413 ヴァリアードの課題
第四十五章を読み終えたところで、ヴァリアードが教卓から立ち上がった。
「ここからは実物を使う」
片手を軽く上げると、淡い光が教室を走った。
次の瞬間、生徒たちの机に、一つずつ魔道具と設計図と魔空間鞄が現れる。
「今、転移させたものを確認しなさい」
机に置かれた照明器具は、全員違っていた。
生徒それぞれの知識や技術に合わせて、難易度の異なるものが用意されている。小さな卓上照明もあれば、壁に取り付けるもの、複数の魔法陣を組み合わせたものもある。
設計図も、それぞれの魔道具に対応していた。
一枚に収まるものもあれば、内部構造まで細かく描かれた大きなものもある。
その中でも、ルノア、リシュー、ルルの机に届いた照明は、ひときわ豪華だった。
装飾の施された台座に大きな魔力石が組み込まれ、その周囲には複数の小さな魔石が配置されている。
魔力を流すと中央だけでなく、周囲の装飾まで連動して輝く仕掛けになっていた。明るさや光の広がりを変える魔法陣も、いくつも組み込まれている。
設計図は何枚もの紙をつないだような大きさで、魔力石の位置から魔法陣の構造、魔力の流れまで細かく記されていた。
「すごい……綺麗……」
ルルが思わず声を漏らす。
「細かく書かれてる」
リシューも設計図を眺めた。
ルノアは照明を手に取り、裏側を確認する。
ヴァリアードは全員を見渡した。
「今日の課題は、この照明を夜に長時間使えるよう改良することだ」
黒板に三つの言葉を書く。
『明るさ』『魔力消費』『安全』
「必要な明るさを保ちながら魔力の消費を抑え、安心して使える形を考えろ。方法は一つではない」
一人の生徒が手を挙げた。
「魔力石を大きくすれば、長く使えるようになりますか?」
「可能性はある」
ヴァリアードは設計図を見ながら答えた。
「だが、それでは魔力の消費そのものは変わらない。長く使うために、他に何ができるか考えてみろ」
「……はい」
他の上位成績者の照明も大きさは異なるが、設計図は皆大きい。
しばらくすると、ギルトが手を挙げる。
「全ての魔法陣を変えて、魔力が無駄に使われている部分を減らすことは可能ですか?」
「できる可能性はある。ただし、魔法陣にはそれぞれ役割がある。
必要なものまで消せば、別の問題が起こる可能性がある。
では、今の性能を最低限残すこと。
発展的な思考で使いやすく仕様変更も、全ての魔法陣の書き直しも、可としよう。
魔道具の設計図が得意な者には簡単な課題だ。」
「分かりました」
ギルトは頷き、設計図へ向き直った。
それ以上、ヴァリアードは答えを与えなかった。
生徒たちはそれぞれの魔道具に向き合い始める。
単純な構造の照明を受け取った生徒は、魔力の無駄を減らす方法を考えている。
複雑なものを受け取った生徒は、いくつもの魔法陣の役割を確認し、変更できそうな箇所を探していた。
ルノアは机いっぱいに設計図を広げ、魔力石から伸びる魔力の流れを追っている。
リシューは実際に照明を動かし、光の広がり方を確かめていた。
ルルは装飾部分に組み込まれた魔法陣をじっと観察している。
それぞれの魔道具に違った工夫が施されているため、改良方法も同じにはならない。
ヴァリアードは口を挟まず、生徒たちの様子を見守っていた。
「設計図は、次の授業の二日前までに書き直し提出とする。」
ヴァリアードが告げる。
「実物を参考にして、自分が考えた改良を形にしなさい。魔法陣を変えるなら、その形まで描くこと。
魔力の流れを変えるなら、それも分かるようにしておくこと。質問はあるか?」
生徒たちは真剣に頷いた。
「それから、次の授業までに九十章まで予習して読んでくること」
ヴァリアードは教科書を指した。
「次の授業で使う。時間があるうちに進めてきなさい。」
生徒たちはすぐに教科書を開いた。
第四十六章から読み始める。
静かな教室に、ページをめくる音が重なっていく。
照明の設計図を横に置いて読む者もいれば、魔法陣について書かれた部分に印をつける者もいる。
全員がそれぞれのペースで読み進めていた。
やがて終了の鐘が鳴る。
「今日はここまでだ」
ヴァリアードが告げる。
「九十章まで忘れずに読んでくること。
課題の照明の改良設計図は、次の授業の二日前までに、教務部にある特級クラスの提出箱へ転送するように」
ヴァリアードは生徒たちを見渡してから、念を押した。
「提出期限は、指定された日の二十四時までだ。期限を過ぎると提出箱は受け付けなくなる。
未提出は個人ごとに記録されるから、気をつけなさい」
そこで一度言葉を切り、さらに続けた。
「遅刻も欠席も課題の未提出も、すべて学則違反として加点対象になる。
違反点数が累計で規定に達すれば、停学処分になるからな。くれぐれも忘れないように」
「はい!」
生徒たちは、提出期限と学則を頭に刻むように頷いた。生徒たちは教科書を閉じ、机の上の照明を魔空間鞄へ入れた。
「その照明は魔空間鞄に入れて持ち運べるようにしてある。寮へ持ち帰って構わない」
生徒たちがほっとした表情を見せる。
「ただし、魔術学院の外に持ち出すのは学則違反だ。そこは注意しなさい」
一人の生徒が慌てて手を挙げた。
「先生! もし紛失したら……。こんな高価なもの、弁償できません!」
ヴァリアードは苦笑した。
「ああ……それなら心配するな。落としても盗まれても、持ち主のところへ戻るよう設定してある」
「よかった……」
「ただし、帰省の移動門には入れるなよ。学則違反として加点されるからな」
ヴァリアードは念を押した。
「頼むぞ。毎年、一人はいるからな……」
その言葉に、生徒たちから小さな笑いが起こった。
こうして授業は終わり、生徒たちはそれぞれ魔空間鞄を持って教室を出ていった。
ところが、その日のうちに五名の生徒が体調を崩した。特級クラスでの授業を続けることが難しいと判断され、五名は上級クラスへ移ることになった。
さらに三名は、自分に合った学習環境を求め、リオンブラン王国への留学を選んだ。
特級クラスには八名の空きが出来たが、次のクラス編成は学力確認試験の半年後となる。




