424 西の精霊王様のイヤーカフ
マクアリール公爵家の私室では、クロリナラドとルノアが手を繋ぎ、二人の魔力をゆっくりと重ね合わせていた。
西の精霊王様へ贈るためのイヤーカフが二人の繋いだ手の上で銀色に光って浮いている。
以前、南の精霊王様へ贈ったものとお揃いになるよう、心を込めて作った。
銀色の光をまとったイヤーカフに、ルノアは穏やかな眼差しを向け、願いを込めるように言葉を紡いだ。
「西の精霊王様が、心身ともに健康で、穏やかに過ごせますように。
体力、気力、精霊力、魔力の強化。
聖域の自己浄化力と結界力の強化。
そして、あらゆる悪意、言霊、呪い、術式を返す守護と癒しを」
光が落ち着くと、イヤーカフは完成を待つかのように静かな輝きを放った。
「大樹の形をした神水魔石をつけて」
ルノアが告げると、イヤーカフに取り付けられた神水魔石の表面に、美しい大樹の姿が浮かび上がった。
クロリナラドとルノアは、完成したイヤーカフを見つめて微笑んだ。
「できたな」
クロリナラドが片方を手に取り、込められた魔力の状態を確かめる。
「はい。南の精霊王様にお贈りしたものと同じように、西の精霊王様にも喜んでいただけると嬉しいです」
「私たちの魔力も十分に馴染んでいる。守護の力も安定しているな。これなら、きっと気に入っていただけるだろう。一度天上湖にもご挨拶に行きたいな。」
二人は最後にもう一度、イヤーカフの仕上がりを確かめた。
そこへ、サラナが訪れた。
「サラナ、こちらを西の精霊王様へお届けしてもらえますか?」
ルノアが差し出すと、サラナは両手で丁寧に受け取った。
「かしこまりました。素晴らしいお品ですね。お二人の魔力と願いが込められていることが、よく伝わってまいります。責任を持ってお届けいたします」
「ありがとう。南の精霊王様と愛し子様たちへ贈ったものとお揃いです。どうか、よろしくお伝えください」
「はい。きっとお喜びになると思います」
サラナは大切そうにイヤーカフを包み、深く一礼して部屋を後にした。
こうして、西の精霊王様への贈り物は託された。
…ー…ー…ー…ー…ー…
その頃、西大陸ランボトル精霊国の王城では、国王リヤンガによる正式な発表が準備されていた。
今回の知らせは、国王自らが国民と世界中の人々へ伝えるべき、大切な慶事だった。
発表文書には、西の精霊王様の愛し子様に『運命の番』が見つかり、すでに『命環の契』を交わしていることが記されていた。
その一方で、愛し子様は未成年であり、現在は勉学に励んでいる。
そのため、相手の身元は公表せず、婚約式をはじめとする催しも一切行わない方針が示されていた。
発表の内容が整うと、国王の名を記した正式な文書が各国へと送られた。
王城や主要都市の掲示板には次々と告知が掲示され、遠く離れた地域にも知らせが届けられていく。
さらに、世界各地の新聞社にも発表内容が伝えられ、各紙はこの知らせを一面に掲載した。
国王リヤンガは、発表文の最後に、国民と世界中の人々へ向けた言葉を添えていた。
『西の精霊王様の愛し子様に『運命の番』が見つかり、すでに『命環の契』が交わされたことを、心より祝福する。
愛し子様は未成年であり、今は学びを重ねる大切な時期にある。
そのため、相手の身元を詮索することも、根拠のない噂を広めることも慎んでほしい。
二人には、これから歩んでいく未来がある。
周囲の好奇心によって、その日々が損なわれることのないよう、温かい心で見守っていただきたい。
妖精様や精霊様は、いつでも私たちを見守ってくださっている。
そのことを忘れず、二人の幸せを静かに願い、祝福してほしい。
また、我が国だけでなく、世界中にいらっしゃる妖精様や精霊様を大切にし、自然と日々の恵みに感謝する心を忘れないでいただきたい。
私たちが暮らす世界の安定と、精霊王様たちが穏やかに過ごせる日々を願おう。
自然を愛し、命を慈しみ、互いの幸せを祈り合うこと。それが、世界の平穏を守る力にもなる。
すべての命が安心して暮らせる世界を、皆で共に守っていこう』
この発表は、世界各地で大きな反響を呼んだ。
新聞各紙は、西の精霊王様の愛し子様に『運命の番』が見つかったことを慶事として報じた。
すでに『命環の契』が交わされているという知らせに、人々は驚きと喜びを隠せなかった。
精霊王様の愛し子様に訪れた幸せを祝福する声が、各地から上がった。
一方、相手の身元は公表されず、婚約に関する催しも行われないことが明確に示されていたため、王族や貴族たちも国王の意向を無視することはできなかった。
何より、精霊様や妖精様を大切にするよう求めた言葉は、精霊王様を敬う人々にとって、軽視できないものだった。
掲示板の前で発表を読んだ者たちは、隣にいる人と顔を見合わせながら、二人の幸せを願った。
新聞を手にした者たちも、相手の名を探るのではなく、愛し子様が安心して学び、健やかに過ごせることを願うようになっていった。
世界に届けられたのは、ただ一つの慶事の知らせだけではなかった。
大切な人の幸せを守ること。妖精様や精霊様への感謝を忘れないこと。
そして、自然と命を慈しみながら、皆で穏やかな世界を築いていくこと。
国王リヤンガの発表は、人々に改めてその大切さを伝えるものとなった。
それでも、世界中から寄せられる祝福は、二人の未来を静かに包み込むように広がっていった。




