464 再戦と振り返り
魔道人形の案内に従い、男子チームは再びスタート地点へ戻った。
今度は、すぐに行動を開始することはなかった。
フォルは地図を広げ、全員の意見を聞きながら作戦を練り直した。
「さっきは最短距離を優先しすぎた。敵役の配置や妨害を考えれば、別の道を選んだほうがいい」
バルトが地図を確認しながら提案する。
「北側の道は距離が長いが、周囲を確認しやすい。途中で進路を塞がれても対応できるはずだ」
ジュストも地図を指しながら意見を述べた。
「それなら、役割を分担しよう。進路の確認はジュストとバルト、敵役の接近警戒はライルズとギルトに頼む。サンセールは護衛対象の結界を担当してくれ」
「分かった。結界の状態は常に確認する」
「異常があれば、すぐに全員へ伝えてくれ。担当者だけで判断せず、状況を共有しながら動こう。ダルトはサンセールの補佐を頼む」
フォルの指示に、それぞれが頷いた。
「念話も使おう。声を出さずに連絡できる」
全員の役割と連絡方法を確認すると、七人は護衛対象を囲むように位置を取り、移動を開始した。
進路を塞ぐ敵役が現れると、ジュストが状況を伝え、フォルが経路の変更を指示する。ライルズとギルトは周囲を警戒し、接近する敵役を早い段階で察知した。
サンセールも護衛対象の結界を確認し、異常がないことを念話で全員に伝える。
それぞれが担当する役割を果たしながら、状況に応じて互いに情報を共有していった。
無理に最短距離を進むことなく、妨害を避けながら慎重に進んだ結果、制限時間内に護衛対象を安全区域まで送り届けることができた。
「任務成功です!」
護衛対象の教師の声に、七人は互いの顔を見合わせた。
「今度は成功したな」
「最初から、これくらい話し合っておくべきだった」
ジュストの言葉に、フォルも頷いた。
「失敗したからこそ分かったこともある。次からは、最初の段階で全員の意見を確認しよう」
一度目の失敗を通して、七人は事前の話し合いと情報共有が任務の成否を左右することを実感していた。
……ー……ー……ー……ー……ーー……ーー……
昼食を挟み、午後の授業が始まった。
十四名が総合戦術演習の教室に集まると、教壇にはヴァリアードと小柄な女性が立っていた。
女性は眼鏡をかけており、厚さのあるレンズの奥の瞳は小さく見える。
「はじめまして。戦術講義を担当するミームアです。普段は図書室で世界中の戦術書籍を研究しています。そのため、ほかの先生方からは『図書室の住人』と呼ばれています。授業では、ミームア先生と呼んでくださいね」
穏やかな口調で自己紹介を終えると、ミームアは生徒たちを見渡した。
「それでは、午前中の護衛任務を振り返りましょう。女子チームと男子チーム、両方の映像記録を確認します。それぞれの行動を見ながら、問題点や改善できるところを考えてみてください」
教室の前方に映像が映し出され、二つのチームの任務の様子が順番に再生された。
映像が終わると、ミームアが生徒たちに尋ねた。
「まず、女子チームと男子チームでは、どのような違いがあったと思いますか?」
ルルが挙手して答えた。
「女子チームは、任務が始まる前に役割や進路を決めていました。それに、護衛対象が敵に発見されないよう、いろいろと工夫しました」
「そうですね。護衛対象を守るだけでなく、敵に見つからないようにすることも大切です。事前の準備と情報共有が、任務の成功につながっていましたね」
ミームアの言葉を受け、ヴァリアードが補足した。
「女子チームは護衛対象に消音、消臭、認識阻害の魔法をかけていた。最後まで妨害役に発見されることはなかったな」
フォルたちは映像を見ながら、妨害役を務めていた者たちがマクアリール公爵家の騎士団の三軍だと気づいていた。
思うように護衛対象を見つけられず、苦戦している姿を見て、その心中を察していた。
「では、男子チームはどうだったでしょう。最初の任務では失敗し、再戦で成功しました。
何が変わったのか、自分たちの行動を振り返ってみてください」
フォルが答えた。
「最初は最短距離を優先してしまい、周囲の状況を十分に考えていませんでした。それに、役割分担や意思疎通も不十分でした」
