415 魔術学院退学のその先 生徒支援課
今年のヨーリアン帝国魔術学院の生徒支援課は、例年にない忙しさに追われていた。
学院改革によって退学者が相次ぎ、退学後の生活や就職を支援する業務が急増したためだ。
生徒支援課には複数の専門部署がある。
その中で退学者を担当するのが、退学者支援係と就業・資格支援係だった。
退学者支援係は、退学理由の確認や面談、生活支援、必要に応じた再教育を行う。
就業・資格支援係は、本人の能力や取得済みの資格を調べ、就職先の紹介や職業訓練を通じて自立を支援していた。
ヨーリアン帝国魔術学院には、各国の魔術学園から推薦された王族や貴族の子どもたちが入学する。
自国では優秀と評価されていても、魔術教育の水準は国によって異なり、学院の授業についていけない者もいた。
学院では、学則違反の累計点が規定に達した場合や、入学から半年後に実施される最初の学力考査で基準を満たせなかった場合、退学となる。
教育課程は厳しく、入学者の三割ほどしか卒業できない年もあった。
半数が卒業できれば、優秀な年といわれるほどだった。
退学者への支援が必要なのは、学業を続けられなくなった学生が、その後の生活まで失う場合があるからだ。
退学者支援係には、家族から援助を打ち切られた者や、帰る場所を失った者も訪れる。
国によっては、退学を機に貴族や、王族の身分を剥奪され、自国にもどることも許されず、国外追放となることもあった。
除籍を告げる書類だけが届き、保護者と連絡が取れなくなる学生もいた。
職員は面談で退学の経緯を聞き取るとともに、所持金や住居の有無を確認し、必要に応じて一時的な滞在先や生活支援制度を案内した。
また、規則違反や差別的な言動が原因だった場合には、本人に問題点を理解させることも重要だった。
身分や家柄を理由に他人を見下していなかったか。
自分の行動にどのような責任があるのか。
必要に応じて再教育を行い、今後の生活を立て直すための助言をしていく。
生活の見通しが立った学生は、就業・資格支援係へ引き継がれる。
紹介できる仕事は、国境の警備、冒険者、ギルド職員、薬草の管理、薬の調合、ポーションの精製、魔法陣の複写、代筆業、魔道具の修理、学院の補助職員など多岐にわたる。卒業資格がなくても、必要な試験に合格し、技術を身につければ就ける仕事はある。
職種によっては住居も用意されていた。
資格や技術が不足していれば、職業訓練や資格取得のための学習を勧め、本人の適性に合った進路を探していく。
入学式の翌日に行われた基礎能力確認試験では、これまで魔道具に頼っていた学生たちの実力が露呈した。結果を受け止めて学習を始める者もいたが、現実を認められず、学院に不満をぶつける者もいた。
「私は貴族だぞ!」
「魔道具を使えると聞いたから入学したんだ。詐欺だ。金を返せ!」
こうした発言の学則違反は特に多かった。
問題は、退学後も続いた。
魔道具によって能力を補っていた学生は、仕事に必要な知識や技術も不足していた。
採用試験に合格できないだけでなく、採用されても実務をこなせず、短期間で辞める者もいた。
さらに、身分意識が抜けず、仕事を選り好みする者も少なくなかった。
「平民と一緒に働きたくない」
「このような仕事は自分がするものではない」
「身分が上なのだから、他人がやるべきだ」
そのような態度では、採用されても職場に馴染めない。
特別扱いを求め、仕事を他人に押しつければ、雇用先からの信頼も失われてしまう。
就業・資格支援係は、不採用となった理由を本人に説明し、必要であれば退学者支援係と連携して再教育を行った。
それでも、自分の能力不足を認めず、紹介された仕事や職業訓練を拒む者はいた。
支援を用意しても、本人が受け入れなければ先へ進めない。
生徒支援課では、退学者の生活相談だけでなく、再教育から資格取得、就職先との調整まで、一人ひとりに合わせた対応が求められていた。
職員たちは、次々と持ち込まれる相談に追われながら、面談室で一人ひとりと向き合っていた。
学院を退学しても、人生が終わるわけではない。
新たな道を歩めるかどうかは、本人が現実を受け止め、変わるための努力を始められるかにかかっていた。




