44 クロリナラド殿下の仕事
「クローは公の場には出てきていないけど、仕事はしているのか?
ルノアにも、王子妃としての社交や仕事はあるのか?」
ラルフが尋ねると、クロリナラドは少し考えてから答えた。
「基本的に、番がいる竜人は社交には出ない。
番がいない者が、番やパートナーを見つけるために社交の場へ出ることが多いからな。
俺自身も、以前も今後も、番を得てからは必要以上に公の場へ出ることはなくなった。
ルノアも同じだ。番の俺がいる以上、王子妃として社交を続ける必要はない。
もちろん、ルノア自身が望むことがあれば別だ。
だが、王子妃だからという理由だけで、無理に人前へ出したり、社交をさせたりするつもりはない。
俺の主な仕事は、世界魔法会議への出席と魔石の管理だ。
世界中で起こるスタンピードの予兆や、過去から蓄積されている発生記録を管理している。
地域によっては長い年月をかけて魔力の流れが変化することもあるからな。
使役している竜たちに各地を見て回ってもらい、異常がないか確認してもらうこともある。
人の目だけでは分からないことも、竜なら気づける場合があるからな。
それから、竜皇国の天空都市の管理も俺の仕事だ。
天空都市は空に浮かんでいるだろう?
あれを維持するための魔力や設備の管理、安全確認も俺が担当している。
ただし、城の中の運営に関する仕事は一切していない。
社交も、王家の行事の手伝いも、今後はしないと宣言している。
王太子の子供たちも優秀だからな。
今はまだ成長を見守っている段階だが、あと数年もすれば、城内の仕事も少しずつ任せていくつもりだ。
俺が何でも抱え込む必要はない。
俺には俺にしかできない仕事があるからな」
ラルフは黙って頷いた。
「以前、天空都市が襲撃されたり、魔石戦争が起こったりしただろう?
あれほどのことがあった以上、これから先、本当に大丈夫なのか?」
クロリナラドの表情が少しだけ曇った。
「ああ……二度と同じ間違いはしない。
以前の俺たちは、天空都市なら安全だと思い込んでいた。
空に浮かんでいるから、地上の国々よりも安全だと。
その考えが、完全に間違っていた。
安全だと思っていたからこそ、警戒が足りなかった。
その結果、天空都市が襲撃され、魔石戦争まで起こった。
だから今は、当時とは全く違う。
世界中の情勢を把握するため、俺は世界魔法会議にも出席している。
各国で何が起こっているのか、どんな問題を抱えているのか。
知らなければ、また同じことを繰り返すことになるからな。
それでも……」
クロリナラドは一度言葉を止め、ラルフとヴァリアードを見た。
「お義父上が言っていた通りだ。
俺がノアを竜皇国へ連れて行ったら……二人とは、もう永遠に会えなくなる」
その言葉に、ラルフが静かに尋ねた。
「クローがそこまで心配していることは、他に何かあるのか?
俺たちも、お互いに意識しておいたほうがいいことがあるなら聞いておきたい」
「一番の心配は、やはり二人の安全だ。
二人に何かあれば、ノアはきっと、自分のせいだと一生後悔するだろう。
ノアは優しいからな。
自分が竜皇国へ連れて行ったせいで、二人を危険な目に遭わせたと思えば、どれだけ時間が経っても自分を責め続ける。
だから、俺は二人にもお願いしたい。
仕事をしなくてもいい。
無理に竜皇国で何かをする必要もない。
それでも……竜皇国への移住を、真剣に考えてほしい。
頼む」
クロリナラドは、二人に向かって頭を下げるようにして言った。
「竜皇国へ移住したからといって、ここへ戻れなくなるわけじゃない。
移動門があるから、世界中どこへでも行ける。
必要があれば、いつでもこの国へ戻ってくればいい。
むしろ竜皇国を拠点にすれば、今までよりも自由に世界を回れると思う。
……行ったことのない国に、行ってみたくはないか?」
そう言って、クロリナラドはヴァリアードを見る。
「ヴァリアードは、昔から世界中を回ってみたいと話していただろ。
竜皇国に住めば、それもできる。
危険な場所へ行くときは、移動門を使えばいい。
必要なら竜皇国の者にも同行してもらえる。
今まで長い間、できなかったことを、これから少しずつやっていけばいいんじゃないか?」
ヴァリアードは黙ってクロリナラドの言葉を聞いていた。
自分のためだけではない。
ルノアのため。
そして、二人を心配するノアのため。
クロリナラドが移住を勧めている理由が、少しずつ伝わってくる。
「……そうか」
ヴァリアードは小さく呟いた。
「世界中を回る、か……」
その言葉を口にした瞬間、遠い昔に抱いていた夢が、ほんの少しだけ現実味を帯びたように感じられた。




