437 ヴァリアードの報告
竜皇国の応接室には、いつもとは少し違う緊張感が漂っていた。
リアム国王夫妻とルディノール王太子夫妻が並んで座り、その向かいにはクロリナラドとルノア、福がいる。ルノアの隣には、父のラルフも席に着いていた。
さらに、精霊協会の長であるエルフのフルエフィスと、その番である妻のエリも同席している。
そして、ヴァリアードとリシューは隣り合って座っていた。
リシューは、そっとヴァリアードの手を握った。
普段どおり落ち着いて見える彼も、いつもとは違う顔ぶれを前に、少なからず緊張している。それが、握った手から伝わってきた。
ヴァリアードもまた、余裕のある表情を保ってはいたが、これから話す内容を思えば、緊張せずにはいられなかった。
今日は単なる挨拶の場ではない。自分に起きた変化とリシューとの関係、そして二人のこれからについて、関係者に正式に伝えるための席だった。
「では、改めて話をさせてもらおう」
ヴァリアードは一同を見渡し、静かに口を開いた。
「このたび、南の精霊王様から、私が『世界の繋ぎ手』であり、『南の精霊王様の愛し子』でもあると告げられた」
室内が静まり返った。
すでに話を聞いていた者もいたが、本人の口から改めて告げられると、その意味の大きさを実感せずにはいられなかった。
ヴァリアードは隣に座るリシューへ目を向け、続けた。
「さらに、リシューが『西の精霊王様の愛し子』であり、私の『運命の番』であることもわかった」
リシューの頬が、ほんのりと赤く染まった。
「私たちは古い盟約に従い、『命環の契』を結んだ」
「命環の契……」
フルエフィスが、確かめるように呟いた。
「ああ。妖精様や精霊様たちが、互いを生涯の伴侶と認める際に交わす誓いだ。私たちも、その盟約に従った」
ヴァリアードは、リシューの手を優しく握り直した。
「そして、私たちは命を分け合った」
その言葉に、室内がざわめいた。
「……それは、長命になったということか?」
リアム国王が尋ねた。
「ああ。精霊王様方のお話では、これからはエルフと同じように、長い時を生きることになるそうだ」
「なるほど……」
リアムは深く息を吐いた。
世界最高峰の魔術師として知られるヴァリアードが、精霊王様の愛し子様であり、世界の繋ぎ手でもある。さらに、リシューとの運命の結びつきまで明らかになったのだから、驚くのも無理はなかった。
それでもリアムは、まず二人を祝福することにした。
「ヴァリアード、リシュー様。おめでとう。二人が互いを生涯の伴侶と認めたことを、心から祝福する」
リアムは穏やかな笑みを浮かべた。
「改めて自己紹介をしておこう。私は竜皇国の国王リアム。そして、こちらが私の番のアリエナだ。二人とも、名前で呼んでくれて構わない」
「ありがとうございます、リアム様、アリエナ様」
リシューは丁寧に頭を下げた。
続いて、ルディノールが口を開いた。
「私からも、お祝いを申し上げる。私は竜皇国の王太子ルディノール。そして、こちらが私の番のユキノアだ。私たちも名前で呼んでくれ。私の息子たちと同級生だと聞いている。フォル ジュスト サンセールもよろしく頼む」
「はい。ルディノール様、ユキノア様。これからよろしくお願いいたします」
リシューは二人に微笑んだ。
次に、フルエフィスがリシューへと向き直った。
「初めまして、リシュー様。『命環の契』を結ばれたこと、おめでとうございます。
私は精霊協会の長を務めているフルエフィスです。
父が王位を継いで、次の王になるとは聞いていますが……皆長生きなので、いつ継ぐのかはわかりません。『様』はつけず、フィスと呼んでください。こちらは、私と『命環の契』を交わした妻のエリです」
「初めまして、リシュー様。よろしくお願いいたします」
エリも、少し緊張した様子で微笑んだ。
「フィス、エリ、ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
リシューは嬉しそうに微笑み返した。
挨拶が一通り終わると、リアムは改めてヴァリアードへ視線を向けた。
「では、これからのことについて聞かせてほしい。
リシュー様との生活を、どのように考えている?」
場の空気が、再び真剣なものへと変わった。
ヴァリアードは少し考えてから答えた。
「まずは、これまでどおり魔術師としての仕事は、続けるつもりだ。
『世界の繋ぎ手』としての『御用聞きと御使い』も変わらない。
今後はリシューも手伝ってくれると言っている」
そう言って、隣のリシューに目を向ける。
リシューは小さく頷いた。
