439 妖精様、精霊様がもたらすもの
精霊王様の愛し子様の素性を探ろうとした者たちが不運に見舞われる一方、愛し子様の幸せを願い、自分たちの暮らしを見直す者たちもいた。
自然を大切にする暮らしへと大きく舵を切った人々のもとには、温かな恵みがもたらされていた。
森を守り、川を汚さず、必要以上に木々を伐採しない村では、畑や果樹園の実りが増え、森には木の実や薬草が豊かに育ち、川には魚が集まった。
これまで姿を見かけなかった妖精様や精霊様たちも、村のあちこちに現れるようになった。村人たちが傷ついた動物を助け、枯れかけた木に水を与えると、小さな光が舞うこともあった。
豊かな収穫は人々の食卓を満たし、村人たちは感謝を込めて、窓際の小さなお皿に収穫物を供えた。
余った果実や薬草、木工品を市場で売れば、その品質のよさが評判となり、遠方から商人が訪れるようになった。暮らしに余裕が生まれると、人々は道や水路を整え、困っている者を助け合った。
こうした出来事は、商人や旅人を通じて世界各地へ広まっていった。
自然を大切にする土地では豊かな実りと繁栄がもたらされる一方、精霊王様の愛し子様の素性を探ろうとした者たちは、財産や信用を失うなどの不運に見舞われていた。
その違いを知った各国では、森を守る決まりの見直しや川の清掃、荒れ地の再生が進められた。商人たちも、自然を大切にして作られた品物を積極的に扱うようになった。
もちろん、誰もが心から考えを改めたわけではない。利益を求める者もいれば、妖精様や精霊様の怒りを恐れて行動を変えた者もいた。
それでも、自然を慈しみ、妖精様や精霊様への敬意を忘れないことが、世界の豊かさと平穏につながるという考えは、確実に広がっていった。
かつて愛し子様の誘拐を企てた権力者たちが厳しい罰を受けたことも、王族や重臣たちにとって大きな教訓となっていた。
精霊王様の愛し子様は、国の利益のために利用できる存在ではない。
南の精霊王様の愛し子様の素性を探らず、西の精霊王様の愛し子様であるリシュー様の学業を妨げない。そして、二人の意思を尊重し、穏やかな暮らしを静かに見守る。
その願いは、ようやく世界中の人々に理解され始めていた。
こうして世界が少しずつ落ち着きを取り戻していく様子を、ヴァリアードとリシューは静かに見守っていた。
二人は、妖精様や精霊様に任せることを選んだのだ。
もちろん、妖精様や精霊様の中にも、感情を優先して問題のある行動を取る者はいた。
そのたびにヴァリアードが介入すれば、問題はすぐに解決するかもしれない。
しかし、それでは彼ら自身が学び、成長する機会を奪ってしまうことにもなりかねなかった。
そんなある日、リシューはヴァリアードにそっと語りかけた。
「ヴァリアード、もう少し様子を見ませんか?」
「そうだな。だが、問題が起きているのを見過ごすのは難しい」
ヴァリアードの言葉に、リシューは静かに頷いた。
「お気持ちはわかります。でも、世界中の問題をすべてヴァリアードが解決する必要はないと思うのです。西の精霊王様も、いつもおっしゃっています」
リシューは、精霊王との会話を思い出しながら続けた。
「『見守ることで成長を促すこともある。はじめから何でもできる者などいない。失敗を経験しなければ学べないこともある。妖精も精霊も、必ず学び、成長していく。リシュー、お前もこれから長い時を生きるのだから、自分の暮らしを大切にしなければ続かない。
間違ったことを許す必要はないが、失敗から学ぶ時間も必要なのだ。
焦らず、見守ることを覚えてほしい』と」
リシューは一度言葉を切り、ヴァリアードを見つめた。
「ヴァリアードは優秀ですから、どんな問題でも解決できてしまいます。でも、だからといって、すべてを背負わなくてもいいのではないでしょうか」
その言葉に、ヴァリアードは静かに目を伏せた。
西の精霊王様がリシューに伝えたかったのは、妖精や精霊の成長だけではなかった。
ヴァリアードは優秀であるがゆえに、問題を見つければ自ら解決しようとする。誰かに任せるより自分で動いたほうが早いと考え、気づけば必要以上に働き、世界中の問題まで背負い込んでしまう。
そのことを、西の精霊王様は案じていたのだ。
長い時を生きるヴァリアードには、世界を支える役目だけでなく、自分自身の人生を楽しむ時間も必要だった。
そして、リシューと過ごす時間も。
どれほど多くの問題を解決できたとしても、自分の時間をすべて誰かのために使い続ければ、いつか心も身体も休まらなくなる。
西の精霊王様は、ヴァリアードが無理を重ねることなく、リシューと共に穏やかな日々を重ねていくことを願っていた。
その思いを、リシューに託したのである。
「ヴァリアード。私も一緒に考えます。必要なときには力を貸し、任せられることは任せていきましょう。二人で過ごす時間も、大切にしたいですから」
ヴァリアードはリシューを見つめ、やがて穏やかに微笑んだ。
「……そうだな。リシューとの時間まで後回しにするわけにはいかないな」
二人は再び、世界の様子に目を向けた。
すべてを自分たちで解決するのではなく、必要なときには手を差し伸べ、それ以外は信じて見守る。
それもまた、長い時を生きる者に必要な役目なのだと、ヴァリアードは少しずつ理解し始めていた。




