430 元王族のアマン家ジェイド
その頃、竜神教会の前では、クロリナラドが竜皇国の地上部隊から最終報告を受けていた。
「すべての防壁に問題はありませんでした。
最後にサラ様が持参された魔力糸を使用し、防壁は二重を基本とし、必要な箇所には三重に張り巡らせました。
水源と森林の確保についても、確認を終えております」
「分かった。地上部隊は順次、竜皇国へ帰還してくれ。ここから先は、アマン家の者たちに託そう」
「承知しました」
竜皇国の地上部隊員が一礼して下がると、クロリナラドは教会の外へ目を向けた。
そこには、元王族のアマン家のジェイドが立っていた。
クロリナラドは彼のもとへ歩み寄り、久しぶりに顔を合わせた友人に声をかけた。
「久しぶりだな、ジェイド。竜神様の愛し子様が用意してくださった魔力糸の設置は、すべて完了した。これで避難する人々を守るための備えは整ったはずだ」
「本当にありがとうございます。竜皇国の国王様、そして部隊の皆様、そして竜神様の愛し子様にも、最大の感謝をお伝えください」
ジェイドは右の掌を左胸に当て、太腿の近くまで深く腰を下げた。竜皇国の正式な礼だった。
「相変わらず真面目だな、ジェイド。今後はせめて立礼で頼むよ。
竜皇国は他国の政治や統治に干渉しない立場だ。
今回の支援も、竜皇国王から届けられたものだ。
俺たちにできるのは、ここまでだろう」
クロリナラドは、ジェイドの目をまっすぐに見つめた。
「これから先は、お前たち自身の手で道を切り開いていかなければならない。
皆と協力して、この苦難を乗り越えてほしい。
ジェイドなら、きっと国を再建できると俺は信じている」
「いただいた支援を無駄にはいたしません。竜皇国王様と竜神様への祈りと感謝を忘れず、私にできることを最後まで務めます」
ジェイドは一度言葉を切り、少しだけ表情を和らげた。
「この場で申し上げるのもためらいましたが……もう会えなくなるかもしれません。
今のうちにお伝えします。
クロー『運命の番』、おめでとう。本当に本当に良かった。どうか末永くお幸せに」
その言葉には、これから背負う責任への覚悟と、友人の幸せを願う気持ちが込められていた。
クロリナラドは一瞬目を見開いたあと、力強く頷いた。
「ありがとう。必ずまた会おう、ジェイド。いいな、約束だぞ!」
そう言い残すと、クロリナラドは待機していた竜の背に乗った。
竜皇国の部隊員たちも次々と竜に乗り、翼を広げていく。
大きな翼が風を巻き起こし、竜たちは一斉に空へと舞い上がった。
白い魔力糸が張り巡らされた山々を越え、竜皇国へ向けて飛び去っていく。
しかし、すべての部隊が撤収したわけではなかった。
魔力溜まりの調査を担当する一部の部隊は、その場に残り、竜に乗って上空から監視を続けていた。
魔術協会と精霊協会の長たちも、それぞれの場所から透視の魔法を使い、魔力溜まりを見守っていた。
そして、調査部隊から新たな報告が届いたのは、クロリナラドが竜皇国に帰還の途についた直後だった。
「魔力溜まりの状態が、以前よりも不安定になっています」
報告を受けたクロリナラドの表情が引き締まった。
防壁の設置は完了し、避難する人々を支える道も整った。竜神教会を拠点とする支援体制も、必要な物資渡し終えた。
だが、それらは迫り来る脅威に備えるためのものにすぎない。
魔力溜まりの異変が何を意味するのか、まだ断定することはできなかった。それでも、事態が悪化する可能性を考えれば、残された時間を無駄にはできない。
守るための備えは整った。
あとは、一人でも多くの命を救うために、迫り来る危機にどう立ち向かうか。
デューヌ山脈の空には、白い魔力糸の光が静かに広がっていた。
その光の下で、人々は明日へ向かって歩き続けている。
一方、スタンピードの発生源となる魔力溜まりが、確実に不穏な変化を見せ始めていた。