「再戦では、どのように改善したのですか?」
「全員で役割を確認し、それぞれの担当を決めました。念話で状況を共有し、誰か一人の判断だけで行動しないようにしました」
ヴァリアードは頷いた。
「個人の技術がどれほど優れていても、必要な場面で使えなければ意味がない。仲間が何を見て、どう判断しているのかを把握し、互いの行動を確認することも連携の一つだ」
ミームアも続けた。
「任務では、個人の能力だけで結果が決まるわけではありません。優秀な者が集まっていても、意思疎通ができなければ、それぞれの力を十分に発揮できません。反対に、失敗から問題を見つけて改善できれば、それを次の成功につなげられます」
サキは少し考えてから、手を挙げた。
「再戦では、最初のときと動きがずいぶん違っていました。ただ、フォルたちは隠密技術も習っているのに、任務では使っていなかったように思います」
フォルたちは顔を見合わせた。
「任務を急ぐことばかり考えていて、使うべき場面を見落としていた。探知や周囲の警戒だけでなく、自分たちの気配を消すことも必要だった」
ジュストが答える。
「技術を身につけることと、実際の任務で使いこなすことは別なのですね」
サキの言葉に、ヴァリアードが頷いた。
「そのとおりだ。知識や技術は、状況に応じて使えて初めて役に立つ。今回の経験を忘れず、次の任務に生かしてほしい」
その話を聞いていたライルズが、ヴァリアードに尋ねた。
「ヴァリアード先生、フォルたちだけでなく、ほかの生徒も隠密技術を習っているのですか? 私とサージュは魔術学園では学んでいません」
「今後は必要に応じて指導していく。隠密技術は特定の者だけに必要なものではない。ただし、技術を秘匿している国がほとんどだからな。指導する内容や範囲は考える必要がある」
「私も学びたいです。自分の気配を消す方法も身につけたいです」
サージュも続けた。
「いい心がけだ。まずは今できることを確認してから、基礎を含めて指導内容を考えよう」
ヴァリアードの返事に、ライルズとサージュは嬉しそうに頷いた。
ミームアは生徒たちを見渡し、今回の演習について話をまとめた。
「今回のように、失敗したチームが再戦で改善することも、大切な学びの一つです。最初からすべてを成功させることだけが評価につながるわけではありません。自分たちの行動を振り返り、何を変えるべきかを考えることも、実戦では必要になります」
ヴァリアードが続けた。
「一年目の実戦演習では、四つある任務すべてを成功させることが、次の学年へ進むための条件の一つとなっている。任務ごとに求められる能力は異なる。護衛が得意だからといって、ほかの任務でも同じように対応できるとは限らない」
「一つの任務に成功しただけでは終わらないということですね」
サンセールの言葉に、ヴァリアードは頷いた。
「そうだ。状況が変われば、必要な判断も連携の仕方も変わる。個人の能力だけでなく、チームとしてどこまで対応できるかも問われる。残る三つの任務でも、それぞれの課題に向き合ってほしい」
ミームアが次の授業について説明を始めた。
「それでは、課題についてもお伝えしておきます。来週は『世界薬草・薬品学』の授業です。課題用紙は机に用意してありますので、書籍を読んで解答し、再来週の授業二日前までに提出してください」
生徒たちは机の上に置かれた課題用紙に目を向けた。
「なお、書籍に記載されている内容以外にも答えがある場合は、三章までにまとめて提出しても構いません。独自の調査や考察が含まれていれば、成績の加点対象となります」
ミームアは穏やかな口調のまま、注意を付け加えた。
「戦術講義と世界薬草・薬品学は授業回数が少ないため、課題の未提出は大きな減点になります。期限を守ってくださいね。それでは、戦術講義を始めましょう」
こうして午後の授業が始まった。
今回の護衛任務では、女子チームが事前の準備と情報共有の重要性を示し、男子チームは失敗を通して自分たちの課題を見つけ、再戦で改善することができた。
異なる経験ではあったが、どちらのチームにとっても得るものは大きかった。




