46 番の作った魔石を誰かにあげる…
「なぁ、クロー……。
俺たちに、なんかとんでもなくまずいものを付けたんじゃないよな?
信じて任せたのに、さっきから嫌な予感しかしないんだが……。
首筋がずっと寒いんだよ。
ラルフもそう思うだろ?
こんなに不安になったのは、エミリアのこと以来だぞ。
俺たちがルノアの魔石をもらったのが、そんなに気に入らなかったのか?
それとも……誓いを交わすのも、本当は俺たち二人が立ち会うのが嫌だったとか?
まさか、そんな小さなことで嫉妬したりしないよな?
クローは俺たちよりずっと年上なんだろ?」
「………………」長い沈黙が落ちた。
ヴァリアードの額に、じわりと汗が浮かぶ。
「……何だよ、その沈黙。
まさか……全部欲しかったのか?
そうなのか!?
ルノアが初めて作った魔石を、自分だけの宝物にしたかったのか?
だったら、最初から言えばよかっただろ!
子供じゃないんだから……。
俺たちに言えよ。ちゃんと言えるだろ?
……嘘だろ?」
クロリナラドは視線を逸らした。
そして、しばらく黙ったあと、小さく呟いた。
「……仕方ないだろ。
ノアが、そう言うんだから……。
『大事なんだ』って言われたら、断れない。
二人がノアにとって大切な父親と伯父だってことも分かってる。
分かってるけど……」
クロリナラドは、拳を軽く握った。
「もう十年も、一緒に過ごしてきた時間があるんだろ。
それが……羨ましいんだよ。
俺は、ほんの短い時間しか一緒にいられなかった。
それなのに福様や、白ちゃん、水ちゃんまで……。
ノアは、みんなにあんなに優しい。
俺だけのノアなのに……なんで、あんなに優しい良い子なんだよ。
でも、その間、俺はずっと待つしかなかったんだからな……何年も何年も……ただひたすら待っていたんだよ」
「いやいや……」
ヴァリアードが呆れたように口を挟んだ。
「俺だって、生まれてから一度も会えないまま十年経ってるぞ。
最近になって、ラルフから手紙をもらって、そこからようやくルノアとの付き合いが始まったんだ。
それにクローだって、俺からルノアの話を聞いたこともなかっただろ?
ルノアの魔力を感じたことだってなかった。
ラルフは、ルノアの父親だぞ。
そこは勘弁してやれよ。
お前のお義父上だろ?」
「……分かってるよ」
クロリナラドは、少しだけ困ったように答えた。
「善処する。
でも……本当は全部、俺のものにしたかった。
ノアの最初のものも、全部……。
だって、本当は俺のノアなんだから……」
「……重症だな」
ヴァリアードが小さく呟く。
するとクロリナラドは、魔空間から一冊の本を取り出した。
「これを読んでくれ」
「何だ、これ?」
「竜皇国の竜人に向けた『番』の教本だ。
俺の母上が書いたものだ。
かなりの発行数があるから、竜皇国では番について学ぶための本として普通に読まれている。
よく読んでくれ。
できれば、ノアにも渡してほしい」
ヴァリアードは本を受け取り、表紙を眺めた。
「……ああ、もう面倒だから、今ここで全部言え。
気に入らないことがあるなら、全部言ってしまえ。
本当に……番って、面倒だな。
番……面倒すぎる……」
するとラルフが静かに笑った。
「クロー。
言ってくれなければ、私たちには分からないことだよ。
でも、今話してくれたことは大事なことだ。
私も、エミリアの宝物をルノアに渡したんだ。
正直に言えば、宝物を一つも渡したくないという気持ちは、私にもよく分かる。
けれど、それ以上に大切なのは、約束をきちんと果たすことだ。
エミリアなら、きっと私がルノアに宝物を渡したことを褒めてくれると思っている。
だから、クローの気持ちも分かるよ。
自分だけのものにしたい。
誰にも渡したくない。
自分が一番近くにいたい。
それは、番なら自然な気持ちなんだろう。
それでもクローは、最後にはルノアの気持ちを優先したんだろう?」
クロリナラドは黙って頷いた。
「だったら、それでいいんじゃないか?」
ラルフは穏やかに続けた。
「ルノアがこの短い時間でクローを信頼するようになったのは、番だからという理由だけではないと思う。
クローがルノアの気持ちを考えて、大切にしていることが伝わっているからだよ。
これから二人は、長い時間を一緒に過ごすんだろう。
それなら、話さなければ分からないことも、これからたくさん出てくる。
嬉しいことも、寂しいことも、嫉妬することもあるだろう。
だからこそ、ちゃんと言葉にしてくれ。
私たちにも、ルノアにも。
黙って我慢するだけでは、いつか伝わらなくなる。
クローが何を思っているのか、何を大切にしているのか……。
それを、これから少しずつ教えてくれればいい。
番だからこそ、言葉にしなければ分からないこともあるんだから」
クロリナラドはしばらく黙っていた。
やがて、手元の本に視線を落とし、小さく息を吐く。
「……分かった。
ちゃんと話すようにする。
ノアにも……少しずつ伝えるよ」
その声には、先ほどまでの張り詰めたものとは違う、少しだけ素直な響きがあった。




