463 失敗から学ぶ護衛任務
男子チームの護衛任務が失敗したことを告げられると、魔道人形が一同のもとへやって来た。
「このまま再戦することも可能です。どうされますか? 再戦を希望される場合は、全員をスタート地点へ転移いたします。本日は五回まで再戦できます」
フォルたちは顔を見合わせた。
一度失敗したからといって、ここで終わるつもりはなかった。原因を見つけ、改善して再び挑戦する。それも今回の演習で得られる大切な経験だった。
「再戦を希望する」
フォルが答えると、ほかの者たちも同意した。
「今度こそ成功させよう!」
全員の意思が確認されると、魔道人形が頷いた。
「承知いたしました。それでは、全員をスタート地点へ転移いたします」
生徒たちの身体が転移の魔法に包まれ、再び演習の開始地点へと戻っていった。
男子チームは、先ほどの失敗を踏まえて作戦を練り直すことになった。
一方、教室に残っていたヴァリアードとウォールは、女子チームと男子チームの映像記録を確認していた。
今回の実戦授業では、魔力量や個人の技術だけを評価するわけではない。状況判断、情報共有、仲間との連携、そして任務を達成するための工夫も重要な評価対象だった。
二人はギルトたちが三兄弟の教育者として演習に参加していることも知っていた。
彼らは騎士たちの動きや接近方法を把握していたが、フォルたちにはあえて知らせていなかった。
助言を与えず、実際の状況で三兄弟が何を見て、どう判断するのかを確かめるためだった。
ヴァリアードは映像を確認しながら口を開いた。
「それにしても、竜皇国の騎士たちは随分と技術を向上させているな。以前とは動きが違う。タスワンズ湖にいる元隠密のネネに鍛えてもらっているとは聞いていたが、接近の仕方も気配の消し方も見事だ」
「そうだな。こちらの生徒たちが気づけないほど、気配を消していた。騎士団も相当な鍛錬を積んでいるのだろう」
ウォールも感心したように頷いた。
「ギルトたちが手を出さなかった理由も分かる。あの状況で助言していれば、三兄弟は自分たちの問題に気づかないまま終わっていただろう」
「失敗を経験させることも必要だ。もっとも、失敗した理由を自分たちで考えられるかどうかが重要だがな」
二人はまず、女子チームの映像を再生した。
七人は念話を使って情報を共有し、互いの位置や周囲の状況を確認しながら進んでいた。護衛対象の周囲には結界が張られ、妨害役に存在を悟られないよう、細かな工夫も施されている。
「女子チームは、よく連携できているな」
ウォールの言葉に、ヴァリアードも頷いた。
「それぞれが自分の役割を理解し、状況に応じて動いている。情報共有も途切れていない」
「特に、護衛対象への注意が途切れていないところがいい。妨害役への対応に集中しても、守るべき相手を見失っていない」
ヴァリアードは映像を少し戻し、リシューの動きを確認した。
「リシューは、さり気なく護衛対象に強い認識阻害をかけているな。相手の目を欺くだけでなく、存在そのものを意識させにくくしている」
「しかも、精霊魔法をほとんど使っていないようだな」
「そうだ。持っている力をすべて使うのではなく、必要なものを選んでいる。魔力の使い方にも無駄がない」
二人は映像を先へ進めた。
しばらく確認したところで、ヴァリアードが別の問題を口にした。
「ただ、マクアリール公爵家の者たちだけで固めてしまっては、訓練の意味が薄れる。公爵家の三軍を鍛える授業ではないからな」
「彼女たちの能力が高いからこそ、周囲が任せきりにならないようにする必要もあるな」
「そうだ。一軍にも協力を頼もう。彼女たちとは異なる能力を持つ者を加えれば、また違った課題を与えられる。互いの長所を生かす方法も学べるはずだ」
女子チームの確認を終えると、二人は男子チームの映像へ切り替えた。
作戦会議の段階から、七人の意思疎通が十分でなかったことが見て取れた。
最短距離を進む方針は決まったものの、別の経路を十分に検討していない。役割分担も曖昧なまま、任務を開始していた。
さらに、妨害役への対応に意識が向きすぎたことで、護衛対象を守る結界の状態を確認できていなかった。
「男子チームは、連携以前に隠密への対策も足りないな」
ヴァリアードは映像を止め、妨害役が接近する場面を確認した。
「特にフォル、ジュスト、サンセールの三人だ。リキからも隠密技術の指導を受けていたはずだが、実戦では十分に生かせていない。習った技術を忘れているのか、それとも自分たちが護衛することだけに意識が向いていたのか……」
「技術を身につけても、必要な場面で使えなければ意味がないということだな」
「そうだ。探知だけでなく、自分たちの気配を消すことも含めて、もう一度鍛える必要がある。ライルズにも隠密技術を学ばせたほうがいい」
「鍛えれば、まだまだ魔力も伸ばせるだろう。それに、作戦の立て方も見直させたいところだな」
ヴァリアードは映像を止めずに続けた。
「時間が限られているからこそ、最初の情報共有が重要になる。誰が何を担当するのか、何か起きたときに誰が対応するのか。そこまで決めておかなければ、実戦では判断が遅れる」
ウォールも頷いた。
「一人ひとりの能力は高い。それだけに、自分の判断で動けば何とかなると思ってしまうところがあるのかもしれないな」
「個々の能力が高いことと、チームとして任務を遂行できることは別だからな。互いの考えを確認し、必要な情報を共有できなければ、力を合わせることはできない」
ヴァリアードは、男子チームの映像を最後まで確認した。
「ただ、妨害への対応そのものが悪かったわけではない。失敗の原因を自分たちで理解し、次の行動に反映できれば十分に成長できる」
「今から再戦するそうだから、その結果も見ておこう」
「ああ。午後の授業では、今回の映像を生徒たちにも見せるつもりだ。成功した場面だけでなく、失敗した場面も取り上げたい」
「自分たちでは気づかなかった問題も、ほかのチームの行動を見れば分かることがあるからな」
「そうだ。結果だけを伝えても次にはつながらない。なぜ成功したのか、なぜ失敗したのか。その過程を自分たちで考えさせよう」
二人は再戦の映像を確認する準備を整えた。




