60 ヴァリアード一緒に食事しよう
ヴァリアードは転移魔法でラルフの執務室へ戻ってきた。
「お帰り。疲れた顔をしているな。大丈夫か? 一緒に食事をしよう。ここで食べてもいいかい? サラ、お願いできる?」
「ああ。少し話しておかなければならないことができた」
「分かった。話は食べながら聞くよ。まずは食事にしよう」
二人は食卓につき、運ばれてきた料理を食べ始めた。
「おお、マスか! タスワンズ湖のマスが美味しい季節になったのか。皆でよく釣ったなぁ……」
懐かしそうに目を細めるヴァリアードに、サラが微笑んだ。
「先ほど、執事長と侍女長が先に転移で到着されました。お土産にオハギをお持ちくださったんです。ルノア様のお好物だからと。それに、皆様がお好きなミタラシやオヤキも、たくさん用意してくださいましたよ」
「ラルフも、ようやく生活が落ち着きそうだな。良かった」
「ああ……ようやく当たり前の生活ができそうだ」
ラルフは安堵したように息をついた。
「今までは、安心して食事をすることも難しかったからな。お茶も、エミリアが作ってくれた緑茶をいつも持ち歩いていたんだ。これからは、なるべく皆で一緒に食事をしよう。ルノアが私たちを心配するからな」
食事を終えると、二人は食後のオハギと緑茶を楽しんだ。
しばらくして、ヴァリアードが尋ねた。
「ラルフ、二人がいつ目覚めるのか聞いたか?」
「ああ。四日目の朝だそうだ。二人とも魔力量が多いから、調整に時間がかかるらしい。竜人同士なら、調整が必要ない場合もあるようだがな」
ラルフは緑茶を一口飲み、少し考えてから続けた。
「白本も青本も読んだよ。私たちと同じくらいの年齢になっても、時間の流れに狂いが生じることなく、ただ孤独の中でルノアを待ち続けていたと知って……少し羨ましくもあり、恐ろしくもあった」
言葉を切り、苦笑する。
「ただ、見て見ぬふりをしてやるのもいいかもしれないと思ったよ。福ちゃんにも、サラやヴァリーにも協力を頼めたらと思ったが……ヴァリーは難しそうだな」
「難しいけど、ルノア次第だな。クローも、ルノアが嫌がることはできないだろう。だから、そこは心配しなくてもいいんじゃないか?」
「そうだな……」
ラルフは納得したように頷いたあと、ふと思い出したように尋ねた。
「ところで、竜皇国には行ったことがあるのか?」
「ないよ。あの頃は体がつらかったし、魔塔の問題もあったからな」
ヴァリアードはそう答えると、表情を引き締めた。
「ラルフ、そろそろ今後の話をしてもいいか?」
「ああ。……あまり良い話ではなさそうだな。聞くのが怖いよ」
ヴァリアードは、王との面会で聞いた話から、その後の密談、さらにハーマイル公爵の隠密に遭遇した一件まで、順を追って説明した。
最後まで聞いたラルフは、額に手を当てた。
「ヴァリー……まさか、試したかったとか、やってみたかったとか、そんな理由じゃないよな? 少し遊びすぎじゃないか?」
「いや、試しておかなくちゃ駄目だろ? 実際に使う機会がいつ来るか分からないんだから」
ヴァリアードは悪びれもせずに答えたが、すぐに表情を曇らせた。
「ただな……クローが俺に何をさせたいのか、それが不安なんだよ」
その言葉に、ラルフも真剣な表情に戻った。
便利な機能が指輪に仕込まれていることは分かった。しかし、それをヴァリアードに使わせようとするクローの意図までは、まだ見えていなかった。




