぞれの役目を担っております」
「今は、どこと契約しているんですか? お母様が、皆には自由にしてほしいって話していたのは覚えているんです。私が皆としか遊ばなくなって、お母様は心配していたんですよね……」
サライは懐かしそうに目を細めた。
「覚えていらしたのですね。そうです。エミリア様が、私たちのこれからを考えて決められました。私たちも、ルノア様のお気持ちが痛いほど分かっておりましたから、あの頃はつらかったのです」
一度言葉を切り、嬉しそうに微笑む。
「それでも、いつかまたお会いできると信じておりました。本当に……またお話しできることが嬉しいです」
「サライ……」
ルノアがそっと手を伸ばすと、サライはその手を優しく握った。
「現在は、精霊王様が竜神様から頼まれ、竜皇国と契約しております。
竜神様、竜皇国王様、王太子様、そして殿下の執事の皆様との連絡や、侍女としてのお仕事などを担っております」
「そうなんですね。皆、良くしてもらえているんだね」
ルノアの表情が明るくなる。
「それなら、また皆に会えるんですね! 楽しみです」
その様子を見ていたクロリナラドが、困ったように両手を上げた。
「先に謝っておこう。俺には、皆の違いがまったく分からない!」
「あはは、大丈夫ですよ。殿下は今までどおり、サラと呼んでくださって構いません」
サライは穏やかに答えたあと、改めてクロリナラドに向き直った。
「それから、殿下。精霊王様が、お二人を祝福してくださいました。精霊を助けてくれてありがとう、とおっしゃっていましたよ」
「精霊王様が?」
クロリナラドが驚いたように目を見開く。
「はい。殿下にも妖精と精霊たちが見えるようになっていますよね?」
「ああ。確かに見えるが……」
「それと、殿下が心配されていたことについても、お伝えしなければなりません。残念ながら、精霊王様がお話しされていたとおりの状況になってしまいました」
サライの表情から、先ほどまでの柔らかさが消えた。
「このあと、執務室に一緒にお越しいただけますか?」
クロリナラドは表情を引き締め、静かに頷いた。
「分かった。ノア、一緒に話をきいてくれるか?」
「はい、ラド様。」
ルノアは笑顔で再びサライへと向き直った




