45 クローとお義父上 悪意返し?!
「クローが公の場に出ないようにしているのに……第二王子妃の親である私が、国外から来た人間として目立つようになれば、また邪心を向ける者が出てくるのではないか?
それに、ルノアは魔石作りで負担を抱えていないのか?
魔素の多い天空都市でさえ魔石が不足することがあるのだろう?
スタンピードを完全に抑えられているわけではないのに、ルノアの負担が増えてしまわないか?
もしスタンピードが起きたら、ルノアが『自分のせいだ』と悩むことにはならないのか?」
ラルフが一つずつ確認するように尋ねた。
「クローと呼んでくれ。頼むよ、お義父上」
「分かった。クロー……」
ラルフがそう呼ぶと、クロリナラドは少し安心したように頷いた。
「国外から来た者に宰相をお願いした、なんて話をすれば、邪心を向ける者は確かに出てくるだろう。
だが、竜皇国内では、今はもうその心配はないと言い切れる。
王太子に会えば、その理由もすぐに分かるよ。
王や王太子の近くは、かなり厳重に警護されているからな。
それに……俺としては、お義父上とヴァリアードには、二人とも竜皇国にいてくれたほうが安心なんだ。
何より、ルノアが二人と離れて悲しむことが、俺にとって一番の心配だからな。
それから、竜皇国の王や王太子の近くは魔力がかなり強い。
俺やルノアに比べれば少ないとはいえ、普通の竜人には負担が大きいんだ。
だから、あの二人の側で働ける人材はいつも不足している。
竜人の中には、幼い頃から学業と政務を学びながら、そのまま王族を支える仕事に就く者も多い。
もちろん、単純に人手が欲しいだけじゃない。
人格形成や思考の仕方を見ながら、その者がどのような仕事に向いているのかを判断する意味もある。
だから、お義父上やヴァリアードが来てくれれば、かなり助かると思っている」
すると、それまで黙って聞いていた福が羽根を揺らした。
「ルノアの魔石のことは、福が説明するよ!」
「頼む」
「まず、スタンピードは誰かが完全に管理できるものじゃないんだよ。
魔獣は、この世界に一緒に住んでいる生き物だから。
どれだけ対策をしても、完全になくすことはできない。
それに、ルノアが作る魔石と、天空都市で使われている魔石では、役割が違うんだよ。
竜神様がルノアにお願いしているのは、世界中のスタンピードを一人で防いでもらうことじゃない。
ほんの少しだけ、手伝ってもらえればいいんだって。
ルノアは魔力量が多すぎて、それだけでも身体に負担がかかるからね。
だから、ルノアが苦しくならないように、余分な魔力を減らす分だけ魔石を作ってもらう。
魔石を作ることでルノアの身体が楽になるなら、それはルノアのためにもなる。
そして、その魔石が必要な場所で役に立つなら、世界にとっても助けになる。
クロリナラドも一緒に作業しているから大丈夫だよ。
それに、福はルノアの魔力が減りすぎたら、絶対に無理をさせない。
ちゃんと福が守るから、お父様もヴァリーも福に任せてね!」
福はそう言うと、羽根を大きく膨らませ、胸を張って自分の胸をぽんと叩いた。
その姿に、ラルフとヴァリアードは思わず顔を見合わせた。
「……頼もしいな」
ラルフが微笑むと、福はさらに胸を張った。
その様子を見ていたヴァリアードが、ふと別の疑問を口にした。
「では、結婚式はするのか?
いつ頃を考えている?
今まで見てきたが、クローは異性からかなり人気があるだろう?
最強の腕輪があるとはいえ、ルノアが竜皇国内で口頭で悪意を向けられることはないのか?
そのあたりは本当に大丈夫なのか?」
ヴァリアードは、ルノアがいない今だからこそ聞けることを尋ねた。
クロリナラドは少し呆れたようにヴァリアードを見る。
「もう、二人の前で誓いを交わしただろう。
そもそも、白銀の番の誓いを他人に見せること自体、本来なら絶対にしない。
ルノアが『二人の前で』と言ったから、今回は特別にしたんだ。
それに、竜皇国には、この国のような結婚式というものはない。
ノアが十八歳になれば成人だから、その誕生日の前日に、正式な番として家族に紹介する場を設ける予定だ。
出席するのは、王夫妻、王太子夫妻、それから……王太子の子供たちは、俺が断るかもしれないな。
そして、お義父上とヴァリアード。
正式に番として紹介するなら、その程度で十分だと思っている」
「随分と少ないな」
「俺としては、それすらしたくないくらいだ。
本音を言えば、他の者にルノアの可愛い姿を見せたくないに決まっているだろう?」
クロリナラドが真顔で言うので、ヴァリアードは苦笑した。
「それで、クローはかなり女性に人気があると思うが?」
「俺がもてるかどうかなんて、一切興味がない。
俺が気にしているのはノアだけだ」
そして、クロリナラドは少し首を傾げた。
「それより……二人とも、まだ気づいていないのか?」
「何に?」
「指輪だよ」
クロリナラドは二人の指を見た。
「そこには、俺の『悪意返し』が付いている。
竜人皇族と、その番に悪意を向けて、何事もなく済むと思われていること自体が問題なんだ。
相手が誰であろうと、侮れば、それ相応のことを学ぶことになる。
だから、口頭で何か言われたとしても、二人が心配する必要はない」
「……かなり強力なもの?」
「もちろんだ。ノアに足りなかった部分は俺が追加した。
ありとあらゆる不足分を補って、三つの守りにした。
もう外れないから、諦めてくれ」
あまりにも当然のように言うクロリナラドに、ヴァリアードは苦笑するしかなかった。
「竜人は数が減っていて大変な時期が続いていたと聞いているが、それはもう大丈夫なのか?」
「ああ。その問題も、実は何年も前に解消されている。
ただ、情報を制限しているから、外にはほとんど知られていないだけだ。
竜皇国には、まだ表に出していない事情がいくつもあるからな」
クロリナラドは二人を見つめた。
「だから、二人とも一度、竜皇国の天空都市へ行こう。
言葉で説明するより、実際に見てもらったほうが早い。
竜神様も、きっと早くノアに会いたがっている。
二人も一緒に来てくれ。
竜皇国が本当にどんな場所なのか、自分の目で確かめてほしい」
その言葉に、ラルフとヴァリアードは顔を見合わせた。
まだ不安がすべて消えたわけではない。
それでも――実際に見て、自分たちで確かめること。
それが、これからのことを考えるための最初の一歩になるのかもしれなかった。




