438 世界を揺るがす契
西大陸ランボトル精霊国の国王リヤンガが、すでに西の精霊王様の愛し子様に『運命の番』が見つかり、『命環の契』を交わしていることを発表していた。
西の精霊王様の愛し子様は未成年であるため、学業を優先し、お相手の身元は公表しない。
また、婚約式をはじめとする催しも一切行わない。
その方針が示されていたにもかかわらず、二人の絆を自国の利益につなげようとする者たちは後を絶たなかった。
各国の王族や重臣たちは、お相手の素性を探ろうと、あらゆる手段で情報を集め始めた。
事態を重く見た精霊協会の長は、追加の発表を行った。
これまで公表を控えてきたものの、執拗な詮索によって状況は悪化する一方だったからだ。
そこで、西と南の精霊王様は連名で、世界各地へ『お告げ』を届けられたのである。
『南の精霊王様の愛し子様が見つかったことを、ここに知らせる。
その方こそ、西の精霊王様の愛し子様の『運命の番』であり、すでに『命環の契』を交わしたお相手である』
さらに、そのお方はどの国にも所属せず、西と南の精霊王様が後ろ盾となってお守りになることも伝えられた。
この発表は世界各地の新聞社にも届けられ、各紙の一面を飾った。
発表の最後には、二人の願いが記されていた。
『二人が望むのは、穏やかで静かな暮らしである。
妖精様や精霊様、そして自然を大切にし、二人の意思を尊重して、静かに見守ってほしい』
精霊王様たちの意思が明確に示されても、それでも愛し子様の素性を探ろうとする者たちはいなくならなかった。
ある貴族に雇われた調査員たちは、手掛かりを求め、マクアリール公爵家が管理するタスワンズ湖周辺の森へ無許可で立ち入った。
森の奥へ進んだ途端、無数の妖精様や精霊様たちに取り囲まれた。
持ち物を奪われ、地図を木の枝に吊るされたうえ、何度歩いても同じ場所へ戻され、出口を見つけられなくなった。
日が暮れ、食料も水も尽きかけた頃、調査員たちはようやく、自分たちが妖精様や精霊様たちの怒りに触れたのだと悟った。
「も、申し訳ありません! もう二度と、この森には入りません! どうか、どうかお許しください!」
調査員たちは地面に膝をつき、震えながら何度も謝罪した。
すると、それまで周囲を飛び回っていた妖精様や精霊様たちが一斉に姿を消し、目の前に森の出口へ続く道が現れた。
調査員たちは、転びそうになりながらも必死に走り、ようやく森を抜け出した。
しかし、安堵する間もなく、立ち入り禁止区域への無断侵入を理由に、マクアリール公爵家の騎士団に拘束された。
同じ頃、調査を指示した貴族や関係者たちの身にも、奇妙な異変が起こり始めた。
彼らは夜になると、誰もいない壁に向かって泣きながら謝罪を繰り返すようになった。
「もう二度と妖精様、精霊様たちのお怒りに触れません……」
何もない場所に怯え、許しを請う姿に、周囲の者たちも恐怖を覚えた。
調査員たちから森での出来事を聞いた依頼主は、すぐさま調査の中止を命じた。
それでも、なお欲を捨てきれずに調査を続ける強者たちはいた。
しかし、彼らの周囲では資料の消失や商談の破談、財産の損失といった不運が相次いだ。
さらに、西の精霊王様の愛し子様を誘拐し、自国の管理下に置こうと企てた権力者たちも、計画の実行前から災難に見舞われた。
連絡手段は次々と故障し、馬車は動かなくなり、秘密の書類は関係者の目に触れる場所へ流出した。
隠していた不正まで明るみに出たことで協力者たちは離れ、誘拐計画は失敗に終わった。
企てた者たちは財産と信用を失い、精霊協会を通じて謝罪を申し出た。
しかし、口先だけの謝罪では許されなかった。
最終的に、彼らは計画の全容を公表し、不正によって得た財産を返還したうえで、法に従って裁かれることとなった。
それでも、真摯な謝罪と償いが示されるまでは、彼らの周囲で続いていた異変が収まることはなかった。
こうした一連の出来事は各国へと広まり、精霊王様の愛し子様を利用しようとする者たちへの恐怖の警告となった。
人々は、妖精様や精霊様が愛し子様たちを守っておられること、そして、その意思を踏みにじる行為が、どれほど恐ろしい結果を招くのかを思い知ることとなった。