「仕事の都合で拠点を移動することも多いし、いくつか家もある。これからは二人で、それらを行き来しながら暮らしていくつもりだ」
「精霊王様方から、具体的な指示はあったのか?」
リアムが尋ねた。
「どこの国にも所属しないことについては、西と南の精霊王様が『お告げ』として世界に伝えてくださるそうだ。
ただ、私自身が『愛し子』であり『世界の繋ぎ手』であることは、公表しないつもりだ」
ヴァリアードは少し考えるように視線を落とした。
「改めて元侯爵家の歴史書を調べてみたが、『世界の繋ぎ手』の存在が公表された記録はなかった。
私も幼い頃から、精霊様や妖精様と話せることは命の危険につながるため、秘密にするよう親から言われて育ったからだ。」
それは、彼自身が長年守ってきた教えでもあった。
「私たちの今後については、まだ決まっていないことも多い。その時々の仕事や状況に応じて、精霊王様方とも相談しながら決めていくつもりだ」
その答えに、ラルフは静かに頷いた。
二人のこれからを、周囲が一方的に決める必要はない。本人たちの意思を尊重し、その時々で最善の道を選んでいくことが大切だった。
「それなら、竜皇国としても必要な支援は惜しまない」
リアムが力強く告げた。
「ただし、国の都合で二人の生き方を決めるつもりはない。お前たちが望む道を選べばいい」
「ありがとう、リアム。そう言ってもらえると助かる」
ヴァリアードは素直に礼を述べた。
ルディノールも頷いた。
「魔術協会についても、必要なことがあれば相談してくれ。私が協会の長を務めていることも、今後、公表するつもりはない」
「そうか。今後は『世界の繋ぎ手』としての役割もあるからな。魔術協会と精霊協会が協力できる仕事も増えるかもしれない。フィス、エリ、これからも頼む」
「もちろんです」
フルエフィスが応じた。
「精霊協会としても、できる限り協力します。種族の違いにかかわらず、人族もエルフも獣人も、妖精様や精霊様たちも、皆が納得できる形を探していきましょう」
「ああ。そうしていこう」
ヴァリアードは迷いなく答えた。
そこで、これまで話を聞いていたクロリナラドが口を開いた。
「私からも、一つ伝えておきたいことがある」
皆の視線がクロリナラドへ集まった。
「私もルノアと同じ『竜神様の愛し子』だ。このことを知っていたのは父だけだったが、今後もルノアと同じく、公表するつもりはない。」
フィスたちは、思いがけない告白に驚いた様子を見せた。
クロリナラドは苦笑しながら続けた。
「私たちの力については、ある程度わかると思うが……
魔力量は私のほうがルノアより多いが、魔術の腕ではまったく敵わない」
「ラド様……」
ルノアが隣から見上げると、クロリナラドは優しく微笑んだ。
「竜神様の愛し子として、私たちは竜神様のお言葉を伝え、皆が安心して暮らせる世界を守るために力を尽くしていく」
そして、一同を見渡した。
「精霊様や妖精様をはじめ、すべての種族が平等に暮らせる世界を築くこと。自然を守り、竜神様への敬愛を伝えていくこと。それが、私たちの大切な務めだ。これからも、どうぞよろしくお願いする」
ルノアもゆっくりと頭を下げた。
「皆様、よろしくお願いいたします」
その隣で、福が静かに羽を動かした。
「竜神様からお言葉を預かっているよ。
『皆、心穏やかに、健康に気をつけて過ごしてほしい。いつも真摯な祈りをありがとう。リシュー、ヴァリアードを頼む』 だって」
福の言葉に、一同は竜神様への敬意を込めて頭を下げた。
クロリナラドは皆の反応を確かめてから、もう一つの話題を切り出した。
「それから、皆が身につけているイヤーカフについても説明しておこう」
その言葉に、何人かが自分の耳元へ手をやった。
「そのイヤーカフには、身を守るための機能だけでなく、いくつかの機能を追加してある。先ほど、私とルノアで手直しをさせてもらった」
クロリナラドは隣のルノアに目を向け、柔らかく微笑んだ。
「ノアが私を心配して、機能を見直してくれたんだ。ありがたいことだが、せっかくの機能も使いこなせなければ意味がない。皆も、少しずつ練習して、自分に合った使い方を身につけてほしい」
ルノアは照れたように微笑み、クロリナラドの言葉に小さく頷いた。
それぞれが耳元のイヤーカフに触れ、その力を確かめるように視線を交わす。
大切な人を守りたいという思いから生まれた贈り物は、これから彼らを支える新たな力となる。
それぞれの立場も、担う役目も違う。それでも、皆が目指すものは同じだった。
誰もが安心して暮らせる世界を守り、種族の垣根を越えて支え合うこと。
そのために何ができるのか。集まった一同は、これからの協力に思いを巡らせていた。




