422 大切な人を守る銀のイヤーカフ
銀色の光に包まれた二つのイヤーカフを前に、ルノアは静かに言葉を紡いだ。
「精霊王様の愛し子様であるお二人に、心身の健康、保護、癒しを。
体力、気力、精霊力、魔力の強化。
聖域の自己浄化力と結界力の強化。
そして、あらゆる悪意、言霊、呪い、術式を返す守護を」
ルノアの言葉に応えるように、二つのイヤーカフが強く輝いた。
「大樹の形をした神水魔石をつけて」
その瞬間、イヤーカフに取り付けられた神水魔石の表面に、美しい大樹の姿が浮かび上がった。
大樹の根は大地の深くへと伸び、湖へとつながっている。大地を抱くように広がった根が森と湖を結び、豊かな土地を支えていた。さらに、根元から美しい同心円の波紋が広がっていく。
ルノアは二つの魔石を見比べ、満足そうに微笑んだ。
大樹と湖を結ぶ意匠は、命を分かち合った二人にふさわしい。
互いに支え合いながらも、それぞれの意思で歩んでいけるよう、二つの絵柄は対になるように仕上げてあった。
「ヴァリー伯父様、リシュー。できました」
ルノアは完成したイヤーカフを二人に差し出した。
「南の精霊王様と同じ絵柄にして、お二人には対になる絵柄を選びました。
後でラド様と私で、西の精霊王様にも同じ絵柄のイヤーカフを作ってお渡ししますね。
サラナ、お願いしてもよろしいですか?」
「はい。畏まりました」
サラナが丁寧に頭を下げる。
ヴァリアードは受け取ったイヤーカフを手に取り、細部まで確かめた。
美しい意匠だけでなく、ルノアが施した守護の力も十分に感じ取れる。
リシューも、手渡されたイヤーカフを大切そうに見つめていた。
「本当におめでとう。これからよろしくお願いしますね、リシュー」
ルノアが微笑みかけると、リシューは嬉しそうに顔を上げた。
「こんなにすごいものを……ありがとう。ルノア。こちらこそ、よろしくお願いします」
その返事を聞いたルノアは、二人のイヤーカフを指さした。
「それから、このイヤーカフには、ほかにも大切な機能をつけてあります」
「ほかにもあるのか?」
ヴァリアードが尋ねると、ルノアは頷いた。
「はい。まず、お互いの『運命の番』にしか外せないようにしてあります。
ご本人でも、ほかの人でも外せませんので、無理に奪われる心配はありません。それから、学院内では見えないようにしてあります。
ただし、学則がありますので、魔術学院にはきちんと報告してくださいね」
「なるほど。普段の生活にも配慮してあるのだな」
「はい。さらに、二人が眠っている間に、お互いの魔力を少しずつ補充し合えるようにしました。
どちらか一方に負担がかからないよう、それぞれの状態に合わせて調整する仕組みです」
リシューは驚いたように目を見開いた。
「眠っている間にも、ヴァリアードの魔力を受け取れるのですか?」
「はい。ヴァリー伯父様は精霊魔法も使えますが、普段は膨大な魔術魔力を使うことが多いでしょう?
一方で、リシューは精霊魔法を無限に使えます。
お二人では魔素や魔力の扱い方が異なるため、通常なら調整が難しいです」
ルノアは少し考え、説明を続けた。
「そこで、命環の調整機能を透視して確認しました。
異なる魔力を無理なく補い合えるよう、その仕組みをイヤーカフに応用したのです。
お互いに魔力を無理に奪うことはありませんので、安心してくださいね。
どちらかが危険な状態になったときには、相手を補えるようにしてあります」
二人が納得したのを確かめると、ルノアは少し真剣な表情になった。
「そして、いちばん大切な機能があります」
ヴァリアードとリシューは、改めてルノアに視線を向けた。
「もし危険が迫り、魔力封じや精霊魔法封じをかけられても、このイヤーカフの機能だけは使えるようにしてあります。
外部から魔力や精霊魔法を封じられても、イヤーカフそのものの機能までは止められません」
「……何だと?」
ヴァリアードの表情が変わった。
ルノアは気にする様子もなく、説明を続けた。
「危険を感じたときには、対になったイヤーカフを通じて、お互いの居場所が分かるようになっています。
さらに、相手のいる場所へ移転できる機能もつけました」
「居場所を把握するだけでなく、直接移転できるのか……?」
「はい。危険なときには、移転するための魔力さえ十分に残っていないかもしれません。
ですから、余裕があるときに魔力を蓄えておけるようにしました。
それから、移転先の状況や安全性も透視確認できるようにしてあります」
ルノアは少し照れたように微笑んだ。
「ラド様が危険な目に遭ったらと考えると、これだけでは足りないのではないか、ほかにも対策が必要なのではないかと、どんどん過保護になってしまいました。私たちのイヤーカフも、さらに進化させているところです」
リシューはイヤーカフを握りしめ、ヴァリアードを見上げた。
「私でも、もしものときに、助けに行けるのですね」
「そうだな……」
ヴァリアードは手の中のイヤーカフを見つめたまま、しばらく言葉を失っていた。
魔力を補充し合う仕組み、魔力封じへの対策、居場所の把握から移転までを可能にする機能。
それらを小さな装飾品に組み込み、二人の安全を第一に考えて仕上げるなど、並大抵の技術では実現できない。
ヴァリアードは、驚きを隠せないままルノアを見た。
「……ルノア、また腕を上げたな」
「そうでしょうか? 教本を発展させただけですよ。ヴァリー伯父様の教本です」
「そうなのか……。また、どの理論を使ったのか教えてくれ。検証してみる」
ヴァリアードは苦笑した。
「これだけの機能を組み込みながら、互いの魔力まで調整するとは……」
かつては、自分が教えられることも多かったはずだ。しかし今では、ルノアが次々と新しい技術を生み出し、自分の想像を超える魔道具を作り上げている。
「俺も、まだまだ学ばなければならないな」
その言葉には驚きだけでなく、身近な者が成長していくことへの喜びも込められていた。
クロリナラドも、そんなヴァリアードの様子を見て苦笑した。
「ノアは、これからもどんどん先へ進むだろうな。俺たちも負けていられないぞ」
「まったくだ」
ヴァリアードは頷き、改めてイヤーカフを見つめた。
これほどの守護を与えられたのなら、自分もそれに見合う力を身につけなければならない。
リシューを守るためだけではない。互いに支え合い、安心して未来を歩んでいくためにも。
「ルノア、ありがとう。大切に使わせてもらう」
「お二人を守るために作ったものですから、遠慮せずに使ってくださいね」
そして二人は、お互いにイヤーカフをつけあった。
ルノアは嬉しそうに微笑んだ。
「ルノア、本当にありがとう。これほど心強い贈り物をいただけるなんて……」
「どういたしまして。お二人が元気で、仲良く過ごしてくださるのが、いちばん嬉しいです」
その言葉に、リシューの胸が温かくなった。
こうして二人のために心を込めて贈り物を用意してくれたことが、何よりも嬉しかった。




