59 カーナリアン王国第三王子の魔法
ハーマイル公爵は一礼した。
「宰相の仕事が溜まっておりますので、そちらを片付けなければなりません。御前を失礼いたします」
そう告げて退室すると、ライド殿下も引き留める間もなく、ヴァリアードが口を開いた。
「私も予定が詰まっている。これで失礼する。世界魔法会議へは転移で向かうので、会場で魔鳥便を使って連絡をくれ。では」
ヴァリアードも、あっという間に姿を消した。
「あっ、ヴァリアード殿!」
ライドが声をかけたときには、すでにその姿はなかった。
王は報告に来ていた者へ尋ねた。
「どこへ転移したか、分かったか?」
「はい。魔塔の自室です。ただ、真実眼には気づかれていなかったようです。ヴァリアード様は魔力反応を感知するたびに魔力感知を行っておられましたので……」
報告した者は、頭を下げた。
王は二人に視線を向け、穏やかに告げた。
「アキドもサリドも、これから精霊魔法を極めていきなさい。魔術魔法が使えなくとも、精霊とのつながりを深めれば、できることはいくらでもある」
二人が頷くと、王はライドのほうへ目を向けた。
「そういえば、ライドの狩人のおかげで、魔塔の研究者たちも便利な魔術を完成させられたと喜んでいたな」
そう話したものの、王の表情には懸念が浮かんでいた。
「ただ、連絡が取れないのが気になる。魔塔に入る際には貴族籍を離れるため、実家からの連絡も届かないのだが……」
魔塔の研究者たちは、特別休暇中だと聞いている。
しかし、魔術研究に没頭する彼らが、素直に休暇を取るだろうか。
さらに、王都内では精霊の数が減っているという報告もあった。
「世界魔法会議が終わったら、タスワンズ湖へ向かう準備をしておきなさい。マクアリール公爵のお見舞いも兼ねて、ライドが行くのだ。あの湖には精霊が多いと聞いている。お前の狩人の力を頼りにしているぞ」
「承知いたしました、陛下」
ライドは一礼した。
その頃、彼らが気づかないまま、ヴァリアードは隠密魔法で室内に留まり、会話を聞いていた。
「なるほどな……狩人か」
王も異変を察知し始めているらしい。
ヴァリアードはすぐさま指輪に魔力を流した。
「全員、黒! 魔術協会の長に転送!」
指示を送ったあと、ふと思い出したように呟く。
「サラさんにも伝えておかなきゃな。会議のあとなら、王城からもすぐに連絡が来るだろうし」
そのとき、近づいてくる気配を感じた。
「おっ、ハーマイルのところの隠密か……」
ヴァリアードの行き先を探りに来たのだろう。
「悪いけど、今はまだまずいんだよな。ごめんな」
そう呟くと、指輪に仕込まれた魔術を発動させた。
「忘却!」
隠密の記憶を操作し、ヴァリアードのもとへ向かったことを忘れさせる。
さらに、念話で指示を送った。
『引き返して!』
隠密は指示に従い、来た道を戻っていった。
その途中、ハーマイル公爵へ念話で報告する。
『申し訳ございません。ヴァリアード様の結界が厳しく、入室できませんでした。一度戻ります』
報告を終えた隠密は、そのまま引き返していった。
一方、ヴァリアードは自分の指輪を眺め、感心したように声を上げた。
「おぉ~! いろいろ仕込んであるな。俺には必要ないと思っていたけど、これは便利だ! すごいぞ、クロー!」
思いがけず役立った機能に、すっかり上機嫌になっていた。
しかし、少し遊びすぎたかもしれない。
「……怒られないといいけど」
ヴァリアードは苦笑しながら、指輪を見つめていた。




