↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したのでレアアイテム集めたい…えっヒロイン退場してしまいました  作者: 5H


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
435/452

435 失われた王城と守るべき人々

 アズマサール共和国の王都から山脈へ向かって、長い長い避難者の列が続いていた。


 最初の避難所では、怪我人や山を登ることが難しい老人、幼子を抱えた家族などを優先して受け入れていた。


「体力に余裕のある方は、竜神様の愛し子様の魔力糸に沿って山を登ってください。山中には、竜神教会が用意した避難所がいくつもあります。

 慌てず、焦らず、押し合わず、落ち着いて行動してください。皆さんの協力が必要です」


 アマン家の者たちが避難者に説明し、喉の渇いた者には水を渡していく。山道の先々にも水や食料が用意されていることを伝え、体力のある者から順に送り出していた。


 竜神教会の職員たちは避難者の案内にあたり、精霊協会や魔術協会の職員たちは、負傷者の治療や物資の配給に追われていた。


 各地のギルドからも応援が駆けつけ、避難者名簿の作成や、離れ離れになった家族の安否確認が進められている。


 混乱は続いていたものの、人々は互いに助け合い、少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。


 その避難所の一角に設けられた執務室では、アマン家のジェイドが、次々と届けられる報告書に目を通していた。


「東側の避難路は確保できたか?」


「はい。魔術協会の方々が、道沿いに誘導用の魔道具を設置してくださいました。今のところ、大きな混乱は起きておりません」


「そうか。引き続き、体力のない者や子どもを優先して移動させてくれ」


「承知しました」


 報告に来た職員が退室すると、ジェイドは深く息を吐いた。


 避難してきた人々の中には、着の身着のままで逃げてきた者もいれば、家族と離れ離れになってしまった者もいる。


 失ったものは多いだろう。それでも、命さえあれば、もう一度やり直すことはできる。


 ジェイドはそう信じていた。


「あなた、少し休んでください」


 声をかけたのは、妻のヤイだった。


 彼女は温かい飲み物を机に置き、夫の顔を心配そうに見つめた。


「ずっと働き続けているでしょう?」


「今は休んでいる場合ではないからな」


「あなたが倒れたら、困る人がもっと増えるわ」


 穏やかな口調だったが、その言葉には確かな強さがあった。


 ジェイドは苦笑し、ようやく椅子の背にもたれた。


「……そうだな。少しだけ休もう」


 そのとき、扉が勢いよく開いた。


「ジェイド様! 緊急の報告です!」


 駆け込んできたのは、王都の状況を調べていた連絡員だった。


「どうした?」


「王都にスタンピードが到達しました!」


 室内の空気が一変した。


「王城周辺では大型魔獣が多数確認され、城門も突破されたとのことです。王城内部にも魔獣が侵入し、建物の崩壊が始まっていると……」


 連絡員は、手にした報告書を強く握りしめた。


「そして、先ほど新たな報告が届きました。王城は……完全に崩壊したそうです」


 誰も、すぐには言葉を発することができなかった。


 ヤイが静かに目を伏せる。


 ジェイドは報告書を受け取り、記された内容を確かめた。


 王城の尖塔は崩れ落ち、宮殿の大部分が瓦礫と化したという。


 国王や王太子、側妃たちの安否は確認できていない。王城に残っていた兵士や従事者たちについても、詳しい状況はわからなかった。


「……そうか」


 ジェイドは、ただそれだけを口にした。


 そこに怒りも、喜びもなかった。


 宰相ターリドの公爵家からは、これまで幾度となく支援を受けてきた。


 先ほども魔鳥便が届き、人族では到達することさえ難しい山頂の竜神教会から、ターリド夫妻が竜神様の愛し子様の魔力糸を守るため、できる限りの魔力を送り続けると連絡があった。


 その知らせを思い返し、ジェイドは報告書を見つめた。


 ターリドは、無駄な支出を削り、国王に改革を進言し続けてきた人物だ。それも一度や二度ではない。


 それでも、国王は変わらず、国を立て直すことはできなかった。


 ターリドは責任を感じ、ジェイドたちに詫びるとともに、これからはアマン家の後ろ盾となり、家族も含めて守ると約束してくれた。


 そして今、ターリド夫妻は山頂から魔力糸を支え、人々の命を守ろうとしている。


 国王が何を失ったのか、今さら考えても仕方がない。


 今、自分たちにできることは、ただ一つだった。


 皆で生き残ること。


 ジェイドは報告書を机に置くと、すぐに顔を上げた。


「王都から逃れてくる人々が、これからも増えるはずだ。受け入れの準備を進めてくれ」


「はっ!」


「負傷者を治療する場所を増やす。食料と水の確保も急いでくれ。家族を探している者がいれば、各地の避難者名簿と照合するように」


「承知しました!」


 連絡員が走り去る。


 ジェイドは休息を切り上げ、集まっていた職員たちに向き直った。


「王城に残っていた者たちの安否確認は、スタンピードが収まってから行う。今は、それぞれが自分の命を守ることを最優先にしてくれ。救助に向かうことは許可できない。二次被害が起きれば、助けられるはずの命まで失うことになる。皆の安全を第一に考えるんだ。いいな?」


 その言葉に、職員たちは真剣な表情でうなずいた。


「それから、貴族であっても例外ではない。横柄な態度を取る者が来ても、ほかの避難者と同じように対応してくれ。身分によって扱いを変える必要はない」


「……よろしいのですか?」


 職員の一人が、ためらいがちに尋ねた。


「何がだ?」


「王族や貴族の方々が助けを求めてきた場合も、同じ扱いでよろしいのでしょうか?」


「もちろんだ」


 ジェイドは迷うことなく答えた。


「どのような立場の人間であろうと、救助が必要な命であることに変わりはない」


 その声は静かだったが、揺るぎない意志が込められていた。


「私たちが守るべきなのは、目の前にいる人々だ。この先も生きていかなければならない人たちを、一人でも多く救う。それが今、私たちにできることだ」


 職員たちは深く頭を下げた。


 やがて、避難所の入口から新たな一団が到着した。


 衣服は泥や埃にまみれ、誰もが疲れ切った顔をしていた。家族の手を握りしめたまま泣いている子どももいれば、周囲を見回し、必死に誰かの姿を探している者もいる。


 職員たちはすぐに駆け寄り、水や食料を渡し、負傷者を治療場所へと案内した。


 ジェイドもまた、避難してきた人々のもとへ向かった。


「ここでは、ひとまず安心してください。まずは水を飲み、休んでください。ご家族を探している方は、担当の者に申し出てください。確認できる限り、こちらで協力します」


 その言葉に、人々の間からすすり泣く声が上がった。


「ありがとうございます……」


「本当に、助かった……」


 何度も頭を下げる人々に、ジェイドは静かにうなずいた。


 王城は失われた。


 国の中枢を担っていた者たちも、多くが行方不明となっている。


 これから先、この国がどうなるのかは、まだ誰にもわからない。


 それでも、目の前には生き延びた人々がいる。


 助けを必要とし、これからも生きていこうとする人々がいる。


 ジェイドは、崩れ落ちた王城に思いを巡らせることをやめた。


 今は過去を振り返るときではない。


 守るべき命を守り抜くために。


 彼は次の指示を出すべく、再び歩き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。