460 ヨーリアン帝国 近衛隊
竜皇国の王太子の長男であるライルズには、今回の実戦演習でどうしても確かめておきたいことがあった。
以前から、ヨーリアン帝国の近衛隊には問題があると感じていたからだ。
魔道具を使いこなすこと自体は悪くない。だが、魔道具の性能を自分自身の実力だと思い込んでいる者が増えていた。
さらに、他国の者や異なる種族を見下し、出自だけで相手の能力を決めつける者も少なくなかった。
その疑念を決定的なものにしたのは、先週の視察だった。
ライルズが自分に任されている仕事の状況を確認するため現地へ赴いた。
しかし、緊急事態が発生し、同行していた近衛隊員たちは魔道具に頼りきっており、十分な対応ができなかった。
あろうことか、守られる立場であるライルズ自身が、彼らを守るために前へ出なければならなかったのである。
近衛隊は、本来、主君や護衛対象を守るために存在する。その役目を果たせず、逆に守られる側へ負担をかけるようでは、本末転倒だった。
この一件を受け、ライルズは父である王太子グレイヴに改善を求めた。
近衛隊の選抜基準や教育方法を見直し、魔道具の操作技術だけでなく、基礎体力、魔力制御、状況判断、そして道具に頼らず危機に対応できる能力を確認する必要があると進言した。
また、他国の者や異なる種族を見下す考えを持つ者は、近衛隊に置くべきではないとも伝えていた。
祖父である帝王グランディスも、近衛隊の問題は把握していた。
しかし、帝国内の派閥や人事のしがらみもあり、一度に全てを改めることは難しい。
幸い、学院の再編と改革によって、今後は採用時の成績や卒業資格に問題のある者も明らかになっていく。
調査の結果次第では、近衛隊から外さなければならない者も出てくるだろう。
そのとき人員不足で混乱しないよう、先に後任となる人材を確保しておく必要があった。
ライルズは入学式以降、父グレイヴと相談しながら準備を進めてきた。
今回、近衛隊員を実戦授業に参加させたのも、その一環である。
選んだ十名は、ライルズが特に問題を感じていた者たちだった。
ただし、本人たちには選出の真意を詳しく伝えていなかった。
ところが、演習が始まる前から、彼らの問題は明らかになった。
男子チームの妨害役を担当するはずだった近衛隊員たちは、魔道具を外した状態での行動に慣れていなかったのだ。
周囲への警戒が足りず、足音や物音を立てる者がいる。魔力の制御も不十分で、結界を維持することすらできない者までいた。
「少し離れてください。魔力の制御ができません」
近衛隊員の一人が、不満そうに周囲へ告げた。
それを聞いた別の騎士が、すぐに言い返した。
「何を言っているんだ。魔力を制御できていないのはあなた方でしょう。結界すら維持できていないことに気づいていないのですか?」
「自分たちの状態を確認してください。周囲に影響を与えているのは、あなた方です」
さらに指摘され、近衛隊員たちは言葉を失った。
魔道具を外した途端、足音を抑えることも、魔力を安定させることも、周囲と歩調を合わせて結界を維持することもできない。
妨害役として相手の動きを探るどころか、自分たちの居場所を簡単に知らせてしまっていた。
「これでは、こちらが何かする前に位置を知られてしまう。魔道具が使えないだけで、ここまで違うとは思わなかった」
竜皇国の騎士が、呆れたように言った。
生徒たちが普段から訓練で身につけている基礎的な技術さえ、満足に扱えない。
近衛隊員として以前に、実戦に参加する者として必要な能力が不足していた。
その様子を遠くから『聴覚』で聞いていたライルズは、改めて自分の判断が間違っていなかったことを確信した。
魔道具を使いこなす技術と、自分自身の能力を磨くことは別である。
道具の性能に頼るばかりで、基礎を疎かにしていては、いざというときに役目を果たせない。
やがて、竜皇国の騎士団員の一人が近衛隊員たちの前に立った。
「これでは実戦演習に支障が出ます。妨害役を務めるはずの皆さんが、かえって演習の妨げになっています。
申し訳ありませんが、帝国の近衛隊員の方々には、今回の演習から外れていただきます」
近衛隊員たちは不満を浮かべたものの、現状を覆すだけの実力を示すことはできなかった。
その場にヴァリアードが移転してきた。進み出て、彼らに告げた。
「王太子様からお話があるそうだ。十名を王城へ移転させる。到着後は、王城での指示に従ってくれ。『移転』」
その言葉とともに、十名の姿が消えた。
演習から近衛隊員が外れたことで、妨害役の人数も配置も変更する必要が生じた。
竜皇国の騎士団員が挙手する。
「申し訳ありません。人数が変わりましたので、妨害役の配置を調整する時間をいただけますか?」
「もちろんだ。準備を整えてから再開しよう」
ヴァリアードの返答を受け、騎士たちは配置を見直すために移転していった。




