459 見つけられない護衛対象
女子チームは地図を囲み、ルノアを中心に作戦を話し合っていた。
「最初に考えたいのは、護衛対象の安全です。最短距離を進むより、危険を避けられる道を選びたいです」
ルノアの言葉に、リシューが北側の道を指した。
「北側は距離が短いけれど、両側を建物に挟まれているわ。待ち伏せされたら、護衛対象を守りながら進むのは難しそうね」
「東側は少し遠いですが、途中に広い場所があります。周囲を確認しやすく、進路を変更する余地もあります」
アキが答えると、サキも地図を確認した。サージュも別の経路を指しながら意見を述べた。
「ただ、広い場所は相手からも見つかりやすいです。妨害役が先回りしている可能性も考えておきたいですね」
「なら、最初から一つの道に決めない方がいいわね」
ルルが別の経路を示した。
「相手の配置を確認しながら、状況に応じて進路を変えるのはどうかしら」
「そうしましょう。今回は全員が念話を使えます。
作戦や状況報告は念話で行いましょう。協力者に聞かれないよう、七人以外には届かない結界も張っておきます」
ルノアの提案に、全員が頷いた。
七人はそれぞれ結界を展開した。念話の範囲を限定し、外部から会話の内容を聞き取られないようにする。全員の結界の精度は高く、すぐ近くにいる協力者にも会話はまったく届かなかった。
「護衛対象の先生に触れられたら失敗です。戦闘は禁止されていますから、相手を倒すことより、先生を安全区域まで導くことを優先しましょう」
『先生の周囲と進路の確認を分担しましょう。異変があればすぐに知らせてください』
ルノアの念話に、全員が返事をした。
今回、護衛対象を務めるのは学院の教師だった。
ルノア、アキ、サキは隠密行動を担当することになった。
三人は足音だけでなく、衣服の擦れる音や呼吸による気配まで抑えた。さらに、周囲に存在を悟られないよう、自分たちの匂いも遮断していく。護衛対象の教師にも同じ処置を施した。
『先生の気配も匂いも消しました。足音も聞こえない状態です。これなら、近くまで来ても簡単には見つけられないと思います』
『念のため、周囲の警戒は続けてください。相手が何らかの方法で気づく可能性もあります』
ルノアの指示に、三人は慎重に周囲を確認した。
そのとき、マシューが小さく耳を動かした。
兎獣人である彼女は、非常に優れた聴覚を持っていた。遠くの小さな物音や、わずかな呼吸の変化まで聞き分けることができる。
『北側の建物の陰に二人います。騎士ですね。呼吸の間隔で分かります』
『もう一か所、東側の茂みにもいます。こちらは三人です』
『我が国のリキさんは南側です。息を潜めていますが、かすかな呼吸音が聞こえます』
マシューの報告に、ルノアたちは地図を確認した。
『ありがとうございます。位置が分かれば避けられますね』
『それにしても、皆さんの場所がよく分かりますね』
『兎獣人の耳は凄いんですね。リキさんをご存知でしたか?あの五名の騎士は私の領の騎士団の方です。』
ルノアが少し内緒話をするように他の者に伝えた。
マシューは少し照れたように耳を揺らした。
女子チームは協力者たちの配置を把握しながら移動を開始した。
一方、妨害役のマクアリール公爵家の騎士たちは、女子チームの様子を探っていた。
「……念話がまったく聞こえないな」
「結界の精度が高すぎる。外から内容を探るのは難しそうだ」
リキも蛇獣人特有の感覚を使い、周囲のわずかな変化を探っていた。しかし、足音も衣服の擦れる音もなく、護衛対象の匂いさえ感じ取れない。
「これは困りましたね。護衛対象どころか、護衛している生徒たちの位置もつかめません」
騎士の一人が苦笑した。
「こちらが妨害する側なのに、相手の動きを探すことすら難しいとはな……」
騎士たちは経験を生かして待機場所を変えた。
しかし、その直後だった。
『北側の建物の裏に移動しましたね。今、三人の呼吸が聞こえています』
マシューの報告が届く。
『東側の二人も移動を始めました。少し先の曲がり角で待つつもりのようです』
女子チームは相手の移動を把握し、別の経路へ進んだ。
その後も、騎士たちが待機場所を変えるたびに、マシューが呼吸音を聞き取って報告した。
『あ、また移動しました。今度は南側です』
『リキさんも場所を変えて木の上にいますね』
『こちらの位置は分からないのに、向こうの場所だけは全部分かってしまいますね』
サキの念話に、ルルも思わず笑った。
一方、妨害役の騎士たちは困惑していた。
「おかしいな。場所を変えたばかりなのに、また避けられたぞ」
「まさか、こちらの移動まで把握されているのか?」
リキも周囲を見回した。
「私たちの呼吸音まで聞き取られているのでしょうか……」
「どうやら、そのようだな」
騎士の一人が苦笑する。
「隠れているつもりが、居場所を知らせているとは。これは参った。いまさらだが、消音を強化しよう」
「それができれば苦労はしませんね」
リキも小さく笑った。
その後も彼らは護衛対象を探し続けたが、手掛かりは得られなかった。
やがて、ウォールの声が訓練区域に響いた。
「終了まで残り三十分だ! 時間内に任務を完了できたチームは報告するように!」
その声とほぼ同時に、女子チームは安全区域へ到着した。
護衛対象の教師は無事で、妨害役に触れられることもなかった。
任務完了の報告を受けた騎士たちは、思わず顔を見合わせた。
「結局、護衛対象の姿すら確認できなかったな」
「匂いも気配も足音もない。どこを探しても手掛かりがなかった。妨害どころか、一度も触れる機会がなかったぞ」
「こちらは待機場所を何度も変えたというのに、全部見抜かれていたようだ」
騎士たちはそろって苦笑した。
その中の一人が、女子チームの方を見ながら感心したように口を開いた。
「これは考えを改めなければならないな。私たちはマクアリール公爵家の三軍ではなく、一軍の協力者で参加した方がいいかもしれません」
「まったくだ。妨害役に来たはずが、こちらが訓練させてもらっているようなものだ」
リキも笑みを浮かべた。
「私まで居場所を見つけられてしまいました。
マシュー様の耳には敵いませんでしたね。技術がまたあがっています。まだリシュー様の精霊魔法は温存されていますから……」
彼らは悔しさよりも、女子チームの技術に感心していた。
ルノアたちは無理に妨害役を突破することなく、マシューの聴覚と三人の隠密技術、そして七人の連携を生かして、制限時間内に任務を完了したのだった。




