425 竜神様との面会
今日は、クロリナラドが急ぎの報告があり竜神様との面会をした。
クロリナラドとルノアが竜神教会の奥の部屋へ入ると、福が嬉しそうに羽を広げた。
ふわりと風が巻き起こり、福の体がみるみる大きくなっていく。真っ白な羽毛に包まれた巨体は、あっという間に二人を覆い隠せるほどになった。
福が大きく羽ばたくと、広げられた両翼がルノアとクロリナラドをすっぽりと包み込む。
柔らかな羽毛に埋もれたルノアは、くすぐったそうに笑いながら福の体に手を添えた。
「福ちゃん、今日もとってもふわふわで可愛いね」
ルノアの言葉に、福は満足そうに喉を鳴らした。それから、二人を包んでいた翼をゆっくりと畳む。
その向こうには、果てしない雲海が広がっていた。
白銀の光に満ちた空間を澄み切った風が流れ、神聖な雰囲気に自然と背筋が伸びる。
竜神様は、姿を現した三人を見て、楽しそうに笑った。
「皆、変わりはないな? 新作の辛センベイをありがとう。本当に酒によく合ってな……。ヴァリアードとリシューの慶事もあったので、精霊王様たちと久しぶりに神酒を飲んだぞ。
その後に食べたシオマメダイフクも実に美味かった! 西の精霊王様もダイフクを気に入っておったぞ。また天上湖にも行ってやってくれ!」
前回の土産菓子を気に入ってもらえたことが伝わり、ルノアとクロリナラドは顔を見合わせて微笑んだ。
「それはよかったです。また皆様に喜んでいただけるものを考えますね」
ルノアが答えると、竜神様は満足そうに頷いた。
「うむ。楽しみにしておるぞ」
和やかな挨拶を終えると、竜神様は少し真剣な表情になった。
「マイルズのことも、本当にありがとう。長年の懸念がようやく払拭された。
『神眼』を持つ子供は、ほかにもいる。治療の要請があれば、また相談に乗ってほしい」
「はい。ノアと一緒に治療方法を考え、魔術医とも相談を進めています」
クロリナラドが丁寧に答える。
ルノアも頷き、マイルズの治療で判明したことを説明した。
「マイルズ様の体内には、これまで排出できずに蓄積した魔力が塊となって残っていました。
それが、魔力源から全身へ伸びる魔力の通り道を塞いでいました。」
竜神様は黙って耳を傾けていた。
「そこで、ラド様と私、マイルズ様の三人で手を繋ぎ、魔力を循環させながら、詰まった部分を少しずつ解消する処置を行いました。
特に首や心臓の付近には大きな魔力の塊がありましたが、慎重に流れを整えたことで、滞っていた魔力がわずかに動き始めました」
「それで、マイルズの体調も改善したのだな?」
「はい。マイルズ様ご自身も変化を感じ取られ、体が楽になったと喜んでいらっしゃいました」
ルノアは嬉しそうに微笑んだ。
長年、不調に苦しんできたマイルズに、ようやく改善の兆しが見えた。その成果は、同じような問題を抱える者たちにとっても希望になるはずだった。
「ただ、治療を続けるには、まだ課題があります」
ルノアの言葉に、竜神様は続きを促した。
「今日、竜皇国の魔術医にも同じ方法を試していただきました。
しかし、自分の魔力を針のように細くすることができなかったのです。」
ルノアが竜神様の前で魔道具を作って見せた。
「そこで、その部分を補う魔道具を私が作りました」
「魔道具で補えるのか?」
「はい。魔道具に魔力を流せば……細い針のような魔力を作り出すことができます。
体内の魔力の通り道を少しずつ広げ、滞った流れを整えていきます。
時間をかけて治療を続ければ、魔力が正常に循環するようになると考えています」
竜神様は感心したように頷いた。
「それならば、神具としたほうがよさそうか? クロリナラドはどう思う?」
問いかけられたクロリナラドは、少し考えてから口を開いた。
「神具とすることも選択肢の一つですが、まずは研究を進める必要があると思います。
今回の症状は、『神眼』を持つ子供だけに起こるものではない可能性があります」
「どういうことだ?」
「ノアは、幼い子供の中には、魔術や精霊魔法を学ぶ際に体内の魔力循環がうまくできず、魔力の通り道が詰まってしまう者もいるのではないかと考えています」
クロリナラドは、ルノアの予測を竜神様に伝えた。
ルノアが考えながら話しはじめた。
「魔力の流れが滞れば、体調を崩して練習を続けられなくなります。
そのまま詰まりが悪化すれば、命に関わる可能性もあります。
もし、この治療方法が有効なら、より多くの子供たちを救えるかもしれません。あと大人の魔力瘤の治療方法にも新しい療法として発展させたいと考えています。」
竜神様の表情が引き締まった。
「なるほど。ならば、治療方法を確立することが重要だな」
「はい。魔道具を量産できるようになるまでは、聖女様や聖人様たちに治療方法を学んでいただき、実際に治療できる方を増やしたいと考えています」
クロリナラドに変わった。
「将来的には、医学科のある世界各地の魔術学園に加え、竜皇国やヨーリアン帝国の魔術学院でも学べるようにしたいです。
現在、魔術協会と精霊協会の長にも相談しています」
「そうか……。よく考えておるな」
「ありがとうございます」
ルノアとクロリナラドは、揃って頭を下げた。
マイルズ一人の治療から始まった取り組みは、今後、世界各地の子供たちと現在治療方法がない大人の魔力瘤を救う道へと繋がるかもしれない。
今日の報告はそれだけではなかった。
クロリナラドは表情を引き締め、竜神様に向き直った。
「続いて、竜たちからの報告です。北大陸のアズマサール共和国で、魔力溜まりが危険な状態になっています。一か月以内にスタンピードが発生すると予測されています」
穏やかだった空間に、緊張が走った。




